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大江健三郎さん寄託の自筆原稿「研究者にとって宝の山」…創作の秘密探る一級資料

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 東京大に寄託された作家の大江健三郎さん(86)の資料は、自筆原稿だけで1万枚を超え、世界の文学者の資料の中でも、屈指の大きな規模となる。現代の文学研究は、どのように作家が書いたのか創作の秘密を、原稿の推敲すいこう過程から探る草稿研究が盛んに行われている。その意味でも一級の資料となる。

「燃えあがる緑の木 第一部」の自筆原稿
「燃えあがる緑の木 第一部」の自筆原稿

 <死者たちは、濃褐色の液に浸って、腕を絡みあい、頭を押しつけあって、ぎっしり浮かび、また半ば沈みかかっている>

「死者の奢り」の自筆原稿
「死者の奢り」の自筆原稿

 大江作品の中で、豊かなイメージをかきたてる一文として特に有名な「死者のおごり」の冒頭。解剖用死体を扱うアルバイトをする男子学生を描くこの作品の書き出しが、寄託された自筆原稿は、「死者たちは」ではなく、「彼らは」とされている。冒頭の文章が与える衝撃は完成原稿の方が大きく、若き日の大江さんが、自作を練り上げた様子が伝わる。

 今回寄託された作品の原稿は、初期作品の「死者の奢り」や「空の怪物アグイー」から、中期の代表作である「同時代ゲーム」「『雨の木レイン・ツリー』を聴く女たち」、さらには近作の「晩年様式集イン・レイト・スタイル」までと幅広い。期間も1950年代から2010年代まで長期にわたる。

 東京大の安藤宏教授(日本近代文学)は「大江さんは、原稿を手で書くことに強い思いを持つ最後の世代の作家。多くの書き直しの跡を通し、作家の思考をたどることができ、研究者にとって宝の山だ」と語る。

 今回の寄託は、18年から19年に刊行された「大江健三郎全小説」(講談社、全15巻)の完結を受け、講談社や文芸春秋にある資料を研究に役立てたいと関係者の間で話が持ち上がった。1年近く検討が進められ、最終的には大江さんの自宅にある資料も含め、今年1月21日に大江さんの代理の家族と東大文学部側で契約書が取り交わされた。

 東大側は今後、保管や整理の方法を検討する。

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1838244 0 エンタメ・文化 2021/02/12 16:00:00 2021/02/12 16:00:00 2021/02/12 16:00:00 寄託された「燃えあがる緑の木 第一部」の自筆原稿(東京大文学部提供) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210212-OYT1I50050-T.jpg?type=thumbnail

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