「行くときはどーんと行くしかないんだ」と語った仲代達矢、巨大な背中追い続ける役所広司
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<STORY2>
1月1日に65歳になった。
父親が65歳の時に脳出血で倒れたこともあり、ずっと気になっていた年齢だという。

「企業だと定年で、年金生活をする時期なんですけど、役者は幸い、年寄りは年寄りなりに重宝してもらえるんで、もう少し頑張ろうかなっていう感じです」
気負わずに、2021年の抱負を語る。
元々は俳優志望ではなかった。長崎県から上京し、東京・千代田区役所に勤めていた頃、都合が悪くなった知人の代わりに、仲代達矢が出演した俳優座の舞台「どん底」を見に行き、心を動かされた。1978年、仲代が始めた俳優養成所「無名塾」が塾生を募集していることを知り、演技経験はゼロながら応募、狭き門を突破した。
公務員生活から一転、合宿のような、にぎやかな生活。「毎日が新しいことばかりで、楽しかったですよね。早く仕事をしたい、とか思ってなかったような気がします。みんなで稽古して、ここ(無名塾)で『おお、うまかった』と褒めてもらうことだけがテーマでしたね」
入塾当初から、大道具兼コロス(古代ギリシャ劇の合唱団)として、全国各地を公演で回った。舞台ならではのアクシデントをとっさの機転で回避する。体調が悪くてもなんとか乗り切る。そんな仲代の姿を間近で見てきた。
「よく、『清水の舞台から飛び降りるみたいなもんで、行くときはどーんと行くしかないんだ』とおっしゃってましたね」

師匠について語ると、自然と顔がほころぶ。歩き方から何から、様々なことを教わったが、今も覚えているのは、実は社会人としての心構え。
「あいさつをすること、遅刻しないこと。そんなことを、耳にたこができるぐらい言われましたね。それが僕には、すごく役に立っていると思う」
今年は公開中の「すばらしき世界」(西川美和監督)に続き、主演映画「峠 最後のサムライ」(小泉堯史監督)が7月1日に公開予定。司馬遼太郎原作、越後長岡藩の家老・河井継之助を演じたこの作品で、久しぶりに仲代と共演した。
「僕が出ているので、力を貸してくださったのではないでしょうか? ちょっと腰を痛めてらっしゃったときでしたが、それでも出てきてくださって。殿様と家臣の役ですけど、師匠と弟子とダブりますよね」
そんな師匠から今年も年賀状が届いた。
「88、米寿という数字、文字と、元気そうな写真が載っていました。舞台公演やるんですって。ほんとタフですよね」
65はまだまだ。巨大な背中が前を歩いている。(田中誠)