第29回読売演劇大賞 ノミネート決定!

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 2021年の優れた演劇作品や演劇人を顕彰する第29回読売演劇大賞(主催・読売新聞社、後援・日本テレビ放送網)の第1次選考会が東京都内で開かれた。長時間の議論の結果、9人の選考委員の選んだ計5部門のノミネートを報告する。(敬称略)

作品賞 (公演主体)公演日順

・「帰還不能点」(2月、劇団チョコレートケーキ)

・「桜姫東文章」(4、6月、松竹)

・「フェイクスピア」(5~7月、NODA・MAP)

・「砂の女」(8~9月、キューブ/ケムリ研究室)

・「ニュージーズ」(10月、東宝/TBS)

男優賞 (対象公演)以下、50音順

・阿部サダヲ「THE BEE」

・佐藤B作「ザ・空気ver.3 そして彼は去った…」

・高橋一生「フェイクスピア」

・松尾貴史「鴎外の怪談」

・村井國夫「獣唄 2021改訂版」「にんげん日記」

女優賞 (同)

・板垣桃子「獣唄 2021改訂版」「飛ぶ太陽」

・緒川たまき「砂の女」

・倉科カナ「雨」「ガラスの動物園」

・長澤まさみ「THE BEE」

・みやなおこ「堕ち潮」「ガラクタ」

演出家賞 (同)

・岡田利規「未練の幽霊と怪物―『挫波』『敦賀』―」「夕鶴」

・上村聡史「OSLO」「森 フォレ」

・野田秀樹「フェイクスピア」「THE BEE」

・日澤雄介「帰還不能点」「一九一一年」

・眞鍋卓嗣「インク」「海王星」

スタッフ賞 (同)

・伊藤雅子「反応工程」「友達」「ジュリアス・シーザー」

・国広和毅「OSLO」「森 フォレ」「ザ・ドクター」

・塵芥「獣唄 2021改訂版」「飛ぶ太陽」

・長田佳代子「森 フォレ」「一九一一年」

・松本大介「帰還不能点」「母 MATKA」

「ダウト~疑いについての寓話」

時代の渦中 生きる姿に胸熱く…作品賞

 ノミネートが決まった5本は古典歌舞伎、ミュージカル、昭和色が濃く出たせりふ劇3本と、彩り豊か。いずれも時代や社会の大きな渦に 翻弄ほんろう された人間の生きる姿を丁寧に描いており、コロナ禍という暗い世情の中で暮らす観客の心を熱くさせた秀作ぞろい。選考委員の評価もほぼ一致した。

 委員の推薦作は前回より7本も少ない23本。1人以上が最高点を付けたか複数の委員に強く推された10本が選考対象となり、まず、4本が異論なく選出された。

真の言葉とは

「フェイクスピア」写真・篠山紀信
「フェイクスピア」写真・篠山紀信

 9人中5人の推薦があり、3人が最高点を付けた「フェイクスピア」は、野田秀樹が劇作家の根幹とも言える「言葉」に向き合った意欲作だ。シェークスピア劇の名セリフをはじめ、虚構の力をフル活用して、日航機墜落事故の時に命がけで語られた言葉の価値を問いかけた。「真の言葉とは何かを考えさせられた。役者の一体感、熱量の高さも心に残る」「『生きろ』というメッセージを明確に出した」と絶賛された。

人間の本質

「砂の女」写真・引地信彦
「砂の女」写真・引地信彦

 最高点はなかったが6人が推薦した「砂の女」は、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)と女優の緒川たまきのユニット「ケムリ研究室」が小説家・安部公房の代表作を舞台化した。砂に囲まれた窪地に住む女(緒川)と、女の家に閉じ込められた男(仲村トオル)の奇妙な同居生活を描いて人間の本質をあぶり出す。「日常的な感覚では成立しないものを演出力と構成力で感動的に見せた」「総合点が高い。KERAと緒川の熱量はもちろん、美術、音響、音楽、照明、映像とあらゆるスタッフの仕事が素晴らしい」と称賛された。

史実をもとに

「帰還不能点」写真・池村隆司
「帰還不能点」写真・池村隆司

 「帰還不能点」は5人が推し、2人が最高点。史実を題材にした劇に強い劇団チョコレートケーキの新作で、戦時下に実在した「総力戦研究所」の関係者が、戦後に集まり、どの時点で日本が後戻りできなくなったのかを、劇中劇で検証する。「そのまま史実を描くのではなく、演劇的な試みで作られていた」「現在にも通じる問題を批評していた」とたたえられた。

半世紀の結晶

「桜姫東文章」下の巻(c)松竹
「桜姫東文章」下の巻(c)松竹

 4人が推し、1人が最高点を付けた歌舞伎「桜姫東文章」は、文化が 爛熟らんじゅく した江戸後期の退廃美が色濃く出た四世鶴屋南北の傑作。片岡仁左衛門と坂東玉三郎による36年ぶりの上演で、4月に披露された「上の巻」、6月の「下の巻」を一つの作品として扱うことで合意した。「仁左衛門と玉三郎が『時分の花』から『まことの花』に移る過程を半世紀をかけて見せてくれた」「信じられないほどつややかな演技。同時代に生き、この舞台を見られて良かった」と称された。

「本家」超えた?

「ニュージーズ」(c)東宝演劇部
「ニュージーズ」(c)東宝演劇部

 残る1枠は投票で、6作品の中からミュージカル「ニュージーズ」が選ばれた。19世紀末の米ニューヨークで新聞売りの少年たちがストライキを起こす物語。小池修一郎の演出で、主人公を人気グループ「SixTONES」の京本大我が演じた。「新たにダンスを入れた演出で、弾むような舞台。コロナ禍で上演が1年以上延びたが、その間に俳優がトレーニングを積んだ。(延期が)プラスに働いた」「ブロードウェー版よりも上に行けたのでは」と高評価を受けた。

 夢幻能の構造を使った音楽劇「未練の幽霊と怪物」はわずか及ばず。「ダウト」「インク」「ザ・ドクター」「GREY」を推す声もあった。また、今期は配信作品の推薦はなかった。

松尾 鴎外の多面性表現 実力派そろい伯仲…男優賞

 幅広い年齢層で、それぞれ顔の知られた実力派が選ばれた。うち3人が初ノミネート。

 4人の委員が推した松尾貴史と佐藤B作は、永井愛の演出作で好演した。1人が最高点を付けた松尾は「鴎外の怪談」で演じた大逆事件を巡って苦悩する森鴎外役が「役との『知的な距離感』を感じた。文学者であり、(誰かの)父親や息子でもあるという鴎外の多面性をうまく表現していた」などと評価された。

 初選出の佐藤は2人が最高点。テレビの報道現場を覆う「空気」を描いた「ザ・空気ver.3」の政治評論家役が「一つの仕事を続けてきた男性が持つ押しの強さをきっちり見せ、秘めた思いを少しずつ出していく加減が素晴らしい」と称賛された。

 高橋一生も初選出。3人が推し、1人が最高点だった。「フェイクスピア」で異なる時制や虚実の間をめまぐるしく行き来する役を演じ、「一瞬にして、体ごと役に移る身体能力の高さを感じた。せりふに つや と体温がある」「彼の存在によって、物語の謎が解かれる展開でもブレない舞台になった」とされた。

 村井國夫は、「獣唄 2021改訂版」の幻の蘭に魅せられた男役と、「にんげん日記」で休業中の銭湯の復活に奔走する元社長役が好評だった。最高点はいなかったが、「ピン(1人)も対話もできる。幅の広さとクセの強さをこれだけ出せる俳優はそういない」とたたえられた。

 残り1枠は、討議で絞り込んだ8人の中から投票で阿部サダヲに決まった。初選出だ。「THE BEE」で妻子を人質に取られたサラリーマンを演じ「役と本人の境目がわからない狂気を肌で感じた。その集中力とテンションで質の高い作品を引っ張っていた」と評価された。

 森山未來、風間杜夫、川平慈英、山西惇、仲村トオル、石丸幹二、亀田佳明は及ばなかった。

緒川 「砂の女」深い理解度 5人とも初選出…女優賞

 小劇場で存在感を見せる実力派から映像作品でも活躍するスターまで、多彩な5人がそろった。いずれも初選出だ。

 まず6人の委員が推薦し、2人が最高点を付けた緒川たまきが決まった。次に4人から推され、うち1人が最高点だった長澤まさみが選ばれた。

 「砂の女」で 妖艶ようえん な女を演じた緒川は、「得体の知れない人間像にリアリティーを伴った存在感があった。不思議な魅力を発散させている」「緒川自身が企画、演出に強く関わっていて作品の理解度の深さを感じた」と絶賛された。

 長澤は「THE BEE」で、自宅に立てこもった男に責められる脱獄犯の妻などを演じた。「思い切りのいい、けれど繊細な演技で名作に新たな色を加えた」「なしくずしに暴力に慣れていく人間を生命力と生活感を醸し出して見事に具現化した」とたたえられた。

 残り3枠は、話し合いで絞り込んだ9人から投票で決めた。みやなおこは「堕ち潮」で建設業を営む一家の祖母、「ガラクタ」でスナックのママと強烈な個性の役を演じた。「『堕ち潮』での怪演は今思い出してもぞくっとするほど恐ろしい」「『ガラクタ』では庶民の持つ裏表をたくみに演じ分けた」と好評だった。

 倉科カナは「雨」で紅花問屋の女房、「ガラスの動物園」でヒロインのローラを演じた。「『雨』では品のいい色気を振りまきながら会話劇を弾ませた。『ガラス――』では、内気な女性が心を開き、永遠の今が鼓動する瞬間を生み出した」として推された。

 板垣桃子は、「獣唄 2021改訂版」「飛ぶ太陽」で「地に足のついた骨太な演技で見る者の心を揺さぶった」とたたえられた。

 那須佐代子、増子倭文江は及ばず。明日海りお、佐藤彩香、堀奈津美を強く推す声もあった。

日澤「著しい進歩」 上村 入念で重厚…演出家賞

 話題作を手掛けた5人がそろった。日澤雄介は特に評価が高く、7人が推し、うち3人が最高点を付けた。「演出力の進歩が著しかった」とされ、「帰還不能点」については「一人ひとりの俳優を粒立つように動かす演出と相まって総合的に面白かった」などと絶賛された。

 4人が推し、1人が最高点を与えた上村聡史も異論なく選ばれた。オスロ合意の交渉過程を描いた「OSLO」、戦争を背景に家族の激動の歴史をたどる「森 フォレ」が「ダイナミズムにあふれ、入念で重厚な演出力が実る舞台を送り出した」とたたえられた。

 残り3枠は、5人の中から投票で決めた。自作が2回も大賞に輝いた野田秀樹は、今回、出演した「フェイクスピア」と演出に専念した再演の「THE BEE」が対象に。「総合力が群を抜いて優れている。『BEE』はより研ぎすまされた作品に仕上がった」と支持された。

 名門・俳優座を引っ張る眞鍋卓嗣は前回に続くノミネート。英国戯曲「インク」は「自問自答する形で終わらせるなど、海外作品をそのまま上演するだけでなく、きちんと日本の作品として創り上げた」、寺山修司作の音楽劇「海王星」は「美術やアンサンブルの配置などで戯曲だけでは伝わらない感情や世界を表現した」とされた。

 岡田利規は、夢幻能の様式で東京五輪の主会場やエネルギー問題に切り込んだ「未練の幽霊と怪物」が、「古い歴史のある能と現代を巧みに結んだ。今日的なイシュー(争点)を盛り込みながらユーモアも忘れない。観客に考えさせ、ともに作品を創ろうという姿勢がある」と好感された。歌劇の「夕鶴」も「演劇作品としても優れている」として選考対象になった。

 原田諒とケラリーノ・サンドロヴィッチは届かなかった。

長田 6人が推薦、4人が最高点…スタッフ賞

 複数の舞台を手がけた5人が選ばれた。まず美術の 長田佳代子ながたよしこ が6人の推薦、4人が最高点を付ける圧倒的な評価で初選出された。「森 フォレ」は「年輪を想起させる円盤状の美術で140年にわたる波乱に満ちた家族の物語を象徴させた」、「一九一一年」は「机と椅子を組み合わせた巨大なセットが圧迫感とともに客席に迫った」と絶賛された。

 次に協議で3人を選んだ。 塵芥ちりあくた は、劇団桟敷童子を主宰する東憲司の美術家名。2回目のノミネートだ。「獣唄 2021改訂版」「飛ぶ太陽」について「決して広くない空間をすき間なく飾り立てながら、役者の演技空間を作品の意図に合わせて作り出している造形術が素晴らしい」と評価された。

 松本大介は「帰還不能点」「母 MATKA」「ダウト」の照明で初選出。「登場人物の内面を照らして陰影に富む」「今年の良質な舞台の多くに携わり、作品の時空、背景を支えている」とされた。

 「OSLO」「ザ・ドクター」「森 フォレ」の音楽の国広和毅も初ノミネート。「物語世界の距離的、心理的な広がりと深みを与えた」「時に寄り添い、時に突き放すような音楽で人物の心理をたくみに表現した」とたたえられた。

 残り1枠は、8人の中から投票で、美術の伊藤雅子が僅差で選ばれた。「反応工程」「友達」「ジュリアス・シーザー」を担当し、3回目の選出だ。「シンプルだけど力強いセットが印象的」「作品に応じて対応できる幅の広さを感じさせた」と支持された。

 「砂の女」の音楽・演奏の上野洋子、「未練の幽霊と怪物」の音楽監督・演奏の内橋和久も強く推された。小澤時史、杉山至、加藤ちか、桑原まこ、ひびのこづえの名前も挙がった。

◆選考委員 (50音順)

犬丸治  (演劇評論家)

小田島恒志(翻訳家、早稲田大学教授)

杉山弘  (演劇ジャーナリスト)

徳永京子 (演劇ジャーナリスト)

中井美穂 (アナウンサー)

西堂行人 (演劇評論家、明治学院大学教授)

萩尾瞳  (映画・演劇評論家)

松井るみ (舞台美術家)

矢野誠一 (演劇・演芸評論家)

◆選考方法

 この紙面で発表した第1次選考会で選考委員がノミネート(推薦)した作品や人は、そのまま「優秀賞」が確定します。この中から全国の演劇に関わる評論家やライター、制作者、研究者、劇場スタッフらで構成する107人の投票委員による投票により、5部門の「最優秀賞」が決まります。

 投票の集計後に開催する最終選考会で、5部門の最優秀賞を報告します。続いて、投票委員の推薦を基に将来の活躍が期待される新人を対象とする「杉村春子賞」を決めます。そして、5部門の最優秀賞と杉村春子賞の受賞者から、最高賞の「大賞」を選出します。

 また、演劇界に長年にわたり貢献したり、優れた企画を進めたりした功績のある個人や団体を顕彰する「芸術栄誉賞」も、最終選考会で決定します。

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