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ロシア軍のウクライナ軍事侵攻に対し、ウクライナ、ロシア、ベラルーシ、日本出身の7人の芸術家が絵画、写真、生け花など様々な作品で反戦を訴える特別企画展示「ドム・ディム・ドム」が17日から、東京都府中市の東京外国語大学で始まった。主催者の沼野恭子教授(ロシア文学)は「この戦争と惨劇を、遠い国の人ごとではなく、自分の身に引き寄せて考える契機になることを願っている」と話している。
タイトルの「ドム」はロシア語で「家、建物」「Home」、「ディム」は「煙」「Smoke」を表す。ウクライナでは破壊された家や建物が煙に包まれ、ロシアでは自国に都合の良いことを宣伝するプロパガンダ(政治的宣伝活動)という煙幕が人々の目を覆っていることなどを示唆している。
ロシアの軍事侵攻を受け、ウクライナ出身の芸術家が企画
今回、ウクライナ出身で日本在住のユダヤ人写真家レーナ・アフラーモワさんが、ロシアの軍事侵攻に直面し、展覧会を企画した。「戦争下、ウクライナ人、ロシア人、ベラルーシ人の対話は難しい面がある。ロシアやベラルーシの国内で芸術家が反戦を主張することも危険だ。しかし、戦地から遠く離れた日本なら、この3か国人が反戦を訴える展覧会を開くことができる」

ロシアやベラルーシ出身の芸術家も「声を上げる」
出品作や出展者の個人的事情には、今回の戦争や現地の政治が影を落とす。
ウクライナに住む大学1年生ヴィクトリア・クローヒナさんの作品は、4月にSNS上で話題になったもの。攻撃を受けて破壊された建物内に、かつての生活をする人々の姿を青い色で重ねて描いたイラストだ。
クローヒナさんは、両親がロシアと戦うために軍隊に入ってしまったので、2人の幼い妹の面倒を見ているという。

また、ベラルーシ出身の画家、イリヤ・イェラシェビッチさんは、2020年の同国大統領選挙の不正に抗議する芸術作品を制作、発表するなどしたため、身の危険から母国に戻れなくなっているという。
現在、東京芸大大学院に在籍するイェラシェビッチさんは「戦争を起こした罪は決定を下した国の指導者にあるが、われわれ市民にも現状を変える責任がある。だから、私はできるだけいろいろな所に参加して、声を上げるようにしている」と強い口調で語った。

ロシア・モスクワ出身の華道家、イリヤ・バイビコーフさんは「ロシア軍の行為を見ると、憎しみを感じる。現代の世界では許されないことだ」と話す。
神戸市在住で、長年、草月流の生け花の講師を務めているが、「この展覧会への参加はとても重要だった」という。「独立と自分たちが生き延びるために戦っているウクライナ民族との団結を表すことだからだ」と強調した。
ウクライナ難民約100人を撮影…「背後にあるものを感じて」
ウクライナ避難民のポートレート写真を展示したのは、写真家でジャーナリストの小原一真さんだ。
小原さんはチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故を長期的に記録した写真集『Exposure/Everlasting』(2017年)で国際的な賞を多数受賞しているが、写真集制作の際に知り合ったウクライナ人の親友は、ロシアとの最前線に送られ、その妻はロシア軍の占領地域から、ドイツに避難したという。
「500万人ものウクライナ難民、その一人一人の存在を感じてもらいたい」と考え、3月16日から27日まで、ポーランドの首都ワルシャワからウクライナとの国境地域にわたって、避難民約100人の取材と撮影を行った。

小原さんは戦火を逃れ、先の見えない不安定な状況下で揺れ動く人々の姿と気持ちを記録した。「子どもたちはカメラの前では朗らかな表情を見せているが、その一方、PTSD(心的外傷後ストレス障害)のような症状の子や攻撃的になっている子もいる。表面的なものだけでなく、その背後にあるものを感じ取ってほしい」と話す。
「この戦争は日本にとって、人ごとではない」
企画者のアフラーモワさんは「芸術は戦争を止められないが、個人が戦争について考える契機になる。この戦争はまだ続くだろうが、芸術は長期間影響を与えることができる。民主国家なら、市民の思いが政治を動かすはずだ。国際社会のウクライナ支援を望みたい」と希望を語った。
沼野教授は「戦争中、プロパガンダによって、国民が目をくらまされることは、第2次世界大戦中のドイツや日本など、歴史上、珍しい現象ではない。今のロシアの状況は決して人ごとではない」と指摘している。
展覧会は6月16日まで、同大附属図書館2階ブラウジングスペースで。月曜日から金曜日は午前9時から午後5時。土曜日は午後1時から5時。日曜日と6月2日は休場。入場無料。問い合わせはメール(dom@dym-dom.art)で。