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「これが俺の音楽」そう思った時、小曽根真の進化が止まる

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<STORY1>

 ステージにはピアノ1台。小曽根が奏でるモーツァルトの「小さなジーグ」の優美な調べに、会場の空気が和らぐ。

 「この曲のハーモニーの美しさを際立たせるには速く弾いてはいけない」と、多くのクラシックの奏者の演奏に比べるとゆったりめのテンポ。途中、かなり長い即興が織り込まれる。もっとも原曲を知らなければ、即興とは気づかないであろう均整の取れた豊潤なフレーズが紡がれる。

 「現代にモーツァルトが生きていれば、この曲はこうなっていたはずと思いをはせ構築した。即興ですが、作曲でもあります」

 一方、自作の「ストラッティン・イン・キタノ」では古典的なデキシーランドジャズをベースに軽妙洒脱しゃだつな雰囲気を醸し、「ザ・パズル」ではやんちゃな逸脱を交えスリリングに疾走する。

60歳の誕生日となった3月25日、東京・赤坂のサントリーホールで(写真・青柳聡)
60歳の誕生日となった3月25日、東京・赤坂のサントリーホールで(写真・青柳聡)

 ジャズという出自をしっかり土台に据えるが、同時にジャンルを軽々とまたぎ、彩りに富む風景を出現させる。60歳の誕生日である3月25日、主役一人で臨んだ東京・赤坂のサントリーホールのコンサートは、そんな挑戦的な場となった。

2台のピアノ、曲に合わせて使い分け

 この公演を手始めに、目下全国を回るツアーに取り組んでいる。演奏曲は3月に出したばかりのアルバム「OZONE 60」が軸になっている。表題からうかがえるように、60歳という年齢を節目として意識した2枚組みで、ディスク1はクラシックの著名曲を中心に、ディスク2はジャズの流儀にのっとった自作の新曲を収めたソロ・ピアノ作品集だ。水戸芸術館コンサートホールATMにスタインウェイとヤマハの2台のピアノを持ち込み、「この曲はどちらの音色がふさわしいかを吟味して使い分けた」と言う。

 「節目の年だからこそ、何の飾りもない、むき出しの自分を聴いてもらいたかった。近年、国内外のオーケストラと共演してクラシックの曲を演奏する機会が増えていましたが、独奏曲に本格的に取り組んだことがなかったので、これを機にと考えました」

 クラシックの演奏会に出演する時は、相手の土俵なので、楽譜に忠実という流儀を原則としてきた。が、今回は自分の土俵。ジャズ演奏家としての根幹とも言える即興を入れた。

 「本当は、大好きなプロコフィエフの『戦争ソナタ』だけは譜面に忠実にと思っていたのですが、13回録音しても気に入った演奏がない。翌日、再度収録した時に、アイデアが浮かび即興を入れたら、満足できる仕上がりになりました」

 一方、ディスク2は、作曲家としての側面を強調したかったという。「とかく著名曲をどう解釈するかが重視されがちなジャズだが、優れた新曲を生まなくては発展はない。歌詞に頼らない器楽曲で、どう自分の思いやメッセージを伝えていくのかを試行錯誤した」

 コロナ禍の中、力感あふれる「ニード・トゥ・ウォーク」は前進していく意思、華やかな曲調の「オールウェイズ・トゥゲザー」では連帯を訴え、聴き手を鼓舞した。一方で、「新たな境地を開けたかな」と思っているのが、漂うような叙情味に彩られる「誰かのために」だ。

 「聴き手を意識して、テーマや起承転結を明確にした曲作りを心がけてきました。でも、日常はドラマに満ちているわけでなく、目の前の大事なことを少しずつ積み重ねていくことで進んでいくものです。『誰かのために』は、そういった日々の営みの中のささやかな感情をすくい上げ、曲としてもあえて決着をつけないという、これまでの自分にはない表現を試みました」

自分の音楽…終生正解にたどり着けない永遠のテーマ

 節目を意識したと明言していたので、「現時点で小曽根真の音楽の本質と言えるものは?」という質問をぶつけてみた。

 「正直言って自分でも明確な答えがありません。『これが俺の音楽だ』と思ってしまった段階で、成長や進化が止まってしまうと思うんです。だから、その問いは終生正解にたどり着けない自分の永遠のテーマなのでしょう」

 終わりなき模索。新作はさしずめその決意表明でもあるのだろう。

文・西田浩

写真・奥西義和

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1957855 0 音楽 2021/04/03 05:00:00 2021/04/28 12:00:24 2021/04/28 12:00:24 60歳の誕生日となった3月25日、東京・赤坂のサントリーホールでソロ公演に臨んだ https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210402-OYT1I50061-T.jpg?type=thumbnail

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