寸分たがわぬSL、段ボール4千箱で再現…元建築士のカミ技 

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 レールのはるか上にある運転室は2階を見上げるように高く、バス2台分の長さがある車体は城壁のようだ。蒸気機関車D51、通称デゴイチはまさに鉄の塊……ではなく、段ボールの塊だ。段ボール工芸家の島英雄さん(71)が4000個の段ボール箱から作った。作品も桁外れなら、作った理由もどこか超然としている。「段ボールの可能性を知ってもらうには、『こんなものが作れるのか』と驚いてもらうのが早いから」(紙WAZA編集長 木田滋夫)

大病きっかけに「作ってみるか」

 建築士だった島さんが段ボール工芸家になったのは、45歳のときに大病を患ったことがきっかけだ。やり残すことがないよう医師に助言され、こう応じた。「それならSLでも作ってみるか」。療養を経て7年後に復職し、60歳で経営する建築設計事務所を譲ると、SL制作に取りかかった。

デゴイチの運転室。重厚なプレートも段ボール製だ
デゴイチの運転室。重厚なプレートも段ボール製だ

機関区で「採寸」に熱中…少年時代

 少年時代、夢中になったのがSLだった。機関区に通って何時間も眺めた。特に熱中したのが「採寸」だ。「竹定規を車輪や連結器に当てて隅々まで測ったね」

 愉快な思い出がある。小学生の頃、東京にあった交通博物館では鉄道模型のコンテストがたびたび開かれていた。真ちゅう製の精巧な手作り車両を持ち込んで優勝するのは大人ばかり。真っ向から勝負しても勝ち目はない。そこで実寸大の連結器を作ることを思いついた。採寸で集めたデータをもとに、木や厚紙で忠実に再現した。機関区の職員に見せると、「本物と同じ油を塗ってやろう」。実物と見まがうばかりの連結器は、もちろん優勝した。

移住、制作10か月

 SLを段ボールで作ることに迷いはなかった。建築士時代、たびたび段ボールで建物の一部を実寸大で試作しており、扱い慣れた素材だったからだ。公園や博物館でデゴイチを採寸し、設計図を描いた。分解して運搬・保管できるよう、はめ込み式の構造とした。

本物そっくりに再現されたデゴイチの動輪
本物そっくりに再現されたデゴイチの動輪

 大量の段ボール箱は、長崎県南島原市の廃業した青果市場が提供を申し出た。輸送費を省くため、現地に引っ越して制作を開始。箱を平らに開き、カッターで部品を切り出した。そして10か月後の2013年12月に完成。近所の倉庫で組み上げると、全長約20メートル、高さ約4メートルの巨体が姿を現した。切り込みを入れて曲げた段ボールはボイラーの滑らかな曲面を描き、複雑な車輪周辺の機構は本物と同じように動かせる。

段ボール製のレール。断面形状は本物と同じ
段ボール製のレール。断面形状は本物と同じ

 同県東彼杵(ひがしそのぎ)町のホールに展示すると、ニュースを見た全国の自治体や商業施設から声がかかり、千葉や広島など約70か所で巡回展示した。

心血注いだ4両、熊本のホテルに

 16年5月には、2両目のSL「C62」の制作に着手。巡回展示を手伝った縁で、九州ダンボール(福岡県筑後市)が作業場と新品の段ボールシートを提供した。工作機械で切り出された部品は繊細で、点数はD51の倍近い3000点。車体の重量は約3トンに及んだが、重みでつぶれないのは「入念に構造計算をしたから」。上に行くほど幅が広くなる車体を支えるため、寺院建築の技術を応用した。

 昨年までに制作したSLは4両。病気の影響で視力が低下し、もうSLは作れない。エネルギーのすべてを注いだ4両は熊本県のホテルに展示され、訪れる人を驚かせ続けている。

 「軽くて丈夫な段ボールは優れた素材で、箱にするだけではもったいない。SLを見た人が新しい用途を思いつく、そんなきっかけになればうれしい」

災害用の洋式便座
災害用の洋式便座

段ボールの新たな用途提案

 島さんと九州ダンボールは、SL制作で培った加工技術や、C62に使った薄く丈夫な段ボールを活用し、雑貨を開発している。キャリーケースや肩掛けバッグ、災害用の洋式便座など、段ボールの新たな用途を提案するものばかりだ。来年には商品化を予定している。

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1578795 0 エンタメ・文化 2020/10/26 16:19:00 2020/11/24 17:00:03 2020/11/24 17:00:03

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