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映画の神様信じ続けた男、その家族に起きる奇跡
人気者を「今が旬」と形容することがあるが、この人はここ数年、ずっと旬である。
4月公開の山田洋次監督の新作映画「キネマの神様」で主人公ゴウの若き日を演じる。山田監督の現場に参加するのは初めて。
「僕らの世代からすると、歴史上の人物みたいなレジェンド。山田組には、日本映画史が詰まっていて……いろいろなところで言いふらしています。『最高だったよ』って」
映画の神様を信じ続けた男と、その家族に起きる奇跡の物語。菅田が出演する過去のパートでは、映画の撮影所で助監督として働くゴウらの青春が描かれる。

忘れられないのは、一度OKになったシーンを翌日に撮り直したこと。「菅田君、ごめん、もう一回やりたいんだ」「ゴウはたぶん、ここで泣き出しちゃうと思うんだ」。セットの端で2人きり。涙目でゴウの心情を説明する山田監督の姿に、ゴウが重なった。
「何かこっちも泣けてきて。監督がそこまで情熱を持ってくれているのが俺はうれしかった」
コロナ禍に見舞われた2020年。「人と会えないと何もできない」という無力感を味わった。時に過酷な撮影現場に「また行きたくなるだろうか」という不安にも襲われた。
「これから先のお芝居が、ただの業務になるのか、楽しめる仕事になるのかの境目だった。でも、思えたんです。『お芝居がしたいな』って」
本作を始め、昨年取り組んだ仕事が次々と世に出る21年は、「ためていたものを爆発させる年になりそう」。今年も旬は続く。きっとその先も。
志村けんの思い受け止め、演技に変化

映画「キネマの神様」(4月16日公開)に主演する菅田は、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた撮影をこう振り返る。
「たぶんこの映画は、完成させることがまず大事で、そことの闘いでした」
中でも、ダブル主演のはずだった志村けんさんの死は大きな悲しみだった。しかし、撮影中断中、テレビ番組の収録で会ったお笑い芸人から何度も、「志村さんは、この映画に出ることを楽しみにしていた」と伝え聞いた。

「そういう思いを知った僕のお芝居は、知らない時とは絶対に違うものになる。志村さんの存在は絶対に残ると思っていました」
志村さんの後を継いだのは沢田研二。「とてもチャーミングで、久々に先輩のお芝居を見て興奮しました。同じゴウなので変な感じですけど、本当に光栄です」と感激を表現した。
山田洋次監督は撮影の合間、大先輩の小津安二郎監督や往年の銀幕スターとの思い出、初めて自分の映画が上映された時の気持ち、もう監督をやめようと思った時のことなど、いろいろな話をしてくれた。演じる主人公ゴウの若き日には、そんな山田監督の思い出が投影されている。
脚本を読み、「映画の美しさが詰まっている」と震えた。「もの作りに向き合う人たちの話で、その滑稽さ、格好良さがある。僕らの仕事はお米と違い、ないと生きていけないものではないけど、ないと寂しいもの。自分が接してきたものを、誇りに思えましたね」
キネマ=映画は自身にとって「謎の使命感があって、一番一生懸命になれるもの」。ゴウは、センスがありながら、自信を失い、映画監督になる夢を諦めたが、「どんな目標や夢を持っている人でも、きっと自分の中に美学があって、闘う現場がある。そういう人たちが迷いそうになった時、(これを見て)あと一歩踏ん張れる映画になれば」と願いを語った。(文・田中誠 写真・沼田光太郎)
出番なくても観察、懸命に学びとる…山田洋次監督

その昔、映画が娯楽の王座を占め、また日本映画が世界中の関心と尊敬を集めていた黄金時代があり、あの頃の活気に
すだ・まさき
1993年2月21日生まれ。大阪府出身。2009年に「仮面ライダーW」でデビュー。13年の映画「共喰い」で日本アカデミー賞新人俳優賞、17年の映画「あゝ、荒野 前篇」で同賞最優秀主演男優賞などを受賞。19年の舞台「カリギュラ」で読売演劇大賞の杉村春子賞(新人賞)を受賞。17年から音楽活動を開始。昨年11月、アニメーション映画「STAND BY ME ドラえもん2」の主題歌の最新シングル「虹」を発表した。
キネマの神様(4月16日公開)

松竹映画100周年記念作品。監督は山田洋次、原作は原田マハによる同名小説。1950~60年代、映画監督を夢見るも、初監督作品「キネマの神様」が幻に終わったゴウ。2020年、妻にも娘にも見放されるダメな男となっていたが、あの日の脚本が出てきたことで止まっていた夢が再び動き始める。沢田研二と菅田将暉のダブル主演で、それぞれゴウの現在と過去を演じる。出演はほかに、永野芽郁、野田洋次郎、北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、宮本信子ら。