奇妙で多彩な音…「鉄腕アトムの足音」生みの親、アナログ手法で近未来ライブ

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 瞳を「キラッ」と輝かせ、ポーズを「シャキーン」と決める――。テレビアニメの世界は、実在しない数々の音で豊かに彩られている。その「この世ならざる音」を作る手腕で、日本アニメを黎明れいめい期から支えてきたのが京都市在住の音響デザイナー、大野松雄さん(90)だ。国産アニメの第1号・鉄腕アトムにも携わった音の職人は、卒寿を迎えた今、ライブ会場で不思議な音を繰り出し、聴く人を魅了している。(松田智之)

オープンリールのテープレコーダーで「演奏」する大野松雄さん(4日、京都市左京区で)=土屋功撮影
オープンリールのテープレコーダーで「演奏」する大野松雄さん(4日、京都市左京区で)=土屋功撮影

 ピュイーン、ポワポワ――。10月4日、京都市左京区のクラブ「METRO」の薄暗いフロアを、奇妙で多彩な音が満たしていた。旋律はなく、即興の音が織りなす独特の世界。100人ほどの聴衆はドリンクを片手にゆったりと耳を傾けていた。

 スポットライトが照らすステージに立っていたのは大野さん。手元にあるのは、楽器ではなくレトロなオープンリールのテープレコーダーだ。単調な音が録音されているだけだが、再生しながら、リールを手で押さえて回転速度を調整。楽器さながらの音程と抑揚を自在に生み出していく。

 手元のタブレット端末にも中華鍋をたたく音を加工するなどした様々な「効果音」が仕込まれ、時折繰り出し、アクセントを与える。

 若者の集まるナイトスポットに登場した白髪の老人のパフォーマンスに、聴いていた男性は「アナログな手法なのに近未来の音楽みたい。びっくりしました」と、目を丸くしていた。

 「架空の音にこだわり続けたら、いつの間にか『卒寿』。人間を『卒業』する時も近いかな」。「演奏」を終えて照れたように笑った大野さんは、業界ではかなりの有名人だ。

 東京生まれ。戦後に劇団の文学座を経て、NHKで音響技術を学んだ後に独立。その名を一躍高めたのが手塚治虫が制作したアニメ・鉄腕アトム(1963~66年)の主人公の足音だった。

大野さんが効果音制作を務めた鉄腕アトム(c)手塚プロダクション
大野さんが効果音制作を務めた鉄腕アトム(c)手塚プロダクション

 ピョコッ、ピョコッ――。21世紀の少年ロボットは、およそ足音らしからぬ、かわいらしい音を鳴らして歩いた。当初は「コツコツ」という実際の足音を使ったが、「誰も見たことない世界。ならば誰も聞いたことがない音なんじゃないか」と、マリンバの音が入ったテープを手動で反転再生させ、生み出したという。

 パソコンもシンセサイザーもないアナログ時代。「ある音」から「ない音」を作る技はもちろん、その自由な発想に周囲は舌を巻いた。アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズなどを手がけた音響デザイナー・松田昭彦さん(68)は「大野さんの『音の発想力』に日本中のアニメーターが刺激を受けた。今のアニメが描く未来世界の源流に、あの足音がある」と語る。

 大野さんは数々のアニメ作品に関わる一方、1985年の「国際科学技術博覧会」(つくば万博)や89年のアジア太平洋博覧会など、世界的なイベントにも音響デザイナーとして関わった。

 「裏方」を務めてきたキャリアに転機が訪れたのは、一線から既に退いた70歳の頃。シンガー・ソングライター矢野顕子さんとの活動で知られる電子音楽家、レイ・ハラカミ(2011年死去)の依頼で楽曲のリミックス(再編集)を担当した時だ。

 作品世界を彩る「音響」ではなく、音が主役となる「音楽」に触れ、新たな創作意欲がわき始めた。

 2009年、東京のイベントに招かれて効果音を使った即興演奏を披露。79歳での「ライブデビュー」だった。その後も誘いがあると出演するようになり、今年は4日のライブが2度目だった。

 大野さんが手がけた効果音や音響作品は、CDとして発売されたこともあり、今年9月にも新譜を発売した。腎臓を患い、2年前から週に3度透析治療に通う日々で、コロナ禍で次のライブの予定はまだないが、「命があるかぎり、面白いと感じることを信じて、突き詰めていくだけ」。音響技術の「巨匠」は、変わらぬ意欲に満ちあふれている。

 ◆音響デザイナー=アニメやドラマ、演劇などで音楽や効果音の選択、音づくりを担い、作品に臨場感を持たせる。ざるに小豆を入れて波の音を再現するなど、録音機材の普及前には効果音の創作が盛んに行われた。古くは「効果マン」と呼ばれた時代もあった。

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1571714 0 エンタメ・文化 2020/10/23 15:18:00 2020/10/23 15:35:10 2020/10/23 15:35:10 オープンリールを操作して演奏する大野松雄さん(4日午後5時8分、京都市左京区で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201023-OYT1I50047-T.jpg?type=thumbnail

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