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「だめだめ!」制止された審査委員長、ハプニングの授賞式…カンヌ映画祭日記

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 12日間にわたるカンヌ国際映画祭も、いよいよ最終日。17日の授賞式の模様をお伝えします。驚きのハプニングや、脚本賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督の誠実な姿勢も目撃しました。(文化部 浅川貴道)

授賞式後、記者会見する審査委員長のスパイク・リー監督(中央)。「フライング」発表も、意に介さない様子でした
授賞式後、記者会見する審査委員長のスパイク・リー監督(中央)。「フライング」発表も、意に介さない様子でした

「ドライブ・マイ・カー」海外記者も高評価

 開幕式は午後7時半から。この日、会場内のプレスルームは、朝から各国の記者たちが行き交い、慌ただしい様子です。「○○監督の作品が良かった」「パルムドールはあの作品だ」。そんな会話も聞こえてきます。どの記者たちも、夜の授賞式に向けて準備に余念がありません。

 海外の記者から、「日本の記者ですか? 『ドライブ・マイ・カー』はすばらしかったよ」と声をかけられたりもし、ちょっとうれしい気分になります。映画誌の評価などでも、軒並みかなり好評な同作。これだけ評判が良ければ、きっと何かの賞が取れるのでは? そんな期待が高まります。

 準備を進めるうち、あっという間に時間は過ぎ、授賞式の時間がやってきました。式に出席する監督や俳優たちは再び正装してレッドカーペットを踏みしめます。記者たちは記者会見場に集まり、その様子をモニターでじっと見つめます。

 次々に現れる出席者の中に、濱口監督の姿も見えました。公式上映の時とは比べものにならないカメラの放列に、ちょっと緊張しているようにも見えます。そして、審査委員長のスパイク・リー監督ら、審査委員団が招き入れられ、運命の時間が始まりました。そこで、思わぬハプニングが。

脚本賞・濱口竜介監督、誠実な語り口で謝意

授賞式後、記者会見場に現れた濱口竜介監督。ちょっとお疲れ気味?
授賞式後、記者会見場に現れた濱口竜介監督。ちょっとお疲れ気味?

 「パルムドールは『チタン』……」。式が始まって、名誉賞などが発表され、さあこれから主要な各賞を順番に発表というところでコメントを求められたリー監督が、手元のカードを見てそう口走ったのです。パルムドール発表は本来、最後の最後のはずなのに。

 壇上の審査委員たちが「スパイク、だめだめ!」と慌てて制止します。ざわつく会場。記者会見場の記者たちも、「今、パルムドールを先に言っちゃった?」と顔を見合わせます。モニターには、「あちゃー」という表情で苦笑いを浮かべるリー監督。どうやら本当に「フライング」をしてしまったようです。思わぬハプニングでしたが、リー監督の 愛嬌(あいきょう) のある表情に、会場もなんだか「仕方ないね」という反応です。

 濱口監督は、周知の通り脚本賞でその名を呼ばれました。登壇した監督は、落ち着き払って、原作の村上春樹さん、共同脚本の大江 崇允(たかまさ) さん、出演俳優の皆さんに感謝の言葉を述べました。その誠実な語り口は、そのまま彼のきめ細かいタッチの映画作りにもつながっているようでした。

パルムドール受賞作「チタン」の一場面 (C)Carole Bethuel
パルムドール受賞作「チタン」の一場面 (C)Carole Bethuel

「チタン」デュクルノー監督「完璧な作品なんてないんです」

 そして、パルムドールの発表へ。プレゼンターは「氷の微笑」でスターになった女優シャロン・ストーンです。リー監督は、「2度目の挑戦だ」と言って、受賞作が書かれたカードを彼女に手渡します。そして、「チタン」の名が読み上げられました。監督はフランスのジュリア・デュクルノー。女性監督の同賞受賞は1993年、「ピアノ・レッスン」のジェーン・カンピオン監督以来2度目です。「チタン」は、幼い頃に自動車事故で頭にチタンの板を埋め込まれた少女が成長後にたどる数奇な運命を、ハードな描写で見せる異色作です。

授賞式後、「チタン」の出演者2人とともに記者会見に臨んだジュリア・デュクルノー監督(中央)
授賞式後、「チタン」の出演者2人とともに記者会見に臨んだジュリア・デュクルノー監督(中央)

 主演俳優たちと登壇したデュクルノー監督は、子どもの頃から毎年映画祭をテレビで見ていたと話し、「子どもの頃、賞を受ける作品はみな完璧だと思っていた。私は同じステージに立ったけれど、自分の作品は完璧ではないと知っている。でも作った人からすると、完璧な作品なんてないんです」と、興奮気味にスピーチしました。

 こうして幕を閉じたカンヌ国際映画祭。記者たちはここから記事を書くので、まだ一仕事ありますが、どこか充実感が漂います。そして不思議な体験が。会期中、1日に平均3本も映画を見ていると、不思議なことに街の風景や会場を行き交う人たちが、映画の1シーンのように見えてきたのです。これが映画の魔法かもしれません。改めて映画のすばらしさを実感した祭典でした。ビバ・ル・シネマ!(映画万歳!)(おわり)

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2221109 0 エンタメ・文化 2021/07/20 15:00:00 2021/07/20 15:03:17 2021/07/20 15:03:17 記者会見する審査委員長のスパイク・リー監督(中央)。フライング発表も、「フライング」発表も、意に介さない様子でした https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210720-OYT8I50030-T.jpg?type=thumbnail

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