無理して恋愛する必要はない…アロマンティック・アセクシュアルな「恋せぬふたり」は“味方”同士

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 なぜこのドラマに出てくるセリフは、胸を打つものばかりなのでしょうか。恋愛になじめない若い男女を主人公にしたドラマ「恋せぬふたり」(NHK=月曜夜10時45分)が放送開始後、静かな共感を呼んでいます。他人に恋愛感情を抱いたり、性的な魅力を感じたりしない「アロマンティック・アセクシュアル」といった言葉を紹介しながら、自分らしい生き方や人との結びつきを肯定する大切さを感じさせます。(文化部 待田晋哉)

新しい人の結びつきの形を探る高橋(高橋一生、左)と咲子(岸井ゆきの)
新しい人の結びつきの形を探る高橋(高橋一生、左)と咲子(岸井ゆきの)

恋に落ちずに自分らしい生き方、静かな共感

 「プレッシャーかけちゃ、だめよ。絶対、結婚あせってんだから」
 「お母さんだって、子ども早いうちに産んだ方がいいよって、いつも言ってんじゃん」

 ドラマの主人公、咲子(岸井ゆきの)は、ある会社で商品開発などの仕事をしています。家では優しい両親に恵まれ、会社では後輩思いの一面もあります。ただ、一つだけ大きな悩みがありました。周りの人たちが話す「恋愛」というものが、昔からよく分からないのです。「仕事一本じゃなく、恋愛もな。そういう経験が商品開発にも生きてくる」と言われるなど、若い女性は恋をするものだと思い込んでいる上司や家族の言葉が、ちくちくと胸に刺さります。

 美しい俳優や女優が華やかな恋愛模様を繰り広げるドラマは多いもの。でも、この作品は、ドラマ「浦安鉄筋家族」などで人気の女優、岸井ゆきのさんらを起用しながら、男女が必ずしも恋に落ちない展開が目を引きます。

恋愛『圧』に遭遇、よぎる不安「期待を裏切っていないか…」

 ドラマを企画したNHKの押田友太さん(33)は、若い局員です。「自分でもドラマの中で、登場人物は恋愛するものと思い込みがありました」と振り返ります。

なにげない会話の一つ一つが心に残る
なにげない会話の一つ一つが心に残る

 「初任地の広島で地域発ドラマとして高校生たちが神楽に取り組む話を作ったことがあります。脚本家との話合いの中で、高校生なら恋愛要素を入れた方がいいですよねといわれたことがあって。その時はそれでもいいと思いましたが、一方で高校生が主人公なら必ず恋愛をするということに違和感がありました」

 あるとき、若手のドラマ担当者の企画会議をきっかけに、相手に対して恋愛感情は持つが、その相手から自分へ恋愛感情を向けられることは望まないセクシュアリティ「リスロマンティック」に関心を持ち、取材をすることにしました。その取材で出会ったのがアセクシュアルの人でした。「その時に『日本のドラマって必ず恋愛を描かないとドラマにならないのか』『そういう映画やドラマばかりだと私たちが否定されているように感じる』との話を聞きました」

 そこでドラマの制作にあたっては、アロマンティック・アセクシュアルの当事者にも話を聞いた。「10人くらいの方に話を聞きました。謙虚な人が多くて、恋愛に興味がない自分の存在が相手を傷つけていないか、迷惑をかけているのではないかと思っている方もいらっしゃいました。恋愛することに『圧』を感じるような場面に遭遇することも多く、期待を裏切っていないかと感じる優しい人が多い印象でした」

 「ドラマで登場人物が恋愛することは、何となくいいことだと思っていました。でもそれが、ある人にとっては結果的に、存在を否定されたように感じることがあるのかもしれないと感じました」

岸井ゆきの、高橋一生が織りなす奇妙な同居生活

 ドラマの中で主要な役を演じるもう一人の人物、高橋を演じるのは、映画「スパイの妻」などにも出演する実力派俳優の高橋一生さんです。高橋も、どうやら恋愛には興味がなさそうで、大切な祖母を亡くして一人で暮らしています。

 仕事先のスーパーで出会った咲子と高橋は、恋愛や性に興味がないことから話が弾み、意外なことに同居生活を始めます。恋人でも、夫婦でも、家族でもない、この2人の生活は、果たしてうまくゆくのか――。キーワードは、第2話の中のこの一言です。

 「(僕たちの関係は)強いて言えば味方かな」

 ドラマの企画者の押田さんは、語ります。「恋愛することが、必ずしも幸せではないことを伝えるのも大切だけど、恋愛をする人としない人の二項対立のような形にはしたくありません。自分の感情にうそをつかないこと、言いたいことを語り合えることを大切にしたいなと思っています」

ドラマの中の色づかいにも注目だ
ドラマの中の色づかいにも注目だ

 この作品は、第1話のスーパーの野菜売り場の場面での、キャベツやネギ、トマトなどのカラフルな色、咲子が着ている服の色の鮮やかさなども目に残ります。「色の使い方は、意識して工夫しています。この世界は単色ではなくて、立ち止まって見てみれば、様々な色に満ちていることを届けられたらと思っています」

 世の中が様々な美しい色にあふれているように、恋愛や性の形も様々なグラデーションがあっていいと気づかせてくれる一作になるのかもしれません。

存在感増す「恋愛しない」ドラマ

 内閣府が13歳から29歳の男女を対象にした調査「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(2018年度)」によると、「早く結婚して自分の家庭を持ちたい」の問いに、「そう思う」と答えたのは17・9%、「どちらかといえばそう思う」は28・0%、合計すると45・8%でした。これは、アメリカの59・1%、イギリスの53・7%を下回っています。

 思えば、かつて真正面から男女がぶつかり合う恋愛ドラマがブームの時代がありました。1990年代には、鈴木保奈美さんと織田裕二さんらが出演した91年の『東京ラブストーリー』、豊川悦司さんと常盤貴子さんが主演した95年の『愛していると言ってくれ』などが話題となりました。ですが近年は、新垣結衣さんと星野源さんがコンビを組み、「契約結婚」を題材とした2016年の『逃げるは恥だが役に立つ』をはじめ、少し違った男女の触れ合いの形を描いた作品が注目を集めています。

 かつて恋愛とは、他者と深くつき合うことで自分自身を見つけ、内面を豊かにするものと思われていました。ですが現代は、そもそも恋愛できること自体が恵まれた人たちのものではないかといった意識が広がっているように見えます。

「恋愛が終わった先の恋愛の形」が秘めるもの

上田岳弘さん
上田岳弘さん

 「私の恋人」などの著書がある芥川賞作家、上田岳弘さんは「結婚をゴールとする自由恋愛は、近代社会が生まれ、市民生活が広がってゆく明治以降に『発見』されたもの。それが次第に、あまり珍しくなくなり、恋愛に傷つく人も出たりして、20世紀で終わったところがあるのではないか。特にこのドラマは、恋愛話や恋愛を扱ったドラマで傷つく人がいる可能性があることも感じさせられ、目が覚める思いがした。恋愛が終わった先の恋愛の形に、自分が小説を書くうえでも興味を持っている」と話します。

 様々な愛の形を考えることは、人間関係全体についても広い視野を与えてくれるのかもしれません。

※アロマンティックとは、恋愛的指向の一つで他者に恋愛感情を抱かないこと。アセクシュアルとは、性的指向の一つで他者に性的にひかれないこと。どちらの面でも他者にひかれない人を、アロマンティック・アセクシュアルと呼ぶ。(NHKの番組サイトより)

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2693129 0 エンタメ・文化 2022/01/22 08:02:00 2022/01/22 08:02:00 2022/01/22 08:02:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/01/20220121-OYT1I50170-T.jpg?type=thumbnail

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