軸足を日本に置いた役所広司が「役者も監督もやれる」と憧れたのは…90歳現役のあの男
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<STORY4>
「あ、あれね!」
意外なところで声が弾んだ。
公開中の映画「すばらしき世界」(西川美和監督)で演じた元受刑者と、1997年公開の「うなぎ」(今村昌平監督)で演じた仮出所中の男の歩き方が「似てますね」と伝えたところ――。

「そうなんですよ。旭川刑務所に見学に行きまして、今はああいう歩き方はさせないって言ってました。でもこの人は2年以上、『シャバ』にいたことがないような人だから、やっぱり、あの歩き方がいいなと思って。で、西川監督もそれがいいって」
西川監督とは、不思議な縁がある。2006年に出演した米国映画「バベル」で、フランスのカンヌ国際映画祭に参加した時のこと。並行してカンヌで開催される「監督週間」に西川監督の「ゆれる」が出品されていた。帰国後に見て、いい監督だなと思った。以来、欠かさず作品を見て、いくつかの作品には感想のコメントを書いた。お礼の手紙には、17歳の頃、役所が殺人犯を演じたテレビドラマを見て感動した、という一文があった。
「いつかは声をかけてくれると思ってたんですけど、なかなか来なくて。やっと声がかかった!と思って」
いたずらっぽく笑う。
「人間の描き方が本当に丁寧だと思っていました。あの若さで、日本映画のオーソドックスな良さを、受け継いでいる人だなと思いますね」
作品選びの基準は、やはり脚本。「自分が観客だったらこんな映画を見てみたい」という企画を選んできた。先頃、出演が発表された4月公開の「バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~」(松居大悟監督)もそう。脇役が主役の映画にも楽しんで顔を出す。
2000年代半ば、海外の作品への出演が続いた時期もあったが、今は日本のスタッフと日本で映画を作ることにこだわる。
「もっと若かったらね、いろんな国に行って、と思うかもしれないけど。一番やりたいのは、日本で頑張った映画を、世界の人に見てもらうこと。それが一番早道というか。余生を日本にかけたいと思いますね」
あこがれは、90歳で現役のクリント・イーストウッド。「格好いいですよね。役者もやれるし、監督もやれるし。イーストウッドさんみたいに生きられるといいでしょうね」
ならば、余生どころか、これからが本番だろう。(田中誠)
(おわり)