読売新聞オンライン

メニュー

同時配信「NHKプラス」、過去番組サイトと一体化できぬ「複雑な」事情

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 リアルタイムで放送中のものから懐かしの名作まで、テレビ番組の視聴サイトが百花繚乱(りょうらん)となる中、同時配信と見逃し視聴が楽しめる「NHKプラス」が本格スタートから1年を迎えた。受信契約者向けのサービスで追加負担はなく、登録申請数は160万件にまで増えた。だが、一方で過去番組の有料配信に特化した「NHKオンデマンド」(NOD)も存在する。どちらもネット視聴に変わりはなく、使う側からすれば一体化してくれても良さそうなものだ。しかしそこには、国民の受信料で成り立つ公共放送ならではの“複雑な”事情があった。(読売新聞オンライン 旗本浩二)

登録申請160万件、手続き問い合わせ多数

スマホでも気軽に見られるNHKプラス
スマホでも気軽に見られるNHKプラス

 「帰宅が遅くなり、テレビで大河ドラマを見られそうにない」――。そんな事態も想定して、スマホなどの通信機器でも見られるようにしたのがプラスだ。番組を放送と同時にネット配信するサービスで、昨年4月に本格スタート。現在、総合テレビとEテレの番組を同時配信し、放送時間比では総合の9割以上、Eテレの7割以上となる。これならニュースもドラマも手元で自由自在だ。

 とはいえ、放送の時間帯はほかにやることがあって見ているひまはない、という人も多いだろう。そんな人に向けては見逃し配信も行っている。民放などのサービス同様、放送後7日間程度、見られるようにしてあるのだ。

 プラスの利用は受信契約者に限られ、生計を一にする家族なども使える。サイトの登録手続き画面にメールアドレスを打ち込んで送信。返信されたメールに基づいて、IDやパスワードを自ら設定、氏名や住所などの契約情報も入力して利用を申し込む(登録申請)。ここまでの手続きを経てログインすれば、同時配信画面に表示されていた契約を促すメッセージが消え、見逃し視聴もできるようになる。

 ただ、契約の事実はもちろんNHK側がチェック。後日、送られてくる確認コードを入力して晴れて正式に「登録」される。契約が確認されないと再びメッセージが現れ、見逃し番組は見られなくなる……。手軽な手続きとは言い難く、登録方法に関する問い合わせは多い。それでも登録申請件数は3月末までに160万件に上り、実際の登録数は130万件弱。昨年度第4四半期は、1週間あたり50万程度の視聴数があった。

視聴状況が激変、タイムシフト時代に突入

 元々、NHKの同時配信は、パソコンやスマホなどの通信機器で容易に動画が見られる時代にあって、放送番組も幅広くネット経由で見られるようにすべきだ、との発想に基づいている。2011年には、会長の諮問機関「受信料制度等専門調査会」が、報告書の中で「NHKはインターネットでも『放送』が果たしてきた役割・機能を提供できる」と明言。そこに受信料を投入する妥当性や、ネット経由の視聴世帯も受信料の支払い対象者に追加する方向性まで示している。

東京・渋谷のNHK放送センター
東京・渋谷のNHK放送センター

 ネット社会の広がりを考えれば、発想としてはありえようが、これに対しては民放などから公共放送の肥大化を懸念する声が噴出した。紆余(うよ)曲折の果てにプラスは、受信料で運営するものの、全チャンネルの同時配信とはいかず、しかも1日18時間程度に制限されることになった。今年度はさらに1時間延長されたものの、同時配信は「妥協の産物」に過ぎず、調査会が思い描いた将来像には程遠い現状だ。

 一方、この10年で番組の視聴状況が激変した。プラスに見逃しサービスが盛り込まれたように、自宅の録画機器、ネット経由の見逃しサービスなどを介したタイムシフト視聴が定着。以前のようにテレビ局が決めた放送時間に暮らしを合わせるのでなく、自分たちの生活時間に合わせて様々な番組をチョイスする時代に突入しているのだ。

 この点、経営企画局の小川博司副部長は「プラスは同時配信がコア。利用者の中で、仮に見逃し視聴の方が多かったとしても、同時配信をやめることはない。あくまでセットで提供する」と強調。リアルタイム視聴機会の拡大こそがサービスの大前提のようだ。

「見放題パック」で売り上げ好調なNOD

 でもどうだろう。そもそもリアルタイム視聴でないといけない番組とは?

 よく言われるのはニュースだが、注目ニュースは、その後の報道番組などで何度も繰り返される。選挙や大事件など速報性が重視されるものでなければ、テレビにかじりついて初報にこだわる必要もない。となると、番組視聴のライブ性が不可欠なのはやはりスポーツ中継ぐらいになりはしまいか。もちろんテレビは、なんとなくつけておく“ながら視聴”のメディアとの捉え方もあろうが、放送後視聴は今後さらに広がるだろう。

NHKオンデマンドのトップ画面
NHKオンデマンドのトップ画面

 これはオンエアから1週間程度の見逃し配信に限らず、それ以前の放送番組も含まれる。08年に始まったNODは、有料アーカイブサイトとしてこれに対応したものだ。パソコンやスマホで直接見るか、ケーブルテレビなど外部プラットフォームを介して視聴するかいずれかの方式で、BS番組も含め約9000本を配信。単品購入もできるが、音楽・映像配信のトレンドに合わせた「見放題パック」が人気だ。

 見放題パックは当初、放送後2週間程度の「見逃し」と、それ以上経過した番組を見る「特選」の二つがあったが、プラス開始に合わせ、昨春、両者を統合。月額990円(税込み)で、直近の番組から昔の名番組までシームレスに楽しめるようになった。これにより、実質的な値下げとなり、さらにコロナ禍の巣ごもり需要もあって昨年度は、単品またはパックを購入した有料会員数も、実際の視聴数も共に過去最高を記録。未購入者も含む全290万人の登録会員のうち、どの程度が番組を購入しているかは非公表だが、今年度の売り上げ予測が36億円と昨年度より20億円以上多く見積もられていることからすると、好調なのは間違いなさそうだ。

 利用者の中には「見たい番組がない」との声もあるが、オンデマンド業務室の近江寧基(やすき)専任部長は、「人気番組ばかり出しているわけでなく、長期間置いておく価値のあるものは極力配信している。ただ、出演者ら権利者の許諾が得られなかったり、配信権料があまりに高かったりするものがあるのは事実」と説明する。

一体化議論の前に「まずは収支改善」

 ネットの世界にプラスとNODで斬りこんだNHK。使い分けとしては、放送と同時またはその後7日程度の見逃し視聴はプラスで、見逃しも含め過去の番組はNODで。こんな感じになるのだろうが、利用する側からすれば「一体化」の方が使い勝手がいい。なにしろ両方に登録するのは面倒だ。

NHKの前田晃伸会長
NHKの前田晃伸会長

 ところが、両者の立て付けは根本的に異なる。公共放送であるNHKの財源は、放送受信機器の所有者が支払う受信料であるため、通信サービスであるNOD事業までそれで賄うわけにはいかず、受信料会計とは別の独立採算で処理されている。配信番組の制作、権利許諾、設備など、放送サービスとは別に経費が必要になり、利用者負担として有料で提供しているのだ。NDOの収支は、13年度に初めて単年度黒字となり、その後、17年度を除き黒字を続けているが、実は累積の繰越欠損金(赤字)が解消されておらず、昨年度中間決算時で58億円が残っている。

 他方、プラスは、リアルタイムで流す放送の視聴機会拡大に向けた補完的サービスと位置付けられ、受信料を投入。今年度予算は人件費等含め54億円を見込む。利用者が受信契約者に限られるのは、こうした事情に基づいているのだ。

 近江専任部長が明かす。「プラス開始時にユーザー登録が一体化できないかとの議論は確かに内部であった。だが元々、NODは、NHKのアーカイブを一般に還元するのが目的で、個人単位で契約してもらっている。プラスは受信契約にひもづいており、世帯単位。成り立ちが違う以上、そう簡単にはいかないんです」

 だが、やはりネット上のサービスである点は同じで、同時配信と過去番組の視聴で使い方に差はない。とりわけ「見逃し」では、大河ドラマ、連続テレビ小説などかなりダブっている。ならば、ネット全盛期の今、プラスが受信料会計に入っている以上、NODもそれに含めてもいいような気もする。そもそも、NHKの番組は受信料で制作されているのだから、NODのサービスを享受できるのも受信契約者に限り、その上で、プラス同様、追加負担なしにしてはどうかという声もあろう。

 この点を広報局に尋ねたところ、「ネットサービスの将来的な在り方については、利用者・視聴者のご要望も踏まえつつ、不断に検討していきますが、NODについては、繰越欠損金を踏まえて、まずは収支改善に取り組んでいるところです」と回答があった。なるほど赤字58億円は確かに重い(かせ)のようだ。

ライフスタイルの変化、見定める必要性

 NOD利用者の中には、受信契約を結んでいない人もいれば、そもそもテレビを持たず契約対象外の人もいる。こうした利用者は、放送後の番組を受信料よりも安価な料金で見ている形となり、不平等感を覚える契約者もいるだろう。

 これについて、近江専任部長は「NODにはニュースもスポーツ中継もなく、受信契約をしない限りNHKのサービスをフルでは見られない」と利用範囲が限定されている点を指摘。他方、テレビを持たない人たちの利用にはこんな見解を披露してくれた。

 「テレビを持たない人たちにもNHKコンテンツに触れていただく、タッチポイントを増やす意味では、NODにも一定の価値がある」

 つまり、放送の補完サービスであるプラスをさらに補うものがNODという位置づけのようだ。ただ、今後、テレビを持たない人が増えれば、公共放送の財源確保の上でこうした状況は放置できなくなるかもしれない。

 放送と通信が融合したネット全盛時代、NHKは公共放送から公共メディアへの進化を標榜(ひょうぼう)している。反面、ネット事業を含め、その業務範囲を再考するよう求められてもいる。さらにタイムシフト視聴が当たり前となりつつある今、同時配信にどこまでニーズがあるのかも揺らいでいる。テレビ離れも含め、国民のライフスタイルの変化を、公共放送として今一度見定める必要があろう。

無断転載・複製を禁じます
2038480 0 エンタメ・文化 2021/05/09 09:18:00 2021/05/09 09:18:00 2021/05/09 09:18:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210506-OYT1I50052-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)