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作家は「小説の奴隷」になれるか…宇佐見りん・村田沙耶香、芥川賞受賞対談

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芥川賞に決まった宇佐見りんさん(右)と、受賞決定を祝う村田沙耶香さん
芥川賞に決まった宇佐見りんさん(右)と、受賞決定を祝う村田沙耶香さん

 現役の大学生として久々の芥川賞受賞者となった宇佐見りんさん(21)の『推し、燃ゆ』の勢いが止まりそうにない。1月20日の受賞決定後、単行本の部数は20万部に達した。このブームで思い出すのは、2016年の村田沙耶香さん(41)の芥川賞受賞作『コンビニ人間』だ。村田さんは、宇佐見さんがデビュー作『かか』で文芸賞を受けた際の選考委員でもある。芥川賞から大きな世界へ羽ばたいた2人に、文学賞を受けることや小説を書くこと、作家の人生について語り合ってもらった。

■ファンの数だけ「推し方」はある

芥川賞発表当日の宇佐見りんさん(右)左は、直木賞の西條奈加さん
芥川賞発表当日の宇佐見りんさん(右)左は、直木賞の西條奈加さん

村田 芥川賞を受賞なさって、お忙しいのではないですか。小説家はいつも部屋で地味に文字を書いている生きものなのに、今までにないほど、多くの人から取材を受けてお話ししたり、普段と違う不思議な生活になりますよね。

宇佐見 はい。エッセーなどを頼まれることが多く、楽しいけれど忙しいです。

村田 他の受賞者の方から、半年間の記憶がないとよく聞きます。私自身も覚えていないんです。

宇佐見 半年も……。

村田 テレビ番組に呼んでいただく機会が、私にもありました。とても興味深い経験でしたが、自分が映像になることにはいまだに慣れないです。

宇佐見 やっぱりどう映るかは気になります。芥川賞の受賞記者会見の夜、くたくたになって家に帰ってニュースに映る自分を見たとき、これは一体、誰なんだろうと思う感覚がありました。

村田 誰なんだろう、という感覚、よくわかります。そこから何か小説家として学び取っているとは思うのですが、普段の生活にはない感覚で不思議ですよね。宇佐見さんも、どうかお体には気をつけてくださいね。

宇佐見 ありがとうございます、そうします。

宇佐見りんさん
宇佐見りんさん

村田 『推し、燃ゆ』はすばらしい作品だと思います。この小説を、一種の若者文化が分かるものと思って興味を持つ人がいるかもしれません。でも私は読んで、「推し」という言葉でしか表現できないものに出会うこと、感情を抱くこと、行動すること、それは一人一人それぞれ違う特別な体験だと感じました。「推し」とは個人的な奇跡なんだ、と思うことができました。

宇佐見 私も、あかりのような主人公が「推す人」の代表に見えるような書き方はしたくなくて、ある一人の祈りのようなものを書こうと意識していました。ファンの数だけ推し方は存在していて、今回書いた「あかり」のスタンスも、あくまでその一例だというように。だから、そういうふうに読んでいただけると本当にうれしいです。

村田 宇佐見さんは、言葉に対する真摯(しんし)さ、その作品だけの表現を探す誠実さも、素晴らしいですよね。「推し」に「いいね」がつくとき、炎上したとき。SNSで飛び交うような言葉も、単に文章になって再現されているのではないんです。全ての言葉に、この作家にしか書けない神経と細胞があるのが伝わってくるんです。それが読む喜びに(つな)がります。そう言えば『かか』には、<インターネットは思うより冷やこくない>という一文がありましたね。

『推し、燃ゆ』
『推し、燃ゆ』

宇佐見 匿名の悪意とか、ネットの冷たいところばかり強調することには違和感があって。出版社が作ってくださった公式ツイッターにも、温かいメッセージをいただくことがあるし、相手に直接話すのと、タイムラインに投稿するのとはまた違う。SNSは使い方次第だと思います。

村田 SNSは、文字だけなのに、文章に性格が出るのが面白いですよね。挨拶(あいさつ)しているだけなのに、文字の並びが(にぎ)やかで楽しい人もいれば、何となく一人暮らしなんだろうなと思わせる人とか。単に若くてSNSをよく使うからではなくて、宇佐見さんが言葉を大切に扱い、一見軽いその言葉のすみずみまで神経の細胞があるような文章を書いているから、このような表現ができるのだと思います。

宇佐見 投稿者に共感する人も、喧嘩(けんか)腰の人も、ネット上には様々な人がいます。SNSの上で飛び交う言葉を、その多様性を保ったまま小説の中に入れたいと思っていました。とてもうれしいです。

■前に進めなくなった10代の自分がいる

村田沙耶香さん
村田沙耶香さん

村田 私にとって小説は、「宗教」と似たようなイメージがあるんです。「小説家は小説の奴隷だ」という言葉を大切にしているのですが、同時に、小説の神様に従っているような感覚があります。いつも、教会の中で祈っているような気持ちになるんです。小説家と小説との関係って、人によって全く違いますよね。宇佐見さんは今、どんなふうに小説を書いてらっしゃいますか。

宇佐見 私は現在、21歳ですが、自分の心の中にもう一人の自分がいます。高校生のとき私生活のことで、精神的に苦しくなったことがあって。年齢通り21歳の大学生になった自分と、あの頃からじりじりとしか進めない10代の自分がいる。その自分のことを、今は書ききってみたい。次の小説も、10代の話になりそうです。

村田 前に進めなくなった自分は、私の中にも無限にいます。幼稚園でうまくできなかった自分。中学校のとき死にたいと思った自分。大学で若い女の子扱いされて苦しかった自分。小説は、私にとって実験室でもあるのですが、その実験の最中に、無意識の中で眠っている、冷凍保存されていた感情が、データになって、違う形で発生してくるので興味深いです。いろいろなことが勝手に起きていくので、それを必死に書き留めています。 

宇佐見 村田さんが『コンビニ人間』で芥川賞を受賞された後、空港のなかにある本屋で買って、飛行機の中で読み終えました。初めは、主人公を自分の枠組みで理解しようとして、「可笑(おか)しい」「周囲の人間が怖い」「かなしい」と一喜一憂していましたが、最後まで読んだときああ違うのかなと思って。もう手の届かない、一人の人間の、誰にも何物も言わせないさわやかさのようなものに貫かれて、そういう意味で衝撃でした。私は、「なんだこれ」というものに出会うと、今までの自分の凝り固まってた部分に風穴があいて「寂しい」と思うのですが、その寂しさのなかで空港に降り立ちました。

村田 あの小説は、中編であまりユーモアがあるものを書いたことがなかったので、リアリズムの小説のぎりぎりのところでなにか作ってみたい、と思ったのがきっかけだったような気がします。

宇佐見 村田さんの小説は、『コンビニ人間』や『生命式』、『殺人出産』も、読み手が作品と距離を置いて読むことを許してくれなくて、つまり読み手のいる安全な立場を壊し、取り込んでしまうところがあって、そこが好きなんです。そうか……小説を実験室として書いていたんですね。

村田 小学校のころから、小説を書いていたせいかもしれないのですが、原稿を書くことが、どこか儀式のように思えてしまうんです。

宇佐見 小説の神様とおっしゃいましたが、なんだか本当に神秘的な書き方をされるのですね。私はまだ、そこまで小説の書き方は確立できていないように思います。ただ、目指す何かはあって。私は中上健次さんの小説が好きで、そればかり読むのですが、彼の文章に感じる「境地」のようなものに、手を伸ばしたいという気持ちがあります。

■作家は肉を食べる?

村田 小説家って、不気味で、罪深い生きものだと個人的には感じています。私はどこか感情が壊れていて、現在はコロナ禍ですけど、つらいニュースを見て寝込んだことがある一方で、異常な出来事の中で人間がどう反応するか、小説の実験室にいつか使うかもしれないし、使わないかもしれないのですが、とにかくずっとデータを取っている気がするんです。自分自身からも、世界からも、ずっと実験室のためのデータを冷凍保存している感覚があります。

宇佐見 コロナのことは、私はまだ底知れなさを感じているだけです。小説にどう影響するかは分かりません。じわじわ来るのかもしれないけど。

村田 自分の感情だけでなく、世界の光景も冷凍保存しているんです、コロナ禍になる前から、ずっとそうでした。今も、あくまで自然に世界のデータを保存しているだけなので、やがて実験中に何かの形を取って出てくるのかもしれないけど、コロナ禍のままの形では出てこないのではないかな、と思います。どんな形で出てくるかは自分でも分かりません。

宇佐見 いずれにしても小説を書くこと自体が、誰かを傷つけることかもしれませんよね。まだ2作しか書いていないけど、強く感じます。誰かが読んで良かったと思う文章が、人を傷つけ、苦しめることがある。その両面性を忘れないようにしたいと思います。

村田 宇佐見さんは今、大学2年生ですよね。これから就職などを考えていらっしゃいますか。

宇佐見 人に迷惑がかからなければ、就職したいです。

村田沙耶香『コンビニ人間』
村田沙耶香『コンビニ人間』

村田 私はアルバイトしかしたことがないのですが、職場は、みんなで一つの空間を作るようなところがあって不思議ですよね。自分にも、コンビニで働いているときしか出せない声があります。店長が、店長として働いているときしか見せられない表情と、店員としてなら出会うことができる。面白いですよね。

宇佐見 もし就職できるとしたら、私は表現とは全く違う、体を動かす仕事をしたいです。宇佐見りんは肉体の責任を書いている、という感想をSNSで見かけたことがあるのですが、とても(うれ)しくて。小説には、登場人物を自分の考えで動かせる危うさがあるけれど、それはしたくない。体と向き合ってしか出会えないことがあると思っています。

村田 私自身も、登場人物には肉体がないといけないと思っています。人物の思想だけで物語をつくるのではなく、作中人物にとって都合の悪い「肉体」があることが、物語を作っていくと感じています。当たり前のことですが、作家同士は同じ書く者として対等なので、書き手として宇佐美さんを尊敬して発する言葉はあれど、特にそれ以外でお伝えするようなことはあまりないのですが……私自身が周りの先輩から受け取った言葉としては、「体力をつけろ、肉を食べろ」というものがあります。すごく体力のいる仕事だなあと感じるので、しみじみ思い出しています。

宇佐見 文芸賞の贈呈式でも、村田さんは「ここのローストビーフがおいしいからぜひ食べてください」と言ってくれました。

村田 コロナ禍が収まったら、体力がつく食べ物をご一緒できたらうれしいです。

むらた・さやか 1979年、千葉県生まれ。2003年にデビュー。16年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』は世界的ベストセラーになった。著書に『殺人出産』『地球星人』など。

うさみ・りん 1999年、静岡県生まれ。2019年に文芸賞を受けたデビュー作『かか』が、翌年、三島由紀夫賞を受賞した。現在、大学2年生。国文学を専攻する。

「推し、燃ゆ」 自分の「推し」、すなわちファンである男性アイドルを、熱烈に応援する10代の女性が主人公。SNSでアイドルが身近に感じられる時代の光景をみずみずしく描く。

中上健次 1946年、和歌山県新宮市生まれ。76年に『岬』で、戦後生まれの作家としては初の芥川賞を受賞。『鳳仙花』『千年の愉楽』など、故郷・紀州の風土を背景に濃密な作品を残した。

(構成・文化部 待田晋哉、武田裕芸)

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使い方
1815652 0 エンタメ・文化 2021/02/02 18:51:00 2021/02/02 18:51:00 2021/02/02 18:51:00 宇佐見りんさん(右)の受賞を祝う村田沙耶香さん(左)(28日、東京都渋谷区で)=武田裕藝撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210201-OYT1I50036-T.jpg?type=thumbnail

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