植田まさしさんの仕事場大公開…コボちゃん「新記録」最多1万3750回
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読売新聞朝刊の四コマ漫画「コボちゃん」が1月7日、連載1万3750回となり、一般全国紙の連載漫画として最多の記録を達成しました。東海林さだおさんの「アサッテ君」(毎日新聞、1974~2014年)を超えました。作者の植田まさしさんは、「ぎりぎりまで面白いアイデアを考えたい」と、翌朝に掲載される漫画を毎日1本ずつ描くスタイルを貫いています。その制作過程をルポするとともに、漫画家の東海林さんと、「コボちゃん」ファンでエッセイストの能町みね子さんにお祝いイラストやメッセージをいただきました。また、記事の最後に、「『コボちゃん』オリジナルグッズ」プレゼントの案内があります。(取材・読売新聞文化部 山田恵美、撮影・写真部 岩佐譲、富永健太郎)
今日は何にしようかな…7畳半の仕事場は“コックピット”
10:30【起床】
11:00【アイデアを練る】

座ったまま何にでも手が届く7畳半の仕事場は、まるでコックピット。「さて、今日は何にしようかな」。ネタ探しは、四コマ目のオチにつながる「モノ」を決めるところから。パソコンでよく検索するのは、自治体の「ごみ分別事典」。家にある「モノ」が列挙されていて、“家庭マンガ”のネタ探しにもってこい!「調布市のが見やすいんだよね~」

「つっぱり棒なんて、どう?」。浮かんだアイデアを書き留めておくノートは519冊目。「漫画家やめたら誰かに売ろうかな?なんちゃって」。とにかく絵を描いてみる。ここで「ピコン!」とヒラメキが。「棒じゃなく、コボちゃんが壁につっぱっちゃうとか……。まてよ、おじいちゃんの方がもっと面白いか」

季節の行事を月ごとに書き出したカード。以前のネタ集めは、こうしたカードや職業別電話帳の目次などから。「効率悪いよね。インターネットが進化して、漫画家生命が劇的に延びたの」

過去の「コボちゃん」をキーワードごとに分類した「ダブり防止カード」で、似た話を既に描いていないかも念のためチェック。「雑誌含め作品数が1万本を超えたあたりで、年に1回ぐらい同じような話を描くようになっちゃって」
描き方は「全部自己流」、顔は目からスタート
12:30【下描き】

眼鏡を替える。「漫画の描き方を人に教わったことがないから全部自己流」。顔は、目からスタート。「描くのはわりかし早い方。でも『コボちゃん』には倍ぐらいの時間をかけているかな」
13:30【墨入れ】

再び眼鏡をチェンジ。「ちょっと、息詰まるでしょ?」。黒のフェルトペン(写真)や万年筆のペン先を取り外して合体させた改造ペンを使う。「見られているといつになく緊張する……。ホラ、間違えた!」。液晶タブレットも試したが、「私の絵は1本線でしょ」。手描きの方がズレない。「無限に描き直せるのもキリがなくて。手描きなら、多少間違っても『しょうがねぇや』って」
14:00【彩色】

洋服の柄や色は、キャラクターごとに固定。「いつも同じ服だから、服にまつわるネタってあんまり使えないの」。ちなみに、主人公のコボちゃんは半ズボンを緑と青の2本所有。月曜~金曜の彩色は、アシスタントさんが担当している
14:30【完成】

「よし!出来た」。モットーは「70%(の面白さ)でよし」。描きたくないと思ったことは一度もない。「絵を描くこと、工夫することが好きなんだよね」と、会心の笑顔
原稿受け取り、思わず噴き出す担当者
15:30【原稿を渡す】

読売新聞のバイク便が到着。「はい、ヨロシク」。この後は、週刊誌などの仕事や食事、散歩。1日平均3本の作品を描き、午前3時半に就寝
16:00【原稿到着】

読売新聞文化部に原稿が届く。当番デスクや担当記者が確認。チェック中、思わず噴き出してしまうことも
16:10【校閲部がチェック】
校閲記者2、3人が一字一句目を通す
16:30【画質を調整】

原稿を画像データにし、印刷された時、原画の色が出るように色味やコントラストを調整する。人物別の色見本もある。
17:00【編成作業】
編成記者が社会面に「コボちゃん」を組み付け、翌日朝刊の紙面に

ジワジワこみ上げる日常の笑い…能町みね子さん

1万3750回おめでとうございます。描きためをせず、毎日新作を生み出しているなんて「すごい」の一言で、お仕事ぶりを間近で拝見したいぐらいです。
家に新聞のスクラップや単行本があり、小学生の頃から愛読していました。当時、四コマ漫画は「大人の読み物」というイメージがあったのですが、かわいらしい絵柄に親しみを感じ、「これは新しい四コマ漫画だ!」と。鼻から口への線の流れが好きで、よくまねをして描いていました。
コボちゃんはマセていて、ヘンなことをする大人を冷静に観察しています。そこには、ジワジワこみ上げるようなおかしみがある。ボケツッコミ的なオチとは違う、テンション低めのユーモアは、日常の笑いそのものだと思うんです。飼い犬のポチや猫のミーが“人間”の観察者になることもあり、自由で風通しのよい発想もすてきですね。
刺激的でテンポの速いエンターテインメントが多い時代、淡々とした味わいは新鮮に感じられます。長年続けていても、マンネリに陥ることがなく、古びもしない。私にとって「コボちゃん」は、今も「新しい」漫画なんです。(談)
のうまち・みねこ
漫画家、エッセイスト。1979年北海道生まれ、茨城県育ち。近著に「結婚の奴」など。週刊文春でコラム「言葉尻とらえ隊」を連載中。好角家としてメディア出演するなど、大相撲にも詳しい。
「アサッテ君」もお祝い

しょうじ・さだお
1937年生まれ。漫画家。週刊文春で1968年から続く「タンマ君」、毎日新聞で1万3749回連載した「アサッテ君」などサラリーマンの哀歓を描くナンセンス漫画の名手で、食エッセーも人気。
プレゼント
「コボちゃん」オリジナルグッズ3点セット(メモ帳、フリクションボールペン、新聞ルーペ)を読売IDをお持ちの方50人に、植田さんのサイン入り色紙を3人に抽選でプレゼントします。締め切りは1月14日。ご応募は、読売新聞オンラインの「よみぽランド」から。読売IDをお持ちでない方もこちらで取得できます。