福山雅治にも「力を借りないと」…由紀さおりが若い世代に伝えたい「日本の歌の源流」
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由紀さおりが姉、安田祥子と童謡や唱歌を披露するアルバム「家族の愛に包まれて」(ユニバーサル)を出した。ゲストに歌手の木山裕策を迎えて三声で歌い、福山雅治の「家族になろうよ」などJポップもレパートリーに加えた意欲作だ。テーマは「家族愛」。由紀に狙いを聞いた。(清川仁)

収録曲は10曲。福山の「家族に――」やKiroroの「未来へ」のほか、持ち歌の「冬の夜」「里の秋」などを収めた。「今は『Z世代』って言うの? 若い人たちにキャッチしてもらうには、日本の歌の源流は童謡・唱歌にあると言っても始まらない。福山くんの力も借りないと」
家族愛をテーマに据えるため、“安田ファミリー”の父役を探した。「助っ人を頼まなきゃと考えていたところに偶然、私が通っていた耳鼻咽喉科に来たのよ」と、木山に白羽の矢を立てた経緯を明かす。木山のことは、デビューの契機になったテレビのカラオケ番組の頃から見ていたという。
「home」のヒットで知られ、穏やかな歌声の木山だが、「3人の声を溶け合わせるためには、日本語の響かせ方をもっとまろやかにしないとダメなの」。木山は録音前に、安田のレッスンを受けた。その成果が出て、「グリーン・グリーン」などでは木山の主旋律に、姉妹がスキャットでハモる新たな形が生まれた。
家族愛というテーマは、コロナ禍による「ステイホーム」の風潮から生まれた。「家でリモートで仕事をするようになったお父さんは、家事の大変さが分かったはず。家族をめぐる状況が複雑になったからこそ、改めて家族愛を考えるきっかけにしたい」。由紀自身は、食卓で父親の座る場所が決まっている“封建的”な家庭に育ったが、「嫌いじゃなかった」と振り返る。「高校卒業直後のデビューを目指して失敗し、短大へ進学したいと母に相談していましたが、最後の決断をするのは父。登校の道すがら、『大学に行っていいよ』と父が言ってくれたのが、すごくうれしかった」
どの曲にも父や母、妹などが歌われている。一方、「ペットも家族じゃないの」と、「星が歌った物語~ポロ兄ちゃんとタンちん君~」も選んだ。山川啓介作詞、船村徹作曲の切ない曲だ。家族同様の愛犬、愛猫の鎮魂歌を歌ってほしいとの船村のリクエストから約20年前に制作した曲だった。「レコーディングで号泣していた船村さんを思い出す。今はあちらで仲良くやっているかしら」。くしくも同じ2017年に鬼籍に入った山川と船村に思いをはせる。
由紀は19年にデビュー50周年を迎え、三味線、日舞、歌、芝居の4役をこなした「夢の花―蔦代という女―」という舞台に挑んだ。その再演を2月13、14日に、東京・銀座の観世能楽堂で行う。「芸事の究極は一人芸と思い、50年が最後のチャンスと何年も準備をした」。昨年も再演を目指して、改めて稽古をしたという。「この業界、努力なしには生き残れない。これからは、コロナの中をどう過ごしたのかが、問われると思います」。(電)03・3341・0627。