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透明感あふれる幻想的な作品で知られる影絵作家・藤城清治さん(97)が、ロシアの侵攻で苦境に立つウクライナの人々の支援に乗り出している。自作の水彩画を原画にした版画を販売し、売り上げの一部を支援に回す。藤城さんは「もう戦争をやる時代ではない。平和を願う思いを絵に込めた」と話している。

藤城さんはウクライナ侵攻のニュースを見て「戦争を止められない状況にもどかしさを感じ、いてもたってもいられず絵筆を執った」。スペイン内戦の悲劇を描いたピカソの「ゲルニカ」を例に挙げ、「絵にはメッセージを伝える強さがあると信じている」と語る。

作品タイトルは「美しい空と大地のウクライナに愛を」。「早く思いを伝えたかったから」影絵より制作時間が短くて済む水彩画を選んだ。同国の国旗が象徴する青空と黄色の麦畑を背景に、ゼレンスキー大統領を描く。力強い目と胸に当てた左手は国を守ろうとする強い意志を表し、右手に持つヒマワリは希望を表しているという。そのヒマワリの花の上には、藤城さんの分身である「こびと」が描かれている。
がれきと化したウクライナの街や、ロシア軍による民間人の殺害疑惑など連日の報道を目にした藤城さんは、太平洋戦争の記憶がよみがえったという。海軍の予備学生として米軍の上陸に備えた日々、大空襲で焼け野原になった東京の風景、戦地に散った友人たち……。
「あの時代に戻ることは許されない。自分のことと同じように他人のことを考えれば、本当の平和な世界が実現できる」と、強い口調で繰り返す。
A2判大の原画は、98歳になる今月17日に藤城清治美術館(栃木県那須町)での誕生日イベントで披露される。その後、版画は同美術館のホームページで購入できるほか、同美術館が行っているクラウドファンディングの返礼品として受け取ることも可能になるという。
売り上げや寄付金の一部は、在日ウクライナ大使館に寄付される予定だ。
同美術館のクラウドファンディングは30日まで。コロナ対策費や修繕費、人件費などコロナ禍での美術館継続のための支援も受け付けていて、藤城さんの様々な版画(下)などが返礼品として用意されている。