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「映画は続く」カンヌ力強く…コロナ禍 2年ぶりの祝祭 パルムドール 女性監督・新部門に注目作

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 南仏カンヌで行われた第74回カンヌ国際映画祭は17日夜(日本時間18日未明)、12日間の会期を終えて閉幕した。世界的な権威と規模を誇る映画祭。コロナ禍により、昨年は華やかな祝祭の開催を断念したが、今年は感染対策を行った上で敢行。映画、そして映画祭の存在感をアピールした。(文化部 浅川貴道)

授賞式で、プレゼンターの女優、シャロン・ストーンさん(右)からパルムドールのトロフィーを受け取るジュリア・デュクルノー監督=ロイター
授賞式で、プレゼンターの女優、シャロン・ストーンさん(右)からパルムドールのトロフィーを受け取るジュリア・デュクルノー監督=ロイター
パルムドールのフライング発表をしてしまったスパイク・リー審査委員長(左から2人目)=AP
パルムドールのフライング発表をしてしまったスパイク・リー審査委員長(左から2人目)=AP
「チタン」(c)Carole Bethuel
「チタン」(c)Carole Bethuel

 今年の最大のトピックは、最高賞パルムドールにフランスのジュリア・デュクルノー監督の「チタン」が輝き、史上2人目の女性のパルムドール受賞監督が生まれたことだ。女性監督の受賞は、ジェーン・カンピオン監督が「ピアノ・レッスン」で受賞して以来、実に28年ぶりの快挙だ。

 今年のコンペティション出品作24本のうち、女性監督作品は「チタン」を含め4本だったが、スパイク・リー監督を長とする審査委員団は9人中5人が女性で初めて過半数を超えた。映画界におけるジェンダー問題に取り組もうとする映画祭側の姿勢の表れと言える。

 もっともリー審査委員長は授賞式後の記者会見で「われわれは監督が女性かどうかは、議論しなかった」と述べ、あくまで作品至上主義で結果を出したと強調した。確かに「チタン」は、作品そのものが刺激的だった。幼いころ交通事故に遭い、側頭部にチタンの板を埋め込んだ少女の数奇な物語。彼女は成長後、近づく者を次々殺害し、自らの体も傷つける。強烈なのは、彼女が自動車との間に子供を宿すという筋立て。その斬新さが、審査委員の心をつかんだようだ。

 パルムドールは授賞式最終盤で発表することになっているが、各賞発表冒頭でリー審査委員長がついフライング発表してしまう一幕もあった。

 最高賞に次ぐグランプリに選ばれた2作は、先鋭的な「チタン」とは対照的に、人生の一場面を丁寧に織り上げる作品だった。

 アスガー・ファルハディ監督(イラン)の「ヒーロー」は、借金を返せないことで収監されるという同国の法制度の中で生きる市井の男の悲哀を描く。ユホ・クオスマネン監督(フィンランド)の「コンパートメントNo.6」は、フィンランド人女性がロシアを鉄道で旅する中での印象的な出会いを、優しいドラマに仕立てた。いずれも派手ではないが、実直で丹念な物語作りが心に残る良作だった。

 このほか、パリで起きた政権への抗議デモで負傷した男性が運び込まれた病院から、救急医療の窮状が浮かび上がる「ディバイド」(カトリーヌ・コルシニ監督)、アフリカ・チャドを舞台に、少女の望まない妊娠をテーマにした「リンギ」(マハマト・サレ・ハルーン監督)など、いわゆる“社会派”の作品も目立った。

 2年ぶりの華やかな祝祭。映画界の世界的ビッグネームがコンペティション部門に並ぶのは、カンヌの常。その中で「アネット」のレオス・カラックス監督(仏)は監督賞を受賞。「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」のウェス・アンダーソン監督(米)は、豪華キャストと共に登場し、映画祭を鮮やかに彩った。

 加えて今年のカンヌは、「カンヌ・プルミエール」という新たな部門も設け、世界の注目を集めそうな多種多彩な新作を集めた。長年カンヌを取材してきたジャーナリストの佐藤久里子さんは、「今年のカンヌには並々ならぬ決意を感じた。2年ぶりの現地開催で、(カンヌと並ぶ世界三大映画祭である)ベネチア、ベルリンというライバルに対抗して、存在感を示そうとしたのでは」と解説する。

 会場では参加者らへのPCR検査を義務づけるなどしたが、祭典の熱気はそがれなかった。優れた作品には大きな拍手が送られ、記者会見では複数の監督や俳優が「映画は続く」と、力強く宣言したのも頼もしかった。これまでにない状況で映画祭を完走させたことは、映画界の希望となるだろう。

濱口竜介監督
濱口竜介監督

脚本賞・濱口監督…丁寧な物語作り 評価

 日本作品初の脚本賞を受賞した濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」。今作の脚本は、村上春樹さんの原作小説を基に、「流れるように書く」ことを意識したという。

 「とにかく何度も何度も原作を読む。それを繰り返し、自分の中にある種の要素がインプットされたら、一気に流し込むように書く」。授賞式後の記者会見で、濱口監督は、今作の執筆についてそのように語った。

 登場人物の関係性の変化が自然に受け止められるよう、何度も丹念に書き直すうち、「村上さんのテキストに書かされる」感覚になったという。こうした丁寧な物語作りが、大舞台で評価されたことになる。

 パルムドール監督の是枝裕和さん、グランプリ受賞経験者の河瀬直美さんに続く世代の日本人監督が、カンヌに足跡を残したことは日本の映画界にとって大きな意味を持つ。42歳とまだ若く、2018年の「寝ても覚めても」以来、コンペティション部門選出は2作目。「(今回の出品は)『ルーキー枠』という気持ちだったので、賞を取れたらこんなにありがたいことはない」とも語り、将来への期待にも、「これからも淡々と作りたい」と穏やかな表情を崩さなかった。

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2225413 1 エンタメ・文化 2021/07/22 05:00:00 2021/07/22 05:00:00 2021/07/22 05:00:00 The 74th Cannes Film Festival - Closing ceremony - Cannes, France, July 17, 2021. Director Julia Ducournau receives the Palme d'Or award for the film ”Titane” from Sharon Stone. REUTERS/Eric Gaillard https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210721-OYT8I50103-T.jpg?type=thumbnail

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