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第28回読売演劇大賞…受賞作・受賞者紹介

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大賞に鈴木杏さん…第28回読売演劇大賞はこちら

 昨年の演劇界の成果を顕彰する第28回読売演劇大賞が決まりました。正賞は、佐藤忠良氏制作のブロンズ像「蒼穹そうきゅう」、副賞は大賞・最優秀女優賞に200万円、他の最優秀賞、杉村春子賞、芸術栄誉賞、選考委員特別賞に各100万円を贈ります。受賞作、受賞者を紹介します。(敬称略)

失敗恐れず 見事な振り幅

大賞・最優秀女優賞 鈴木杏

「殺意 ストリップショウ」「真夏の夜の夢」の演技

「殺意 ストリップショウ」 写真・細野晋司
「殺意 ストリップショウ」 写真・細野晋司

■審査評 徳永京子

 華やかな存在感で目を引きつつ、いつの間にか観客の深い場所に入って広がっていく。この人が演じる時点で作品の粒子が細かくなっているのだ。戯曲の読み込みに労を惜しまず、失敗の数を恐れず稽古に取り組んでいるのだろう。

 受賞の対象作品は、真逆の表現が求められるものだった。これまでほとんど上演されたことのない三好十郎のひとり芝居を、演出家・栗山民也が今こそ必要と選んだ「殺意 ストリップショウ」と、野田秀樹がシェークスピアを複層的に潤色した戯曲を、ルーマニアの鬼才・プルカレーテが演出した「真夏の夜の夢」。

 前者は、敗戦を挟んで一変した日本の思想に振り回され、愛する人を失い、純朴な女学生からストリップダンサーになった女性が、自身の半生を振り返る。重大な責任ほど回避し、表面上の平和を整える人間とは何なのか、肉を脱ぎ、骨を削るようにして問う彼女を、緻密ちみつかつ生々しい演技で演じきった。「真夏の夜の夢」では、夜の森に凶事を引き起こすほどの暗部を抱えた少女を、アクロバティックなポーズと詩的なせりふを軽やかに決めながら造形。完成度を伴うその振り幅は見事だった。

 技術を身につけた俳優には、計算通りに演じる快感や、多くの視線を引き付ける恍惚こうこつに溺れるわなが待つ。冒頭に「失敗を恐れない」と書いたが、鈴木杏は演じることそのものには常に震えて接している。ゼロから始める覚悟と知性が、客席の思考と想像のスイッチをこれからも押すはずだ。

すずき・あん 1996年デビュー。2003年の「ハムレット」以降、故・蜷川幸雄演出の舞台にたびたび出演して鍛え上げられ、揺るぎない存在感と演技力を確立。舞台と映像で秀作を連発している。第24回最優秀女優賞。33歳。

記録されるべき結実

最優秀作品賞 「リチャード二世」新国立劇場

「リチャード二世」 写真・引地信彦
「リチャード二世」 写真・引地信彦

■審査評 矢野誠一

 「リチャード二世」は、2009年から12年かけた鵜山仁演出による、新国立劇場シェイクスピア歴史劇シリーズの最終作だ。最初の「ヘンリー六世」3部作いらい、美術の島次郎、役者の中嶋しゅう、金内喜久夫の3人を彼岸に送っているが、ほとんど同じスタッフ、キャストで演じられたことによるアンサンブルの見事さが、記録されるべき快挙に実ったと言える。

 舞台全面を荒涼たる国土に見立てた乘峯雅寛の美術を得て、宮廷・貴族の妻や母までまきこんだ政治が権謀術数をめぐらすさまは、時に愚かさ、滑稽さをも露呈する。それを名もない市井の人びとが見つめている構図は、観客の目を象徴しているようにうつる。

 コロナ禍にあって、芝居のできることの喜びにあふれた創り手側と、それを鑑賞するうれしさでちた客席側の空気とが、一体化したことで生み出された格別の劇的効果をも含めて、「リチャード二世」は、昨年で傑出した舞台となった。

「リチャード二世」 「シェイクスピア歴史劇シリーズ」の第8作にして最終作。英国王リチャード二世の転落と、彼に追放されたヘンリーが雪辱するドラマが対照的に描かれた。出演は岡本健一、浦井健治ら。

極端な役も自然 まさに名人芸

最優秀男優賞 山崎一

「十二人の怒れる男」「23階の笑い」の演技

「23階の笑い」 左が山崎一 写真・宮川舞子
「23階の笑い」 左が山崎一 写真・宮川舞子

■審査評 小田島恒志

 自分が正しいと信じて疑わず、異議を唱える者に対しては容赦なく、居丈高に罵倒する。徐々に分が悪くなってきたことを周りは皆気が付いているのに、本人は決して自分の非を認めない……最近、ホワイトハウスを後にした人のことではない。「十二人の怒れる男」の陪審員3番のことだ。典型的なアメリカの家父長制信奉オヤジだが、これを山崎一が演じると、冷徹な、強気な態度に出れば出るほど、愚かで、哀れで、滑稽にすら見えてくる。

 逆に、「23階の笑い」のロシア系移民の放送作家は、言葉のなまりも相まって、言うことすことことごとく滑稽に見える。だが、本人は滑稽なことを言おうとかやろうとか意図しているわけでなく、至って真面目で、生真面目ですらあることが山崎一の演技からは伝わってくる。

 どちらも極端で不自然になりがちな役柄だが、山崎一は実に自然にこなす。まさに職人技、いや、名人芸と言ってもいい。こういう芝居がたいという気にさせられる。

やまざき・はじめ 大学卒業後、早稲田小劇場に入団。退団後、小劇場中心に活動。宮沢章夫、松尾スズキ、ケラリーノ・サンドロヴィッチらの演出作で活躍する。井上ひさし作品での評価も高い。英会話学校のCMでも知られる。2018年に「劇壇ガルバ」を旗揚げ。神奈川県出身。63歳。

渾身の3本 センス光る

最優秀演出家賞 藤田俊太郎

「天保十二年のシェイクスピア」「NINE」「VIOLET」の演出

「NINE」 写真・岩田えり
「NINE」 写真・岩田えり

■審査評 萩尾瞳

 混乱の年、手がけた作品のうち再演を除く3本全てが受賞対象作となった。どれも、藤田俊太郎渾身こんしんの演出作である。脚本と音楽を読み解く力と、抽出したテーマをヴィジュアル化するセンスが光る舞台だった。

 「天保十二年のシェイクスピア」は、井上ひさし戯曲に「格差への怒り」という視座から切り込み、疾走する舞台を作った。「NINE」ではライブカメラを活用し、人間の愚かしさいとおしさに焦点を当てた。

 「VIOLET」は、2019年にロンドンで現地スタッフ・キャストと作り上げた舞台の日本版。ロンドン版を踏襲する演出プランは、コロナ禍で変更を余儀なくされる。それでも、主人公の自己解放の旅に観客をいざなう、濃密な舞台が生まれた。

 演出家メジャー・デビューの「ザ・ビューティフル・ゲーム」から6年。評価は、三段跳びで高まってきた。蜷川幸雄に師事し腕を磨いた素地もある。まだまだ鮮烈な舞台を見せてくれることだろう。今後の活躍に目が離せない。

ふじた・しゅんたろう 東京芸術大在学中の2004年にニナガワ・スタジオに入り、05~15年、蜷川幸雄作品の演出助手を務める。台本を徹底的に読み込み、役者との対話を重視する。第22回杉村春子賞、優秀演出家賞、第24回優秀演出家賞。40歳。

「精神的遊び心」で核心衝く

最優秀スタッフ賞 齋藤茂男

「アルトゥロ・ウイの興隆」「現代能楽集X『幸福論』~能『道成寺』『隅田川』より」の照明

「アルトゥロ・ウイの興隆」 写真・細野晋司
「アルトゥロ・ウイの興隆」 写真・細野晋司

■審査評 堀尾幸男

 舞台照明の造形が目指すことは、基本、役者を見せることに尽きるが、それだけでは、作品が広がらない。「演劇は何でもあり」という「精神的遊び心」が作品を強く印象づけることになるものだ。

 もともと演劇の各パートはやりたい思いを表現する。これは自明の理である。その点、齋藤茂男は「遊び心」をいつまでも持っている照明家である。現代の舞台照明は、LEDの発見・開発、ムービングの遠隔操作、映像技術まで含めどんどん進化してゆく。それでも齋藤茂男はのほほんと我が道をゆく。彼の出自を尋ねると、何と、演出家の佐藤信や串田和美の現場だという。

 KAATの「アルトゥロ・ウイの興隆」(白井晃演出)のシャープなあかり、張り詰めた冷たい灯りの世田谷パブリックシアターの「現代能楽集X」(瀬戸山美咲演出)と、手掛けた各々の作品で表現が違う。それでいて核心をく。

 それこそ照明家・齋藤茂男の真骨頂。我が道をゆく、魅力的な姿勢である。

さいとう・しげお 舞台照明は独学で身につけ、フリーとして活動してきた。歌舞伎やオペラ、ダンスの照明も手掛ける。劇場照明のアドバイザーとして、世田谷パブリックシアターや座・高円寺の開館に関わった。初ノミネートで受賞。埼玉県出身。70歳。

真摯さと声 大きな武器

杉村春子賞 小瀧望

「エレファント・マン」の演技

「エレファント・マン」 写真・細野晋司
「エレファント・マン」 写真・細野晋司

■審査評 中井美穂

 受賞対象作が5年ぶり、2作目のストレートプレイの主演という24歳。アンニュイな表情でこちらを見つめるチラシを手にした時、この青年がどうやってあのメリックを演じるのだろうかと勝手に案じていました。しかし、登場シーンで不安は払拭ふっしょくされました。

 184cmの長身に長い手足。均整の取れた美しい肉体が特殊メイクなどを一切用いず、19世紀のロンドンに実在したエレファント・マン、ジョン・メリックになっていきました。

 2時間もの間、身体は極度にゆがめられ、顔はこわばり苦しい呼吸しかできません。しかし、独特なリズムを伴う彼の声からは知性の高さや好奇心の強さ、いたずらっ子のようなユーモア、本質を見抜く力、孤独や絶望そして希望があふれていました。

 技巧に走るのではなく真摯しんしに自分の全てでメリックになっていった真っ白さは舞台俳優として大きな武器。ぜひ多くの舞台に立ってほしいと願っています。

こたき・のぞむ ジャニーズWESTのメンバーとして2014年にCDデビュー。端正な風貌ふうぼう緻密ちみつな演技力が光る。舞台「MORSE―モールス―」、ドラマ「決してマネしないでください。」に主演。24歳。

分野を確立 後進育成も

芸術栄誉賞 緒方規矩子

衣装デザイナー

劇団民芸「熊楠の家」(2017年)
劇団民芸「熊楠の家」(2017年)

■審査評 杉山弘

 衣装デザイナーの草分けとして1950年代から活動を始め、栗山昌良のオペラ作品や谷桃子のバレエ作品、劇団民芸公演のほか、佐藤信、遠藤啄郎、渡辺浩子、坂東玉三郎、栗山民也、鵜山仁ら演出家との共同作業を通じ、トップランナーとして舞台に映える衣装を創作し続け、衣装デザインの仕事を職業として確立させた功績を認められての受賞だった。

 「すべての答えは台本にある」が信条で、舞台に登場する多彩な人物を入念に読み分け、一人ひとりが役に息づく衣装作りに心を砕いた。高いデッサン力、絶妙な色使い、濃密な質感で仕上げられたデザイン画を、演出家は心待ちにし、役作りに悩む俳優は頼りとした。

 ボサボサ髪に首からがま口財布をぶら下げ、生活臭あふれる衣装を重ね着した主人公・お鹿婆の登場で、終戦直後の貧民街の空気を瞬時に切り取った「がめつい奴」(92年)は忘れがたい。選考会では前田文子や西原梨恵らの後進を育てた点も高く評価された。

おがた・きくこ 東京都出身。オペラを中心に幅広い衣装デザインのレパートリーを持つ第一人者。伊藤熹朔賞など数々受賞、2019年、文化庁長官表彰。92歳。

心刺す痛み 時空超え

選考委員特別賞 「現代能楽集X『幸福論』~能『道成寺』『隅田川』より」

「道成寺」の一場面 写真・細野晋司
「道成寺」の一場面 写真・細野晋司

■審査評 犬丸治

 能楽の普遍性と現代性を探って様々な実験を試みて来たシリーズ。今回は瀬戸山美咲と長田育恵、気鋭のふたりが演出と劇作で切り結んだ刺激的な舞台だった。

 「道成寺」(瀬戸山作・演出)では、恋い焦がれる山伏との将来を父親から約束された長者の娘を、両親が引いたレールを走らされた医学生と、その男に裏切られた末に最後は一家もろとも焼き殺すアイドル志望の少女に重ね合わせる。

 一方、「隅田川」(長田作、瀬戸山演出)で人買いにさらわれた幼子おさなごの面影を求めて彷徨さまようおんなは、不妊治療中の家裁調査官、我が子を産み捨てた少女、その嬰児えいじを拾った一人暮らしの老女の3人へと転生した。嬰児を埋葬した川辺で、白々と夜が明ける中3人の母親が邂逅かいこうする終幕は、心のひだに分け入るような齋藤茂男の照明とともに忘れ難い。

 室町から現代へ、時空を超えて登場人物の痛みが直截ちょくさい的にる者のこころを刺すのは、普通に享受して来た「幸福」の重さを知ったコロナ禍の今と決して無縁ではあるまい。

 「現代能楽集X『幸福論』」 いびつな一家の末路を描いた「道成寺」、母親たちの喪失を描いた「隅田川」の2本立て。瀬奈じゅん、鷲尾真知子、高橋和也ら6人で複数の役を演じわけた。

「記憶に残る活躍」焦点に

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、最終選考会は初めてオンラインで行われた。討論では、困難の中で上演された作品や、懸命に活動した人物をたたえる声が上がった。

オンラインで行われた最終選考会
オンラインで行われた最終選考会

 5部門の最優秀賞は106人の投票委員の投票で決まった。

 杉村春子賞(新人賞)は投票委員から44候補が挙がり、最も多く支持された小瀧望が選ばれた。舞台でのさらなる活躍にも期待が寄せられた。

 この賞と最優秀各賞の計6件から選ぶ、年間グランプリの大賞の選考は、当初「リチャード二世」、鈴木杏、藤田俊太郎が推された。しかし、コロナ下の記憶に残る活躍という視点で鈴木と藤田に絞られた。緊急事態宣言の解除後、劇場が再開した7月に体当たりの演技を見せた鈴木と、厳しい条件下で3本も優れたミュージカルを仕上げた藤田の優劣はつけ難く、投票の結果、1票差で鈴木に大賞を贈ることになった。

 長年の演劇界への貢献や優れた企画を対象とする芸術栄誉賞には、92歳になる舞台衣装デザイナーの草分け、緒方規矩子を選んだ。

 選考委員特別賞は「現代能楽集X」に。今が旬の長田育恵と瀬戸山美咲が組み、女性のまなざしが結集した優れた作品を作ったことが認められた。(東京本社編集委員 祐成秀樹)

 贈賞式は25日、東京の帝国ホテルで行われる。

◇優秀作品賞=「天保十二年のシェイクスピア」「ゲルニカ」「NINE」

◇優秀男優賞=大谷亮介、片岡仁左衛門、小瀧望、城田優

◇優秀女優賞=安蘭けい、池谷のぶえ、神野三鈴、那須佐代子

◇優秀演出家賞=詩森ろば、瀬戸山美咲、原田諒、眞鍋卓嗣

◇優秀スタッフ賞=梅田哲也、乘峯雅寛、前田文子、宮川彬良

◆選考委員(50音順)

犬丸治(演劇評論家)

小田島恒志(翻訳家、早稲田大学教授)

杉山弘(演劇ジャーナリスト)

徳永京子(演劇ジャーナリスト)

中井美穂(アナウンサー)

西堂行人(演劇評論家、明治学院大学教授)

萩尾瞳(映画・演劇評論家)

堀尾幸男(舞台美術家)

矢野誠一(演劇・演芸評論家)

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1828537 0 エンタメ・文化 2021/02/09 05:00:00 2021/02/09 05:50:20 2021/02/09 05:50:20 舞台「殺意 ストリップショウ」。写真・細野晋司。2020年7月21日夕刊[評]「殺意 ストリップショウ 鈴木杏 圧倒的な説得力」掲載。提供写真。 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210208-OYT8I50055-T.jpg?type=thumbnail

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