読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

隣の美女・吉田盛り・休肝日…「酒場放浪記」の謎に類さんが答える

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 酒を求め、(さかな)を求めさまよう……。

 テレビからこのフレーズが流れると、つい一杯やりたくなる方も多いだろう。“酒場詩人”こと吉田類さん(71)が各地の名店を巡るBS-TBS「吉田類の酒場放浪記」が、22日の放送で1000回を迎える。ハンチングに全身黒ずくめというシャレたスタイルで訪れる店は、酒や料理はもちろん、大将や女将(おかみ)の言葉も味わい深く、自分も一緒に杯をくみかわしている錯覚さえ抱いてしまう。その臨場感こそ番組の妙味なのだが、ファンならではの素朴な疑問もわいてくる。類さんにズバリぶつけてみた。

電車で話題に「早く帰らないと始まっちゃう」

放送1000回となる22日は、「おんな酒場放浪記」の倉本康子さん(右)と吉田類さんが東京・森下にある名店を訪れる(C)BS-TBS
放送1000回となる22日は、「おんな酒場放浪記」の倉本康子さん(右)と吉田類さんが東京・森下にある名店を訪れる(C)BS-TBS

 番組は2003年9月、東京・吉祥寺の焼き鳥屋「いせや総本店」からスタート。当初は情報番組のコーナーの一つだったが、その後、単独でレギュラー番組化され、09年から現在の月曜午後9時台に落ち着いた。1時間枠を15分ごと四つに区切り、冒頭で新作を放送、その後を再放送でつないでいる。各話とも街の散策から始まり、いつの間にか目の前に赤提灯(ちょうちん)が……といった展開で、店に入るやカウンターにいざなわれる。

 シュールアートの画家としてパリを拠点に活動後、イラストレーターに転身した類さんは、90年代から酒場や旅をテーマに執筆を続けてきた。その下見がてら、番組では老舗から路地裏の名店まで探索。この手のスタイルの番組は当時ほとんどなかった。放送開始から数か月が過ぎた頃、都内で電車に揺られていた類さんははっとした。サラリーマン風のグループが番組について話題にしており、 その中の一人が中学生の娘から着信したメールを読み上げたのだ。

 「早く帰って来ないと、あの番組、始まっちゃうよ」――。

 家族で見ているならウケる。そう確信した類さんは、次第に地方にも足を延ばすようになり、今では全都道府県を制覇。オホーツクの海の幸が堪能できる北海道・稚内の居酒屋、戦前から親しまれる東京・神田のおでんの老舗、昭和の洋館のような雰囲気の中で昼酒が楽しめる京都・新京極の店、さらには日本の最西端、沖縄・与那国島の料理屋まで、様々なタイプの酒場ののれんをくぐってきた。

 00年にBSデジタル放送が始まって以来ありとあらゆるタイプの番組が各局で制作されてきたが、その中で「酒場放浪記」は低予算ながら、世界に誇る日本の居酒屋文化を視聴者寄りの視線で活写。民放BS番組の代名詞へとのしあがった。「よくぞここまで続けてこられた」と振り返る類さん。思い出の店は数限りなく、「店主やお客さんとの何げない会話から店の歴史を知ることができ、どんどん見聞が広がって自分の執筆にも役立っていった」。

「女性一人で酒場に」「下町は量が多い」

店主や客らとの軽妙なやり取りこそが、番組のだいご味(18年放送の静岡・掛川「酒楽」の回)(C)BS-TBS
店主や客らとの軽妙なやり取りこそが、番組のだいご味(18年放送の静岡・掛川「酒楽」の回)(C)BS-TBS

 コロナ禍の今、新作の収録は客のいない時間帯に行われ、気軽に客に話しかける場面はなくなってしまった。勢い店主とのやり取りが中心になるが、類さんはどこか本調子でないようにも見える。というのも、以前は来店するなり、大勢の客から大歓迎を受け、とりわけカウンターの隣には、たいてい“美女”が腰かけていたからだ。なるほど、これは演出に違いない、と思って尋ねると、「いっさい仕込みはないんですよ」と真顔で否定した。

 「僕が居酒屋を巡るようになった頃から、女性が一人でも下町の大衆酒場を訪れるようになった。だから時代が変わったのではないですかね」

 また、注文して出てくる料理をよく見ると、価格に比して量が多いように見受けられる時も。特にお刺し身の種類や厚さは番組用の“吉田盛り”か? 後日、店を訪ねたら、思ったより量が少なくてがっかりするなんてことはあるまいか。

 「まったくそんなことないです」

 類さんは太鼓判を押す。「下町はどこに行っても量が多く、食べきれるわけがないくらい出てくる。学生街なら学生への思いやりであり、地方ならかつて食べられなかった時代の経験から、すこしでも多く食べさせてあげようという気持ちなんでしょうね」

 それにしても類さんはよく飲む。コップに注いでいるのは、酒でなく水なのではと不思議に思う視聴者もいるようだが、「そんなことをしたら店主とコミュニケーションが取れない。毎回、普通に飲ませてもらって酔っぱらってます」。

“健康飲み”と言いつつ飛んだ記憶

 健康管理はどうしているのだろう。

 「山歩きを続けていて、下半身を鍛えているのが健康の秘訣(ひけつ)」と運動の効果を強調するが、休肝日について尋ねると「酒は毎日飲んでます」と告白した。「ただね、溺れるような飲み方はもうしません。“健康飲み”ができるようになったんです」。そう胸を張る類さんだったが、先日行われた999回の収録で失態を演じてしまった。

19年放送の東京・神田のおでんの老舗「尾張家」。開店直後に訪ねたつもりでも、既に常連客が席についていた(C)BS-TBS
19年放送の東京・神田のおでんの老舗「尾張家」。開店直後に訪ねたつもりでも、既に常連客が席についていた(C)BS-TBS

 「沖縄料理の店で妙にうれしくなって飲んじゃって、まったく記憶がないんです」。俳人でもあり、毎回、一句ひねりださねばならないのだが、それもままならなかった。「まったくド素人ですね。ちょっとこの先も自信ないですね……」

 とはいえ、番組が長続きした理由は、この気楽さにあるのかもしれない。「番組のために自らを律するなんてしていたら、気鬱(きうつ)になってしまう。ストレスはためずに発散させる。いかに楽しく健康でいられるかには留意していますが、自然体でやらせてもらうしかない」

杖つき100歳まで続ける遊行

「初めの頃は素のまま臨んでいたが、今は自分の立ち位置を考えながらやっています」と話す(C)BS-TBS
「初めの頃は素のまま臨んでいたが、今は自分の立ち位置を考えながらやっています」と話す(C)BS-TBS

 もちろん誰よりも酒場文化の行く末を案じる。「大衆酒場の良さは密。みんな、密を味わいたくて店に通っている。その密がダメというのは異常なことだし、とても不自由だが、僕にはこれまで18年の思い出がありますから、なんとか耐えられる。でも、コロナ禍が明けても、ワンステップアップした飲み方をしなければならないでしょうね」

 そこで番組で培った酒場の楽しみ方を指南してくれた。「お客さんや店の方たちと距離を置くよう努めてきたんですよ。その間合いが大切。それがなければ番組がこんなに長く続かなかったでしょう。気がついたら間合いを取る習慣がついていた」。それがソーシャル・ディスタンスにもつながるという。「密を取り戻したいのは分かるが、そこに至るまでの手順がある。距離を取りながら大人の楽しみ方ができる。そういう形でこれからも酒場文化が支えられるのでは」

 最近では、大人ばかりかその子どもたちまでファンになり、似顔絵が送られてくることもあると明かす類さん。「いい呑兵衛(のんべえ)の見本になれれば」とうれしそうだ。「芭蕉のように(つえ)をつきながらでも全国を回り、海外まで足を延ばして100歳まで遊行を続けたい」。そんな姿をぜひ見てみたい。

 放送1000回となる22日は特別番組。東京・森下にある名店を訪ね、同局「おんな酒場放浪記」に出演する倉本康子さんとこれまでの名場面などを振り返る。

無断転載・複製を禁じます
1841613 0 エンタメ・文化 2021/02/14 11:19:00 2021/02/14 19:42:46 2021/02/14 19:42:46 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210210-OYT1I50043-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)