顔つぶされた光秀の怨念か、「黒幕」は?…真相「本能寺の変」
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気鋭の専門家が
鼎談

NHK大河ドラマ「
義昭・信長の間を取り持ち出世した光秀
――光秀の前半生に関する史料は少なく、謎が多いとされています。

柴 同時代史料で確実に光秀の名前を確認できるのは越前(福井県)時代。足利

丸島 最近発見された『
――義昭は最終的に織田信長を頼り、越前から
金子 元々は義昭の家臣でしたが、信長とともに義昭を支える中で、光秀は信長の家臣にもなります。信長・義昭双方に仕える「両属状態」という特殊な立場が光秀の特徴でした。
丸島 光秀は「
金子 坂本城の前年には、宇佐山城(同)も与えられています。城を預けられることで、信長・光秀の関係はさらに深まったのです。
山岳地帯の丹波を攻略、信長が評価
――光秀は比叡山攻め、丹波(京都府、兵庫県)攻めと功績を上げ、信長家臣としての地位を築きます。
丸島 信長による比叡山攻めは、山上の
柴 比叡山攻めの際の光秀の書状に「敵方の村をなで切りにする」などと残虐さを示す記述があります。ただ、戦場での皆殺し行為は戦国時代によくあり、光秀だけが特別、残酷だったわけではない。あくまで、信長家臣として積極的に働いたということなのでしょう。

金子 丹波は室町幕府の管領家である細川
柴 京都の東端にある比叡山、西端にある丹波という、信長が天下人として京都とその周辺を支配するために重要な地を抑えたことは、光秀の大きな功績だと言えます。
丸島 丹波は山岳地帯なので、攻略が非常に難しかった。それを成し遂げたという意味で、光秀は信長に評価されたのでしょう。
奇跡的状況で生まれた「本能寺」

――信長の信頼を得ていたはずの光秀ですが、なぜ「本能寺の変」で謀反を起こしたのでしょうか。
丸島 近年、新史料の発見などで注目されているのは「四国説」です。光秀は四国の

本能寺の変当日は、信長と嫡男の信忠が偶然にも、それぞれ少数の部隊で京都にいました。その周りには光秀以外のまとまった軍隊がいない。足利義昭など黒幕がいたとも言われますが、光秀にとって奇跡的な状況で変が生じたことからも、綿密な打ち合わせが必要な「黒幕説」は成り立たないかなと思います。

柴 光秀にとって今までやってきたことが評価されないことで、このままでは自分の家がどうなってしまうのかという危機感があったと私は考えています。光秀は家の将来を守るために、偶然にも信長・信忠父子が京都にいた機会を見逃さず、織田家の権力中枢を破壊すべくクーデターを起こしたわけです。
金子 本能寺の変の前には四国の問題以外にも、光秀のメンツがつぶされるような出来事がいくつかありました。光秀が信長に足蹴にされたなどの逸話も後世の記録に複数残されています。
一方、(光秀と親交のあった公家)吉田
義昭と信長に翻弄された人生
――本能寺の変は同時代の人にとっては、どのような事件として捉えられたのでしょうか。
丸島 関東や東海には、信長の弟・織田信勝の息子で、光秀の娘婿である信澄を擁立した謀反だという情報が、本能寺の変の直後に伝わっています。留守を預かっていた徳川家臣の日記や、小田原に亡命した武田旧臣が書いた軍記にも書いてある。東の方では、光秀が単独で謀反を起こしたわけではなく、織田家の別の人間を担いで挙兵した事件だと受け止められていたようです。
金子 光秀が一人でやったというより、誰かほかに動かした人間がいたんだろうと理解されていた。そういう受け止め方が後に黒幕説が現れるきっかけになったのではないでしょうか。
――光秀の功績、人生をどう総括できますか。

柴 光秀の人生は、信長あってこそのものです。まさに織田家が急激な発展を遂げていった中で、重要な役割を果たした人物だと思います。
金子 本能寺の後、足利義昭とも接触しようとしている節があるなど、義昭と信長に
丸島 上洛後の信長が、一番長い時間を過ごした重臣が光秀だと指摘する研究者もいます。光秀は外様ですが、信長と一緒に長くいて密な関係を築いたという点で、信長に対する外と内の両方の視点を持った重要な人物。光秀の文書は最近集成されたばかりで、ほかの信長重臣との比較など今後も研究の余地があります。

柴 光秀の行動を見ることによって、相対的に信長の研究も進んだ側面があります。今後は、光秀が率いた家臣団も含めて、さらなる実像の解明を進めていく必要があると考えています。
金子 細かいことでもよいので、光秀に関する史料を積み上げていくことが大切です。(自分の本職である)『大日本史料』の編纂をしていく中で、そのための材料を提供していきたいです。
アガサ・クリスティー作品を連想させる「麒麟がくる」

――7日放送の「麒麟がくる」最終回で本能寺の変が描かれる予定です。どういった展開を期待しますか。
丸島 過去の大河ドラマでは信長が(丹波の)波多野兄弟を処刑したせいで、人質となっていた光秀の母が殺され、恨みを募らせたなど、江戸時代の創作に依拠する形で本能寺の変が描かれることが多かった。一方、「麒麟がくる」は、信長について、近年の研究をかなり取りこんだ描写になっています。そういう信長は光秀の謀叛をどう捉えるのか。また家康ら周りの人物の反応や行動をどう描くのかにも注目したいと思います。
金子 これまでの放送を見てみると、