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密林を10日さまよう・気温差100度のシベリア…視聴者くぎ付け「世界遺産」

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 息をのむ大自然の絶景も人類の営みを伝える文化財も、旅の大いなる目的の一つだ。コロナ禍でそれを間近にすることが容易でなくなった今、TBS系「世界遺産」(日曜後6時)が四半世紀を超える放送の中で、最高視聴率をたたき出している。最先端技術を駆使して撮影した映像に、巣ごもりを続ける人々がくぎ付けになっているのだ。「貴重な遺産を見られるのは自分たちの特権ではない」と視聴者還元を目指す制作陣だが、ごつい機材を担いで分け入る現場は、取材交渉から撮影までアナログそのもの。さながら冒険映画のようだ。

アラスカ・カナダの大氷河地帯。崩落の瞬間を撮るのは至難の技
アラスカ・カナダの大氷河地帯。崩落の瞬間を撮るのは至難の技

旅好きが高じてディレクターに、年の3分の1はロケ

 「学生時代、バックパッカーをやっていて世界中を回っていたんです。勤めようかどうしようか迷っていた時に、『世界遺産』を撮っている会社があるって聞きましてね」。同番組を10年以上担当するTBSスパークル・江夏治樹チーフディレクターが明かす。「テレビ番組を作りたいというより、もうちょっと世界を見ていたいと思って入社したんです」

18日は、切り立った岩山が連なるイタリア・ドロミーティを紹介
18日は、切り立った岩山が連なるイタリア・ドロミーティを紹介

 番組は1996年4月、ペルーのマチュピチュ遺跡からスタートして今月で25周年。これまでに紹介した世界遺産は、4日時点で、133の国と地域の668件に及ぶ。現地に飛ぶディレクターは、江夏さんのような猛者ばかり。1人が年に3回ロケに出かけ、1度のロケに1か月から1か月半を費やし、2か所の世界遺産を巡ってくる。ざっと1年の3分の1がロケ、残りの期間で編集作業と次の撮影の準備を行うサイクルが続く。

 日本からはディレクターのほか、カメラマンと音声などの担当者が参加。現地でコーディネーターや運転手らと合流するが、毎回苦労するのが機材だ。最近でこそ小型化した4Kカメラだが、それでも様々なタイプのカメラが5台ほど必要で、小型クレーンやドローンも持ち込むため、総重量は300キロにもなる。それらを現地の空港でまるでテトリスのように組み合わせて車の荷台に載せ、いざ目的地へ。だが、本物の苦労は車を降りてから始まる。

 南米アンデス山脈に広がる氷河と火山が織りなす絶景に迫ろうと、エクアドルのサンガイ国立公園を訪ねた時は、1トンにも及ぶ荷物をラバに載せ、ポーターも雇って往復12日間もキャンプを張り、毎日8時間歩き続けた。クライマックスである標高5000メートル超のサンガイ山登頂では、ベースキャンプを夜10時に出発し、帰って来たのは翌日の夕方6時。残念ながら山頂は曇っていたが、日本のテレビとしては初めて山頂の撮影に成功した。

マスクしたまま10日間もジャングルさまよう

コートジボワール・タイ国立公園では、ジャングルをかき分け、ついにチンパンジーが道具を使う場面をカメラに収めた
コートジボワール・タイ国立公園では、ジャングルをかき分け、ついにチンパンジーが道具を使う場面をカメラに収めた

 アフリカ・コートジボワールのタイ国立公園で、道具を使うチンパンジーを撮影した時は“少数精鋭”を余儀なくされた。現地到着後、フィールドワークを続ける研究者の下でまずは5日間の検疫待機。人間の病気を猿たちの生息地に持ち込まないための措置だが、それでも猿たちを刺激したくない研究者は当初、カメラマン1人しか森に入ることを許さない。そこで待機期間中、なんとか研究者をとりなし、江夏さんも同行することに。しかし、ここからが苦行の始まりだった。

 「蒸し暑く、虫だらけの手つかずのジャングルで、チンパンジーを追跡する。トゲトゲしたつたの絡まる道なき道をかき分けて行くんですが、三脚を前に突き出して持つと、密猟者の銃と勘違いして警戒されるので、リュックに隠して背負わねばならない。それが木々に引っかかるし、猿のほうはぴょんぴょん行っちゃうし。やっと追いついて三脚を立てたかと思うと、また移動してしまう。しかもこっちは飛沫(ひまつ)を飛ばさないようにマスクをずっとつけ続けねばならない」

仲間の動きを気づかうチンパンジー(タイ国立公園で)
仲間の動きを気づかうチンパンジー(タイ国立公園で)

 体力的な限界を感じながらも10日間ほどジャングルをさまよった末に、ようやく30分番組が成立するだけの映像が確保できたという。

氷河崩落の前兆に緊張、絶海の孤島に極楽浄土を見る

 アラスカ・カナダの氷河地帯では、高さ60メートルほどの氷の塊が、氷河に押し出されて海に崩れ落ちる。その場面を撮るのに苦労した。「崩れる前に雷のようなゴロゴロゴロという音がするので、そっちにカメラを向けるんですが、いい場面を画角にきちんと収めるのがすごく難しい。それが撮れたときは『やったぜ!』って思いますね」

 圧倒されるのは、こうした自然遺産ばかりではない。アイルランドの絶海の孤島、スケリグ・ヴィヒールは、年の半分以上は荒波のため近づけないが、断崖絶壁の頂上付近にはドーム状の建物が並ぶ。7世紀頃に建てられたキリスト教の修道院で、映画「スター・ウォーズ」シリーズのロケ地にもなった場所だ。「こんな過酷な場所に、小舟で近づいて石を積み上げて建物を作り、俗世を離れて暮らしていた。でも、晴れてぽかぽかした陽気だと、確かに極楽浄土のようで、なんとも言えない気持ちになる」

晴れて暖かな日は天国のようだというアイルランドの絶海の孤島、スケリグ・ヴィヒール
晴れて暖かな日は天国のようだというアイルランドの絶海の孤島、スケリグ・ヴィヒール

 何を幸せに感じるかは人それぞれだ。シベリア・レナ川の石柱自然公園を訪ねた時のこと。冬はマイナス60度、夏は40度にもなるこの地に暮らす老人に「なぜこんな厳しい場所に住んでいるのか」と尋ねると、「ここで生まれてここしか知らないから、そんなこと聞かれても分からない。冬は確かに寒いけど、そのぶん夏は天国だよ」と返ってきた。「わずらわしいこともなく、そこだけで完結する人生もある」と江夏さん。生きる意味について考えさせられた瞬間だった。

「最高の映像で記録」…当初の理念の大きさで決まる番組寿命

 だが、昨年4月、コロナ禍で欧州ロケが中止になって以来、海外ロケには出ていない。現地のカメラマンに綿密な撮影指示書を渡して撮ってきてもらい、送られてきた映像を編集するリモートロケを続けている。そんな作り方をしているなんて、全くうかがい知れない出来栄えには驚くばかりだ。

 「これまでは、なんとなくロケ前に雰囲気を固めた上で、現場でなんとでも対応できた。それができないぶん、事前の勉強量が増えた。自分が行ったことのない場所の時は特にそう。準備に時間がかかるし、現場に行けないフラストレーションもたまる」。江夏さんは苦笑する。

タンザニアのンゴロンゴロ保全地域では、壮観な光景をとらえた(25日放送)
タンザニアのンゴロンゴロ保全地域では、壮観な光景をとらえた(25日放送)

 同じ場所にも繰り返し足を運ぶのがこの番組だ。「キリマンジャロの氷河が如実に小さくなっているとか、記録し続けてきたからこそ見えてくるものがある」。TBSの堤慶太プロデューサーが語る。また、イスラム過激派組織「イスラム国」によって破壊されたシリアのパルミラ遺跡など、もはや映像でしか残されていないものもあり、番組の意義は大きい。

 折しも昨年度の平均世帯視聴率は、関東地区で7・1%(ビデオリサーチ調べ)と過去最高を記録。巣ごもり視聴に後押しされたのは間違いない。「(コロナ禍に関わらず)海外に行けない人たちにも見てもらえるようにするのが番組の大きな役割。世界遺産を最高の映像で残すという理念がしっかり25年続いている。立ち上げの時のコンセプトは大切で、そのスケール感で番組の寿命も決まる。今後も映像遺産としてアップデートを続けていく」

 現場を預かる江夏さんも力を込める。「今の時代、YouTubeに個人で世界遺産の映像をアップすることもできるが、それには負けたくない。普段見られないものを現地でせっかく見せてもらうのだから、自分たちだけでなく、みんなに見てもらわなきゃいけない。それを最先端技術による圧倒的な映像の力で紹介していく。テレビだからこそできることってあると思うんですよ」

 娯楽色を一切排し、徹底的に映像にこだわる姿勢は、放送文化の担い手として民放の公共性を強く感じさせる。

 写真はいずれも(C)TBS

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1993278 0 エンタメ・文化 2021/04/18 08:58:00 2021/04/18 14:29:43 2021/04/18 14:29:43 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210412-OYT1I50057-T.jpg?type=thumbnail

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