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断れない受信料で生み出す「新しいNHKらしさ」とは何か…開発番組を検証

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 テレビがあるならNHKと受信料契約--。戦後間もない頃から長らく続くこの受信料制度のもと、国民の負担で制作される番組とはどうあるべきか? ネット全盛時代の今、構造改革を打ち出したNHKが「新しいNHKらしさ」を追求する番組開発に乗りだして半年が過ぎた。これまでに30本以上を放送してきたが、公共放送が進むべき道は見えてきたのだろうか。(読売新聞オンライン 旗本浩二)

暗号資産について、町田啓太(写真)が分かりやすく解説してくれた「21世紀の複雑社会を超定義」
暗号資産について、町田啓太(写真)が分かりやすく解説してくれた「21世紀の複雑社会を超定義」

年50本規模の番組開発「若年層は想像以上の好反応」

 「新しいNHKらしさ」は1月発表の2021~23年度の経営計画で打ち出されたテーマ。それを具体化するために今春から、総合テレビのゴールデン・プライム帯(午後7~11時)で発想や演出にこだわった情報バラエティーやドキュメンタリーを年50本規模で放送していくことになり、現在、折り返し地点を過ぎたところだ。

 ゴールデンウィークには第1弾として、宇宙人の目線から今の地球が抱える問題を取り上げる「いとしの地球アワー」や、運転手と乗客の一期一会を定点観測する「あのとき、タクシーに乗って」など5作を放送。視聴者の反響を調べたところ、世代など属性によって反応が分かれる番組が多く、視聴者ニーズの多様化が進んでいることが浮かび上がった。確かに56歳の自分からしても、第1弾は今一つ狙いが見えてこないものが目立った。

 第2弾以降はどうだったか。番組開発を統括する放送総局の有吉伸人特別主幹は「NHKが元々得意なドキュメンタリーや教養番組を新しい演出、テーマ設定で見せるものを何本か放送したが、それらへの若い年代層の反応が想像以上に良く、可能性のあるものはいくつもある」と自信を見せる。主な番組は別表に記した通り。具体的に見ていこう。

一日密着99の質問、職場の倉庫を探索

 ドキュメンタリーでは、取材対象に一日中密着して99の質問を浴びせる 「99Q」斬新(ざんしん) だった。ゆりやんレトリィバァのキャラをうまく引き出し、人となりが互いの空気感の中から浮かび上がった。 「シェア・ストーリーズ」 は、著名人でなく市井の人々の言葉にこそ含蓄があると感じさせた。 「21世紀の複雑社会を超定義」 は、難解な暗号資産について、漫画を駆使して分かりやすく解説。新感覚の教養番組のテイストだった。 「職場遺産」 は目の付けどころが良く、アイデアの勝利だろう。

「人生最後の会話」をテーマに市井の人々の言葉に耳を傾けた「シェア・ストーリーズ」
「人生最後の会話」をテーマに市井の人々の言葉に耳を傾けた「シェア・ストーリーズ」

 全体を通して情報バラエティーが多い。 「悲→喜カメ」 は“メタ認知”なる考え方を基に、厳しい上司やおもちゃを散らかす子どもへの対処法を示そうと試みたが空回り感は否めなかった。

  「笑いをシェアしよう!れこめん堂」「コンテンツ・ラヴァーズ」「3分ドキュメンタリー」 の3作は、スタジオ出演者が好みのお笑い芸人やドラマ、ドキュメンタリーなどを紹介する趣向だが、宣伝の枠を超えるものでなく、改めてテレビで紹介する意味が不明だった。「れこめん堂」について、有吉特別主幹は「番組アーカイブを使って違う世代間に共通の興味が生まれる。エンタメ番組は世代と世代を結ぶことができる」と説明。逆に「3分」は「スタジオトークも含め、名作の魅力をうまくプレゼンテーションし、本編視聴に至る入り口を作るのが目的」と語る。ドキュメンタリーを巡る「食わず嫌い」の状況を踏まえた苦肉の策のようだ。

  「ゲームゲノム」 は、人気ゲームの注目点を紹介するVTRを受けたスタジオ出演者のコメントに、なるほどと思わせるものがあった。しかし、ほかの記者に尋ねてみると、たいしてツボにはまらなかったようだ。逆に 「阿佐ヶ谷アパートメント」 を推されたが、自分としてはうるささにひいてしまった。

「ゲームゲノム」はゲームを文化として捉え、本田翼(写真)、星野源、ゲームクリエイターの小島秀夫がその魅力を語り合った
「ゲームゲノム」はゲームを文化として捉え、本田翼(写真)、星野源、ゲームクリエイターの小島秀夫がその魅力を語り合った

タレントからワイプまで目立つ民放的演出

 繰り出された番組の様々な企画意図は理解できないでもない。ただ、 「世界四大化計画」 を始めとして内容的にはそれなりに面白くても、はっきり言えば、民放番組と寸分変わらぬ演出を施したバラエティー番組が目立つ。「家族で一緒に見られるものを作りたい気持ちが強く、入り口としてエンタメの演出を取り入れたものはある」。となると、お笑いタレントやアイドルに偏った感のあるスタジオ出演者たちも気になる。

 一般論としてバラエティーでスタジオ出演者を使うのは、トークの面白さはもちろん、VTRを視聴者に見てもらう際のポイントを示したり、意味合いを 咀嚼(そしゃく) したりする役割を担ってもらう時だろう。「タレントありきで構えているわけではない。番組のコンセプト、狙う視聴者層があって、そこに刺さるためにタレントに出演してもらっている」。あくまで中身次第だと有吉特別主幹は強調する。「とっつきにくいものを見やすくし、視聴者目線で話すことで親近感も持たれる。それにより番組の理解が進むなどプラスの面がある」。確かに子どもに見てほしいなら、ハードルを低くする効果はあるだろう。

 そうした出演者は、VTRが流れている最中も登場する。画面の端に出現する小窓、つまり“ワイプ”だ。今やNHKでも日常的に使用され、今回も多くの番組で当たり前のように使われていた。 「万物トリセツショー」 の初回放送時は、コロナ禍で車の中に待機した出演者を小窓に映さねばならないこともあってか、かなり大きいサイズのワイプが現れた。

 この演出手法の多用について数年前、ネット記事で指摘したところ、「スタジオ出演者の顔を映し出す必要はない」「映像に集中できない」と批判的な書き込みが目立った。有吉特別主幹も「是非があるのは分かっている」とするが、出演者のリアクションを見せることで、視聴者に彼らと一緒にVTRを見ている感覚になってもらいたい思いもあるようで、ワイプ多用の流れはNHKでも止まりそうにない。

一線画した「1ミリ革命」、社会実験で課題解決

 ここまでの番組は、制作した内容をいかに幅広い視聴者に見てもらうかに腐心した試みだが、それとは一線を画する取り組みが一つあった。

 それが 「1ミリ革命」 だ。

 「NHKを使って世の中を1ミリ変えてみる」との発想から、番組で社会実験を行い、視聴者と共に課題解決を目指す。まずは自転車事故を減らそうと、発明キッズやお笑い芸人、自治体職員らが様々なアイデアを練り上げ、実際に街中で実験も行った。担当した細田直樹チーフ・プロデューサーが振り返る。「一つの問題をその専門家だけで議論してもブレイクスルーは起きない。そこに異なる主体を掛け合わせると新しい発見があるのではないか。それが番組に通底するテーマ。本来つながりのなかった企業や自治体を我々が介在してつないでいったんです」

社会実験を通して課題解決を目指した「1ミリ革命」。公共放送の新たな役割かもしれない
社会実験を通して課題解決を目指した「1ミリ革命」。公共放送の新たな役割かもしれない

 番組により必ずしも決定的な解決策が生まれたわけではないが、放送後、視聴者から「自分も小さなアクションを起こせば社会の役に立てるのではないか、別のテーマがあれば参加したい」「誰でも参加できることに可能性を感じた」との声が寄せられたという。

 番組によるこうした直接的な社会貢献はこれまでも行われてきたが、有吉特別主幹は「先進的な事例を紹介するだけでなく、全く違う主体をつないで一緒になって実験を行い、番組が伴走していく。その結果、本当に社会が1ミリでも前に進むようにしたい」と新たな意義を見いだす。

 番組には、データサイエンスが専門の宮田裕章・慶大教授が出演していたが、実は宮田教授は今年3月開催のNHK放送文化研究所のシンポジウム「いま改めて“公共”とは何かを考える」の中で、公共放送の新たな役割として多くの人に番組を届けるだけでなく、「個を捉えて具体的な問いかけを行っていくべきだ」と提案。今回の番組がそれを体現したともいえそうだ。

社会情勢変化、それでも変わらぬ受信料制度

 一連の番組は試金石である以上、多少の失敗はやむを得ない。そもそも番組の評価はあくまで主観に基づいており、見る人によって好き嫌いが分かれるのも当然だ。最終的に何を放送するかは、NHKに「編集権」があって視聴者が変えられるものではない。

 だが、それでも視聴者が気にするのは、番組制作の原資となる受信料の契約締結義務が放送法で課されているからだ。同法64条は「協会(日本放送協会=NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と規定。NHKが映るテレビを持っている以上、いくら番組が気に入らなくても受信料契約から逃れられないのだ。

 現在のNHKは1950年、放送法により誕生し、受信料制度もその際に盛り込まれた。当初はラジオに適用されたが、テレビ放送が53年に始まったことを受け、そちらも対象となった。68年にラジオ受信料が廃止され、テレビのみの受信料として続いている。つまり、受信料制度によって支えられる公共放送は、戦後間もない頃の社会情勢を踏まえて生み出されたものだ。その頃と比べれば、メディア状況は激変し、とりわけ、民放が未成熟だったテレビ 黎明(れいめい) 期にNHKが担った、国民への娯楽や教養情報の提供といった役割は、著しく 変貌(へんぼう) している。

 一方、NHKに限らず、かつての“お茶の間”に象徴された家族視聴の機会は減り、テレビ番組そのものを見ない人も増えている。放送受信機器というより、ネットやゲームを映し出す画面としてテレビを使っている人も少なくない。

東京・渋谷のNHK放送センター
東京・渋谷のNHK放送センター

分断社会で多様性理解…そのための受信料?

 こうした状況下、「テレビがあるなら受信料契約義務」と言い続ける以上、まさにNHKで「しか」できない、契約者を十分に納得させる番組を放送するのは当然だ。そうでないなら存立意義さえ問われよう。

 この点、有吉特別主幹は、お茶の間文化が消えつつある今だからこそ「家族視聴が少しでも増えるような番組を生み出していきたい」と方針を示してくれた。価値観の多様化、世代間の分断が加速する中、「何か一つの番組を一緒に見て意見を言い合い、テレビを見ながら会話が生まれる。家族視聴が少なくなればなるほど、その意味は大きく、それはNHKだからこそできることだ」と断言する。すなわち、バラバラの価値観をつなぎ合わせる接着剤となることが、「新しいNHKらしさ」だとみているようだ。そう考えると、若者や子どもたちに人気のタレントやアイドルを出演させ、ワイプに映し出すのも分かるような気がする。

 だとすると、NHKの番組は、価値観の異なる他者を理解するきっかけとしての役割を担い、その制作費を「テレビを持つ」国民が契約義務に基づいて広く負担しているという構図になろう。だが、そうした番組は、民放はもちろん、今のネット社会では様々な動画配信事業者も幅広く手掛けている。多様性社会だからといって、果たして現行の受信料制度を維持する理由になるだろうか。逆にNHK以外でも可能な番組は思いきって減らしていくのも「新しさ」ではないか。実際、経営計画では制作総量の削減もうたわれている。

 最後は「編集権」に行き着くこの問題、受信料を負担する国民に対し、NHKが説明責任を全うすることを望みたい。

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2490270 0 エンタメ・文化 2021/11/03 10:04:00 2021/11/04 13:12:05 2021/11/04 13:12:05 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/11/20211101-OYT8I50066-T.jpg?type=thumbnail

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