[宝物をつなぐ]令和の正倉院<1>いにしえの色、無限の表情

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鳥毛立女屏風(とりげりつじょのびょうぶ)(第4扇の一部)8世紀に国内で製作されたとされる。全6扇が一堂に展示されるのは20年ぶりとなる
鳥毛立女屏風(とりげりつじょのびょうぶ)(第4扇の一部)8世紀に国内で製作されたとされる。全6扇が一堂に展示されるのは20年ぶりとなる

 東京国立博物館(東京・上野)で始まった特別展「正倉院の世界」に続いて、「第71回正倉院展」が26日、奈良国立博物館で開幕する。天皇陛下の即位を記念する二つの展覧会に出品される至宝の魅力を、令和へとつなぐ人々の姿と共に描く。

       ◇

ふくよかな「天平美人」が樹下で静かにたたずむ。

 「鳥毛立女屏風とりげりつじょのびょうぶ」。その名は女性の衣や樹木にヤマドリの羽毛が貼られていたことに由来し、今も、その名残をわずかに衣の胸元にとどめている。

 描かれてから1300年の時を経て女性の姿はいよいよなまめかしい。眉を黒く太く描き、頬には薄い紅。一層濃い朱色の紅で、小さな唇を彩る。当時、唐で流行していた最新のメイクとされ、繊細な色遣いが悠久の美を今に伝える。

 赤い色と一口に言っても濃淡で表情は様々に変わる。「」「赤」「紅」「蘇芳すおう」――。古代の人々がいかに呼び分けたかが出展宝物の「国家珍宝帳こっかちんぽうちょう」(東京・前期展)からうかがえる。光明皇后が、奈良・東大寺の大仏に献納した夫・聖武天皇の遺愛品のリストであるそこには、微妙な色の違いが宝物の多くに特徴として記されている。

 緋色。赤系統の中でも奈良時代にとりわけ高貴とされ、国家珍宝帳に最も多く登場する色。そんな色を令和の今によみがえらせるべく取り組む人がいる。

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幻の赤 世界染める日

杉本さん(左から2人目)と一緒に染色を体験するオランダの女性たち(8日、大阪府忠岡町で)=浜井孝幸撮影
杉本さん(左から2人目)と一緒に染色を体験するオランダの女性たち(8日、大阪府忠岡町で)=浜井孝幸撮影

 みずみずしい緑の葉が陽光の中、山間の広大な畑に列をなしていた。

 9月中旬、京都府福知山市。染織家の杉本一郎(67)(大阪府忠岡町)は収穫期を迎えた「日本あかね」の生育の様子に目を細めた。10年前に栽培を始め、今年、収穫量が初めて100キロを超えた。「これだけあれば、たくさん染められる」。理想の色を再現できる日も近いと、手応えを感じた。

     ◎

 日本古来の多年生植物である日本茜は、乾燥させた根が色の染料となる。奈良時代、高貴な色としてもてはやされたが、室町時代以降、日本茜による緋色は衰退する。代替染料の登場に押されたからだ。

 そんな「幻の色」に杉本が出会ったのは、十数年前の正倉院展。「夕焼け空のように、鮮やかで優しい色」の絹織物に息をのんだ。「この色を自分の手で再現したい」。そう決心し、10年前、勤務先の会社を早期退職した。

     ◎

 日本茜は市場にほとんど出回らず、栽培に3年かかる。絹1キロを染めるには同じ重さの根が必要だ。最初は地中の根を掘り出すにも難渋し、「3年で150グラムしか取れなかった」。根が異なれば微妙に色合いも違い、理想の色に容易に近づけない。悔しさが募った。

 耐久性をどう保つかも難題だった。日本茜のような草木染の服は強い日差しに変色しやすい。「どうすれば『鳥毛立女屏風とりげりつじょのびょうぶ』のように長年、鮮やかな色を保てるのか」と煩悶はんもんした。

 今年2月、東京工業大名誉教授の小見山二郎(83)との出会いが転機となる。「日本茜で色を長持ちさせる方法がありますよ」。小見山の言葉に杉本は驚いた。

国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)(部分)聖武天皇の遺愛品約650点を記した長さ約15メートルの巻物で、宝物の由緒などを知ることができる
国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)(部分)聖武天皇の遺愛品約650点を記した長さ約15メートルの巻物で、宝物の由緒などを知ることができる

 正倉院の宝物リスト「国家珍宝帳こっかちんぽうちょう」に最も多く登場する緋色に、小見山は着目した。その色をまとう宝物は、紫色や紺色のものより色あせ方が浅い。より長く定着させる方法はないか。行き着いたのは、消火剤に使われるミョウバンと、融雪剤の成分の酢酸カルシウムの組み合わせだった。

 小見山の定着液を加えることで、杉本の布に予期せぬ変化が生まれた。小見山の助言を受けつつ、理想に近づき始めている。「目の前の霧が一気に晴れた」

 2人の改良はなお進む。

     ◎

 杉本が活動を発信するフェイスブックに今夏、メッセージが届いた。「日本茜の染色を体験したい」。オランダ人染織家リカ・ホービング(76)からだった。

 今月8日、リカら4人は杉本の自宅工房を訪ね、絹糸を染めた。現れたのは、鮮やかな緋色。「こんな温かい色は見たことがない」とリカは歓声を上げた。

 杉本の目標は緋色に染めた布を「ジャパンレッド」の名で世界に広めることだ。「外国人にも色の美しさは伝わる。海外で緋色が日本を象徴する色になれば」

 1300年の時を超え、天平の色が世界を席巻する日を夢見る。(敬称略)

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849002 0 エンタメ・文化 2019/10/16 22:51:00 2019/10/17 07:27:58 2019/10/17 07:27:58 第71回正倉院展 北倉44 鳥毛立女屏風 第4扇 ※(エトキ・宝物要確認)※ https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/10/20191016-OYT1I50065-T.jpg?type=thumbnail

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