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「食べていかないと…」でもポストがない、研究室の元助手が飛び込んだ「SF翻訳」の世界

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 宇宙や未来社会を描いたSF、ミステリーなどの海外文学の翻訳で知られる出版社の早川書房で働く編集者の(とう)(ぼう)(あや)さん(51)は、国立大学物理学研究室の元助手という異色の経歴の持ち主だ。
 物の性質を調べる研究に没頭していた30歳代半ばで転身を決意し、実験で磨いた物理と中学時代から親しんできたSFの豊かな知識を生かして、今日も珠玉の物語の探索を続ける。

夢中になれるSF小説で 若者に理系への夢を

「編集者は文系のイメージがあったけど、理系の私でも打ち込める仕事です」と話す東方さん(東京都千代田区の早川書房で)=奥西義和撮影
「編集者は文系のイメージがあったけど、理系の私でも打ち込める仕事です」と話す東方さん(東京都千代田区の早川書房で)=奥西義和撮影

 「すごい。これは売れる」。米国のSF「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」の原著を読み、そう直感した。日本が米国を支配する架空世界で、巨大戦闘ロボットが活躍する小説だ。日本語版は本国を上回る人気となり、日本国内で出版されたSF小説に対する最高の栄誉の「星雲賞」に2017年、輝いた。

 翻訳SF班の一員として、月2冊の出版に携わる。SFの本場・米国での受賞作や売り込みがあった作品に、きめ細かく目を通していく。英語の小説を読むことは、学生時代からお手の物だ。企画が社内で通り、版権交渉をクリアすると、訳者に翻訳を依頼。できあがった原稿の編集作業にとりかかるだけでなく、PR文の執筆、カバーイラストの決定まで、本が書店に並ぶまで手がける仕事は山ほどある。

 「読んでいるとつらいことも忘れて夢中になれる。未来の話は、特に若い人たちに夢を与えてくれると思う。自分もそうだった」。こう魅力を語るSF小説は、いつも人生の針路を照らす道しるべだった。

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 米国の物理学者が著した「竜の卵」という小説に高校時代に出会った。極めて重力の強い「中性子星」という天体に住む生物と人類との交流を描いたSFだ。登場する女性科学者にあこがれ、理系の大学進学を決めた。

 4年生になって選んだのが、鉄やマンガン、レアメタルなどを含む化合物の磁気的な性質を調べる研究室。月の石に多く含まれるイルメナイト(チタン鉄鉱)を用いて実験した。

研究者時代の東方さん。物質の性質を調べる実験に没頭していた(スイスのポール・シェラー研究所で、2001年撮影)
研究者時代の東方さん。物質の性質を調べる実験に没頭していた(スイスのポール・シェラー研究所で、2001年撮影)

 助手として採用された東北大の研究所は、指導教官も学生も全員女性だった学部・大学院時代とは打って変わり、女性の割合はわずか1割。100人の研究会に顔を出すと、女性が自分だけということもあった。物理という学問はここまで男社会かと戸惑ったものの、実験に打ち込める研究生活は充実していた。

 「まだ特性が知られていない化合物をつくり、中性子を照射する装置などを使って分析しました。実験結果の解釈がわかった瞬間は、パズルが解けたみたいで興奮したものです」

■□■□

 転機が訪れたのは、2005年。35歳の時だ。助手の雇用任期が決まっていたので、新しい職場を探す必要が出てきたのだ。

 政府の「ポストドクター等1万人支援計画」によって、博士号取得者が大幅に増えた時代だった。大学には、それに見合ったポストがなく、就職難が心配され始めていた。いくつかの研究職に応募したが、狭き門だった。「食べていかないといけない。違う道に進もうかと考えた時、SFのことが思い浮かんだのです」

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1991551 0 エンタメ・文化 2021/04/17 10:02:00 2021/04/17 10:02:00 2021/04/17 10:02:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210413-OYT1I50101-T.jpg?type=thumbnail

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