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薄氷を踏む外交、侵攻の現実が変える
フィンランドが18日、北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した。冷戦後もロシアと友好関係を築き、「中立」を掲げてきた国が、ロシアのウクライナ侵攻を受けてくだした決断により、欧州の安全保障は転換点を迎えた。フィンランド史が専門の国士舘大の石野裕子准教授は、第2次世界大戦中の旧ソ連との二つの戦いの記憶が大きいとみる。

フィンランドは歴史的に、ロシアとの関係抜きに安全保障を考えられない。19世紀はロシアの一部で、ロシア革命後の1917年に独立を宣言した。第2次世界大戦中は旧ソ連の侵攻を受け、「冬戦争」(1939~40年)と「継続戦争」(41~44年)を経験した。敗戦で国土の10分の1を割譲したが、粘り強く戦い抜いた。
東西冷戦下のソ連とは薄氷を踏む外交を展開し、東欧のように旧ソ連の「衛星国」になることを免れた。冷戦後のロシアとも同様で、その中で軍事同盟に入らないスタンスを続けてきた。
だが、ウクライナ侵攻がフィンランドに与えたインパクトは非常に大きかった。SNSを通してリアルタイムで、惨状が伝えられた。ウクライナ侵攻を、冬戦争と重ね合わせて論じられる風潮も強くなった。
例えば、タブロイド紙のネット版は、プーチン大統領とスターリンの写真を隣に並べたり、ウクライナの攻撃で大破したロシア軍の戦車と、冬戦争のソ連軍師団の戦車の残骸の写真を一緒に載せたりしている。

近年のフィンランドは、95年にスウェーデンとともに欧州連合(EU)に加盟し、NATO主導の国際平和協力活動にも参加するなど、EUやNATOとの関係を重視してきた。その意味で、加盟準備の下地はあった。そこに、国際社会のルールを無視した今回のロシアの侵攻の現実と、自国の戦争の記憶がリンクした。もともと愛国心の強い国民性だが、さらに国を守ろうという意識が高まった。
地政学的に、東側の国境のほとんどをロシアと接し、バルト海に囲まれたこの国は、逃げ場のない中で国際社会を生きてきた。現在のフィンランドの外交、安全保障の転換も、現実を見据えた上のリアリズムの体現だと言えるのではないか。
フィンランド人の国民性を表す言葉を「シス」という。決してあきらめない心を意味する。彼らの行動の原点は、ロシアとの二つの戦いには敗れても、独立は維持し、共産主義化されずに自分たちの民主主義を守り抜いたという