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スタジオもCGも明るい日本、暗めの欧米……違い乗り越え続々秀作「大事なのはリスペクト」

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国際共同制作でドキュメンタリーに活路

 ドキュメンタリーはカネがかかる割に不人気だ。

 硬派な作品はもちろん、「NHKスペシャル」で放送される大自然の妙や最先端科学に迫る番組も高視聴率は見込めず、コスパが悪い……。テレビマンのそんな悩みを解決するために水面下で続く取り組みが「国際共同制作」だ。今では、世界的な配信事業者も参入し、生命の神秘を解き明かし、社会の実相を知る上で不可欠な佳作が国境を越えて作られている。お国柄の違いから、視聴者の好みも千差万別の中、制作現場で巻き起こる日々の奮闘からは、多様性社会を生き抜くヒントも浮かび上がってくる。(読売新聞オンライン 旗本浩二)

最優秀企画賞を受賞した「ドライビング・イントゥ・ザ・ストーム」
最優秀企画賞を受賞した「ドライビング・イントゥ・ザ・ストーム」

 昨年11月、ある“お見合い”が都内のホールを中心にオンライン開催された。ドキュメンタリーの作り手が自らの企画を、放送局や制作会社、ネット事業者の前で説明し、出資を募る「Tokyo Docs」(以下、Docs)だ。前身の「東京TVフォーラム」も含め、2011年から続いている。毎年100本ほどの応募の中から事前審査を経た約20本をプレゼンし、食指が動いた放送局などが発案者と交渉に入る。

 欧米や中国・韓国にも同様の場が広がる中、Docsには日本人のほか、アジア各国の制作者が参加。昨年は、コロナ禍で苦闘する中国のトラック運転手に密着した「ドライビング・イントゥ・ザ・ストーム」が最優秀企画賞を受賞した。NHK・BS1スペシャルで放送された番組の続編だ。

 ほかに、フィリピンのテレビ局が政権による放送免許停止に対抗する姿を描いた「Breaking the News」も同賞を獲得。iPS細胞を使って脊髄損傷患者の治療に取り組む医師や、女性能楽師を取り上げた企画などが優秀企画賞を受賞し、いずれも放送に向けた交渉が始まっている。

二の足踏む放送局、存在感増すネット事業者

 Docsからはこれまでに、福島県浪江町の人々の心の揺れを描いた「波のむこう」(NHK、英BBCなど)、中国建国に参画した欧米人たちに迫った「レッドチルドレン」(NHK、台湾CNEXなど)、eスポーツ大会出場選手を追った「格闘ゲームに生きる」(WOWOW、台湾CNEX)などの秀作が数多く誕生している。

昨年11月、オンライン開催された「TokyoDocs」。ドキュメンタリー制作者たちが自らの企画を懸命に売り込んだ
昨年11月、オンライン開催された「TokyoDocs」。ドキュメンタリー制作者たちが自らの企画を懸命に売り込んだ

 海外の事業者が出資するため、国内制作よりも完成までに時間がかかり、プレゼンから放送まで最低1年ほどを要する。NHK・BS4Kで昨年放送された「陶王子 2万年の旅」は、陶磁器の歴史を伝える異色作だが、日の目を見るまで約5年を費やした。

 運営するNPO法人「Tokyo Docs」の天城靭彦理事長によると、出資側には当初、テレビ局しかいなかったが、その後、ネット事業者、映画配給会社、ファンドが参加するようになった。特に「ドキュメンタリーが優れたコンテンツであると明確に認識し」、存在感を増しているのがネット事業者だ。実際、「陶王子」には、中国IT大手・テンセントが参画。また、ドキュメンタリスト支援のためにヤフーが展開する「クリエイターズプログラム」は、Docs短編プログラムと連携している。世界最大の動画配信サービス、米ネットフリックスもDocsの動向に注目しているという。

 「テレビ局がドキュメンタリーに出資しにくくなっているのは、世界的な傾向。だからといって作品の出口が少なくなったわけではない。ネット事業者の需要があり、そこを目指す制作者も増えてきた」と天城理事長は話す。

「どっちが優れているか」はトラブルの元

 「視聴者の好みが違うんですよ」

 NHKの展開戦略推進部、吉沢朗チーフ・プロデューサー(CP)が国際共同制作の最前線を明かす。

 「画面の明るさ一つ取っても、日本人はスタジオが明るいほうが視聴率が高いし、CGも含め、何事にも説明を求める。ところが、欧米は暗めの画面のほうが好まれ、CGの色合いも暗く、それが示す内容も説明的でなく、雰囲気の一つとして使われる」。インタビューの際も、欧米はあえて人工的に照明を当て、人物をクローズアップするように撮るなど、国によって番組の印象は大きく異なる。共同制作では、この放送文化の違いを乗り越えて完成にこぎつけねばならない。

NHKがニュージーランドの制作会社と取り組んだ「ホットスポット 最後の楽園 season3」 国際共同制作:NHNZ
NHKがニュージーランドの制作会社と取り組んだ「ホットスポット 最後の楽園 season3」 国際共同制作:NHNZ

 NHKでは、中国と組んだ初の本格的国際共同制作番組「シルクロード」(1980年)以来、数多くの番組を海外の放送局と制作してきた。最近では、Nスペの「シリーズ 人体」が米の配信事業者と、「ホットスポット 最後の楽園」がニュージーランドの制作会社とタッグを組んでいる。深海の神秘に迫った「ディープ オーシャン」シリーズにはドイツの公共放送局が参加。現在、最新作の制作が進む。また、かつて日本の里山を人の営みと共に詩情豊かに描いた「映像詩 里山」の8K版がフランスの放送局と制作中だ。

 メリットは、何と言っても自局の持ち出し分を抑えつつ、質の高い番組を作れることだ。大型自然番組の場合、世界各地でロケを行い、狙った映像が撮れるまで日数を要するため、予算は跳ね上がる。優れた自然ドキュメントで知られるBBCですら自局のみでは不可能と言われ、多国籍連携はもはや常識だ。

 出資している分、最終的に各国版の演出に編集し直すことができ、純粋な海外作品にありがちな違和感がないのも利点だ。

「かつては、欧米に勝ちたいとか、日本の作品がどれだけ海外で通用するとか、競う感覚が強かった。でも、どっちが優れているかという発想はトラブルの元。視聴者の好みや知識量が違うのだから、核となる部分さえ合致していれば、後は好みの問題」と吉沢CP。多様性の受容が世界的課題となる中、「相手と企画に対するリスペクト。それが大事」と強調する。

井戸から飛び出してこそ広がる感性

 国境を越えた共同制作には、予算面以外にも恩恵がある。「受信料で作れるからといって、そこにあぐらをかいていると閉じた番組制作になってしまう。我々の企画を採用してくれるかどうか勝負し、海外の人に見てもらうためにチャレンジしていかないと」。井の中の(かわず)になることを吉沢CPは戒める。

 天城理事長も同じ意見だ。

 「共同制作では、他人からいろいろ注文がついてめんどくさくて鬱陶(うっとう)しいだろうが、それを乗り越えて先に進むと、それまでと違った可能性が生まれる」。例えば「陶王子」では、陶器の人形を語り部に据えたが、国内制作ならその発想は出てこなかったという。「自分の作りたいように作るのも大事だが、海外の目が加わると、思ってもみなかった感性が広がり、作品がより豊かになる」

 国際共同制作は、内向きと言われる昨今の日本の若者へのメッセージにもなっている。

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1806512 0 エンタメ・文化 2021/01/31 10:03:00 2021/11/11 11:41:37 2021/11/11 11:41:37 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210127-OYT8I50060-T.jpg?type=thumbnail

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