別所哲也さん×河瀬直美さん対談「私たちが映画祭でつながる意味」

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 俳優の別所哲也さんが代表を務める国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア 2020」(SSFF&ASIA=9月16~27日)と、映画監督の河瀬直美さんがエグゼクティブディレクターとして生まれ故郷の奈良で2年に1度開催する「なら国際映画祭2020」(NIFF=9月18~22日)。コロナ禍の中の今年、別所さんも河瀬さんも、映画祭の意義をしっかりと見つめ直した上で、映画の祭りをさまざまな人に届けます。

 そもそも映画祭とは何か、映画で何を伝えられるか、継続していくにはどんなことが必要なのかーー。映画祭にかかわり続ける表現者として交流のある2人が、開催前にオンラインで対談。それぞれのビジョンを語りました。(聞き手 文化部・恩田泰子)

本当にやっていいのか?

――コロナ禍の中での開催を決断するまでには、両映画祭とも(しゅん)(じゅん)があったようです。SSFF&ASIAは毎年6月4日の「ショートフィルムの日」に合わせて行われてきましたが、今年は9月に延期しての開催です。

河瀬 今回のこういう事態の中で、こんな時に映画祭をやってどうするんだみたいな意見があるだろうし、自分自身でも本当にやっていいのかとか、いつやるべきかとか、そういう答えが出ない時期が、春先くらいにずっとありました。ソーシャルディスタンスを守らなくちゃいけないから収益もほとんど見込めないし、オンライン配信など、うちにとってみれば初めてのチャレンジをしなくてはいけないし。ただ、それでも継続してやるということが、きっと大事なんだろうなっていうふうに思ったんです。

別所 僕も今回は、(1999年にSSFFをスタートさせてから)一番考えさせられた。20年以上やっているといろいろなことがあって、9・11=米同時多発テロの時は、世界の何かが変わってしまうという中で映画祭はできるだろうかと思ったし、その後、リーマンショックや東日本大震災もありました。ただ、そうした中にあっても、6月開催というのは、一度も絶やさずやってきたので。6月開催を断念するというのは、僕にとって本当に大きな決断でした。

別所さん
別所さん
河瀬さん(photographed by LESLIE KEE)
河瀬さん(photographed by LESLIE KEE)

河瀬 関西人としては、そのお話を聞いて阪神・淡路大震災(1995年1月17日)の頃を思い出しました。当時、自分は20代。自主制作した映画を、単館のミニシアターでレイトショーでかけてもらうとかしていて、3月に上映が決まっていました。自分の映画を見てもらえるようにチラシを自分の手で配ったり、手紙を書いてみんなに送ったり、一生懸命働きかけていたんですが、その時、「こんな非常事態に映画やるってどういうことなの?」って言われたことがあって。「渦中にいる人にしてみたら、芸術とか文化とか言っている場合ではない」と。でも、映画を発表して、人々に何か光のようなものを届けていくっていうことが、私にとってはできることだった。炊き出しに行ったり、そこで痛みを分かち合ったりする役割の人もいるかもしれないけれど、映画作家としては、作ったもので、みんなが勇気づけられるような形ができるといいなと思っていました。

別所 僕、今日、初めて言うんですけれど、映画祭の開催を延期した後、本当にできるかな、いっそのこと中止にしてしまったほうが、みんなにとって幸せなんじゃないかなとか、ものすごく葛藤がありました。こういう状況の中で、エンターテインメントとか映画の祭りとか言っていること自体が不謹慎なことなんじゃないかなって。

河瀬 はい。

別所 ただ、僕は、河瀬さんからすごく勇気をもらった。河瀬さんは東京五輪の記録映画の監督でもあるから、五輪延期決定の前、「この後、どうなってしまうかなあ」ってお話をされていて、その時、僕、すごく長い文章をネットでお送りしたんです。「こういう時だからこそ、誰も世界から来られなくても、オリンピックの精神って、世界とどんな時でもつながる力を持っている。つながろうとするエネルギーが大事だと思うから、何かやりましょうよ」って。河瀬さんが、この聖火の光はどうなるんだろうかということを話された時、自分でも、一度ついた炎を次に生かすことをやらなきゃいけないなと思ったんです。

つながりが力を生む

リモート対談をする河瀬さん
リモート対談をする河瀬さん
リモート対談する別所さん
リモート対談する別所さん

別所 それで、映画祭の主催者、責任者として、僕も考え方を、変えたんです。映画の祭りを、1日だけとか1週間だけ、リアルでやるだけじゃなくて、6月4日のショートフィルムの日、もともと映画祭が始まる日だった日にトークイベントをやって、そこからリスクを分散して、細長くオンライン上で、映画の祭りと、世界と、つながっていこうと。それは、やっぱり、河瀬さんと相談しながらだったから、やれたこと。同時に、「なら国際」をやるころに(リアルな映画祭を)やったろうっていう気持ちになった。

河瀬 ははは。

別所 もう一つは、時を同じくして、ドイツで「コロナ短編映画祭」というのを始めた人がいた。セルビア系のデヤン・ブチンという俳優なんですけれど、彼は「何かこういう時にしなきゃいけない」って言って、世界中の映像作家をつなぐ映画祭をたった数人でオンラインで始めた。すぐに連絡をとってみたら、偶然なことに、彼の出演作が2017年のうちの映画祭で上映されていて、来場もしてくれていた。その彼の行動を知って、何かできることをできる範囲で元気な人が元気ななりにやらないと、みんなが沈んじゃうし、みんなで後ろ向きになっちゃうなと。その二つがすごく大きかったです。

河瀬 素晴らしい。ドイツの彼が日本に来て、ショートショートさんに参加して、今、自分で映画祭を立ち上げて、それを見つけた別所さんがまた連絡をとって……って、なんかこう、地球をめぐってる感じですね、その精神が。

別所 映画祭っていう祭りを通して世界とつながっていたことが、また次を生み出し、また誰かとのつながりを作っていくっていう。

大仏様の精神

――今回のNIFFは、世界遺産・東大寺にレッドカーペットを敷き、さまざまなゲストや、映画祭を支えるレッドカーペットクラブの会員が大仏様に参拝。その後、春日野園地に会場を移してオープニングセレモニーを行います。

河瀬 今年、うちの映画祭の場合は、ホールの中でオープニングセレモニーをやるのは、ちょっともう全然違うねって話していました。ソーシャルディスタンスが必要ということもあるから、オープンでやるっていうのもいいかなってなった時に、すぐに、「それはもう大仏さんやろ」って。

別所 ははは。

河瀬 世界遺産だし、大仏殿のお庭にレッドカーペットって夢のまた夢と思っていたんですけれど、ダメ元で。実は、最初のころから、やりたかったんです、おそれおおくも宿っている精神も似ていると思って。聖武天皇の盧舎那造顕の(みことのり)は、まず、自分には大仏をひとりで造る力があると言っているんですね。権力だって、財力だってある。でも、みんなで造ろうよって。生きとし生けるものみんなの命の輝きがすっと反映される世界が自分たちの目指すべきところだよね、と。それは、今のコロナの時代にも求められる思想なんじゃないかと私は思うんです。

別所 僕らは僕らでずっと明治神宮さんとつながりながら映画祭をやってきています。原宿の表参道で映画祭が生まれたっていうのもあって。今年は鎮座100年っていう歴史的な年なんですね。そういう時にこの映画祭を国際発信する時に、明治神宮からできるっていうのも、僕らにとって大きなこと。今の河瀬さんのお話を聞いていて、お互い、いい意味で、祈りとか、願いとか、精神的な部分っていうのは、やっぱりつながっていくものがあるんだなあって思います。このマインドフルネスの時代に。

河瀬 コロナで全世界がこういうふうになっているということは、今、全世界が共通の問題を抱えていて、その共通の問題に向かってみんなが知恵を出し合ってつながり合える、逆に言うとチャンスじゃないですか。

別所 その通り。

河瀬 そういう時にこそ、だからやっぱり映画祭は絶対やるべきやなっていうふうに、なら国際映画祭も改めて思いました。これまでは見つめ返す時間というのがほとんどなかったのですが、今回、コロナになって「トレハンジェクト」というプロジェクトを始めました。(「トレハンジェクト」はこちら 外部のサイトが開きます)

別所 トレジャーハンティングプロジェクトですね。

河瀬 別所さんもやってくれたけれど、これまで参加してくれた人たちに、映像を通して、それぞれの大切なものをつないでもらっている。私たちの映画祭は2年に1回開いていて、今度で6回目なんですけれど、200人近くの人たちがゲストとして来てくれていて、そういう人たちに改めて連絡をとって、再び連絡を取り合う仲になるわけです。「それこそが私たちの宝物やん」ってみんなで言い合いました。

別所 いや、本当に人が宝だなって、こういう時だからこそ、考えるし、感じますよね。僕も映画祭を通じて、人とのつながりがこんなにもいとおしくて、大切なものなのだと。今は会えなくて離れているから、リアルの大切さもわかるし、オンラインのありがたさもわかる。オンラインでつながれることが、どれだけ人間らしい気持ちを呼び起こしてくれることか。本当に会えたらそれに越したことはないんですけれど、まさに宝探しが一緒にできている感じでしたよ。

次の世代に手渡したいもの

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1470989 0 エンタメ・文化 2020/09/12 05:01:00 2020/09/12 05:01:00 2020/09/12 05:01:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200909-OYT1I50042-T.jpg?type=thumbnail

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