[宝物をつなぐ]令和の正倉院<3>西域の珠玉 永遠の輝き

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礼服御冠残欠(らいふくおんかんむりざんけつ) 歴代の天皇が即位する際に使う冠の手本にされた。鎌倉時代に後嵯峨天皇の即位に当たって持ち出された際に不慮の事故で破損したとされる。
礼服御冠残欠(らいふくおんかんむりざんけつ) 歴代の天皇が即位する際に使う冠の手本にされた。鎌倉時代に後嵯峨天皇の即位に当たって持ち出された際に不慮の事故で破損したとされる。
宝石サンゴの管状のビーズ(中央右)
宝石サンゴの管状のビーズ(中央右)

 琥珀こはくが花を開かせ、それを取り囲むように白い夜光貝の葉が生い茂る。「平螺鈿背円鏡へいらでんはいのえんきょう」(東京・前期展)の背面には、大小様々な花が幾重にも、きらびやかに咲き誇る。

 星くずのようにちりばめられているのは、青いラピスラズリや白いトルコ石。アフガニスタンやイランで採掘され、シルクロードを旅して、中国・唐へとたどり着いた。そんな来歴が目に浮かぶ。

 輝きに満ちた宝物が、正倉院には数多い。「礼服御冠残欠らいふくおんかんむりざんけつ」は約1300年前、聖武天皇や光明皇后の頭上を飾った冠の一部だ。壊れた破片ではあるが、それ自体が豪華なアクセサリーのようでもある。透かし彫りの鳳凰ほうおうは金色の羽を大きく広げ、地中海産の宝石サンゴやガラス玉の連なりが彩りを添える。

 まばゆい光は、いつの時代も、人々の心をとらえて離さない。だが、追い求めすぎると、往々にして失ってしまう。限りある天然資源を守り、未来につなぎたい。そんな模索が始まっている。

        ◇

魅惑の光 絶やさぬ道筋

宝石サンゴを手に持ち、サンゴの保護への思いを語る古井戸樹さん(高知県大月町で)=浜井孝幸撮影
宝石サンゴを手に持ち、サンゴの保護への思いを語る古井戸樹さん(高知県大月町で)=浜井孝幸撮影

 見る人を吸い込むようなラピスラズリの傍らで、紫のアメシストが妖しく、赤いルビーは燃えるように光る。

 名古屋市で今夏開かれた鉱物の販売会会場で、女性客がショーケースを熱心にのぞき込んでいた。お目当てはラピスラズリ。「青い地球のような色が女性の心をつかんでますね」。パキスタン人宝石商のフマユン・マスッド(55)が言う。

平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう) 聖武天皇が愛用した鏡20面のうちの一つ。直径は約27センチ。鎌倉時代に盗難に遭った際に大破したが、明治時代に修復された。
平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう) 聖武天皇が愛用した鏡20面のうちの一つ。直径は約27センチ。鎌倉時代に盗難に遭った際に大破したが、明治時代に修復された。

 「平螺鈿背円鏡へいらでんはいのえんきょう」にもあしらわれたラピスラズリは主にアフガニスタンが産地だ。アメシストならブラジルあるいはスリランカ、ルビーはミャンマー――。世界各地から集まる原石は小さくカットされ、安いもので数百円で販売される。天然鉱物特有の深みのある色彩が「鉱物女子」と称される女性らをひきつけ、販売会は盛況が続く。

 古代、宝石を入手できたのは、天皇やごく一部の貴族に限られていた。「これほどまでに多くの人が、まばゆい宝石を身にまとうようになったのは、日本の歴史上、現代が初めてです」。宝飾史に詳しい日本宝飾クラフト学院理事長の露木宏(71)は指摘する。

        ◎

 その輝きに魅せられるのは日本人ばかりではない。

 「168もんめ(630グラム)、120万8000円!」。9月下旬、高知県香南市で競られていたのは、アカサンゴなど「宝石サンゴ」の原木。主に中国や台湾に輸出され、この日だけでも1億6400万円分の取引が成立した。

 「礼服御冠残欠らいふくおんかんむりざんけつ」(奈良・正倉院展)として地中海産が残る宝石サンゴが今、海外で人気だ。つやのある濃い赤色が幸運を呼ぶとの理由からだという。

 もっとも資源には限りがある。幕末以来の産地である高知沖も乱獲がたたり、2017年の漁獲量は、5年前の半分以下の150キロに落ち込んだ。

 「このままでは、サンゴが枯渇してしまう」。サンゴの加工業者らでつくるNPO法人「宝石珊瑚さんご保護育成協議会」の理事長、吉本憲充(73)が頼ったのは、高知沖の生物を研究する公益財団法人「黒潮生物研究所」(高知県大月町)の研究員の古井戸たつき(33)だった。

 水深100メートルよりも深くに生息する宝石サンゴの生態は謎が多い。「時間がかかっても解き明かしたい」。古井戸は段ボール箱ほどの大きさのコンクリート製魚礁に、地元の漁師から無償で提供を受けたサンゴの小片5本を挿して高知沖に沈め、観察することにした。

        ◎

 この3年間で沈めた魚礁は計約100個に達した。流失を心配しつつ沖に向かい、引き揚げては写真に記録した。昨夏、サンゴの枝の数が一つ増えていた。それが1年間の成果ではあるが、「この積み重ねが大切」と熱が入った。11月からは魚礁をさらに増やし、繁殖への道筋を付けていく。

 サンゴが大きく成長するまで最低でも数十年はかかる。それでも古井戸は前を向く。「きれいな海に今から種をまき、未来にサンゴの輝きをつなぎたい」(敬称略)

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852656 0 エンタメ・文化 2019/10/18 23:26:00 2019/10/18 23:26:00 2019/10/18 23:26:00 第71回正倉院展 北倉157 礼服御冠残欠(鳥形金具) https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/10/20191018-OYT1I50057-T.jpg?type=thumbnail

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