月尾嘉男・東大名誉教授インタビュー~「令和維新」への転換

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 中心市街地の衰退や人口減少、高齢化、空き家問題などを抱え、各地の地方都市が疲弊している。こうした逆境をチャンスに変えるきっかけになり得るのが、モノやサービスがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)や人工知能(AI)の有効活用だ。12月10日に東京・大手町の読売新聞社で「IoT時代の地域活性化を考える」と題した講演を行う東京大学の月尾嘉男名誉教授(メディア政策、システム工学)に、地域振興の処方箋について見解を聞いた。(聞き手 調査研究本部主任研究員 高橋 徹)

――明治維新から約150年が経過し、今年から令和の時代に入った。この間の日本の国づくりをどう評価しているか。

 「明治政府が目指したのは、国を一本化する、つまり『一(いち)』にすることだった。江戸末期には270を超える藩が存在し、政治も経済も地方分権だった。これを廃藩置県によって統一国家にしようとした。そのために、東京に集中的に投資し、首都としての機能を高めると同時に、全国一律の制度を導入し、教育も均質化させた。先のラグビーワールドカップで、外国出身者と日本出身者の混成チームの日本代表がONE TEAM(ワンチーム)を掲げ、体格で勝る強豪を撃破したが、明治政府が目指したのも日本をワンチームにすることだった」

 「明治初期の日本の国内総生産(GDP)は、英国の5分の1、米国の3分の1、独の半分程度だったと推計されている。日本は欧米列強に追いつくために、農業から工業への産業構造の転換を図り、均質なものを繰り返し生産し、価格を抑えて世界に輸出できる体制を築いた。欧米に追いつけ追い越せというキャッチアップの時代には、こうした中央集権的、均質化を促す手法はそれなりに成果があっただろう」

――日本の現状をどう見ているか。

 「日本の国際的な地位の低下を大変危惧している。スイスのIMD(国際経営開発研究所)が毎年発表している国際競争力ランキングで、日本は1980年代後半から90年代はじめは、総合順位が1位だった。工業分野でも鉄鋼、自動車、工作機械、造船、半導体生産でも世界一になった。しかし、バブル崩壊後から長期低落傾向に入り、直近の2019年の総合ランキングは30位で、中国(14位)、韓国(28位)にも劣後している」

――具体的に何が問題だったのか。

 「なぜ、わずか30年間でそこまで落ちてしまったのかというと、日本の基盤を築いてきた明治維新の施策がすべて時代遅れになってしまったのに、十分な対応ができなかったことが要因だと思う。具体的には、情報社会への対応の遅れが大きい。インターネットは米国で1988年から一般に利用できるようになったが、日本は遅れて90年以降に使うようになった。情報社会があっという間に普及したのに、対応が遅れた。具体的に言うと、コンピューターの普及率は世界で21位、携帯電話の普及率も24~25位だ」

「もっと深刻なのは教育の分野だ。人工知能(AI)を教える大学のランキングを見ると、トップは中国の清華大、3位が北京大で、ベスト10は中国と米国の大学が席巻している。これに対し、東大は14位と出遅れている。AIの論文の数は、米国が1位、中国が僅差で追っている。日本は10位で米国の20分の1の水準だ。科学技術系の論文の引用件数でも中国が台頭し、日本は全分野で低下している。見方を変えれば、情報社会が進展するまでは、明治の政策がよく機能していて、バブル期には欧米と肩を並べる水準まで達した。しかし、そこに安住してしまい、なかなか抜け出せなかったということではないか」

――人口減少に直面し、低成長時代に入った日本が情報社会でやるべきことは。

 「情報社会の最大の特徴は何かというと『同じものには価値がない。違うものに価値がある』ということだ。つまり。日本が得意としてきた均質なものを大量に生産するビジネスモデルは陳腐化し、同質なものに価値がなくなってしまった。結果として社会の価値観も多様化した。まず明治をすべて否定し、今年を“令和維新元年”とでも名付けて、もう一度、日本が躍進する施策を打ち出していかなければならない。そこで重要になってくるのが地方活性化だ。中央集権型から地方分権型社会に転換し、地方に力を与えなければならない。情報社会の進展は、地方活性化に追い風になる」

 「電話からファクシミリ、そしてインターネットの時代に入って変わったのは、距離の概念が消えたことだ、電話は距離に応じて料金が高くなったが、インターネット回線を使うことで距離に関係なく均一料金になり、定額料金になり、通話時間も気にしなくてよくなった。さらに携帯端末の普及で位置の概念も消え、どこにいても通話やメールを送れる。インターネット通信社会になって、時間、距離、位置の三つの制約、概念がなくなった。これによって東京の近郊に位置することの優位性が消え、東京から離れているというハンデがなくなってきた」

――情報社会で地方が活路を見いだすには。

 「距離、時間、位置の概念が消えたことで、人件費が比較的安い北海道や沖縄県にコールセンターの進出が加速している。世界の動きを見ると、アマゾンやグーグルなどのデータセンターがアイスランド、フィンランドに相次いで建設されている。データセンターは熱を発生するので、寒冷地が適しているからだ。日本でも北海道のような地域はビジネスチャンスがあると思う。これから寒冷地を求めてデータセンターが進出するゴールドラッシュならぬ”コールドラッシュ“の時代が到来するのではないか」

 「都会から離れて働くテレワークにも可能性がある。北海道ニセコ町などはふるさとテレワーク事業を推進して、テレワーカーを積極的に誘致している。和歌山県白浜町も温暖な気候と温泉をPRして、熱心に取り組んでいる。テレワークは、そういう地域の自然環境を生かすことができる」

――通信技術を生かした取り組みも可能性がある。

 「通信には大きく分けて、人同士がやり取りするP to P、人と機械のP to MあるいはM to P、さらに機械同士のM to Mがある。このうち人と機械のやり取りを行うP to Mは地域活性化につながるチャンスがある。例えば、新潟県妙高市で情報通信技術(ICT)除雪管理システムを作った。これによって除雪機に通信設備を取り付けて、どのエリアを除雪しているかが市のホームページで、リアルタイムで分かるようになった。岐阜県中津川市では、バスの行き先がスマホで簡単に分かるようにした。英語版など数か国語に対応しており、訪れた外国人観光客に好評だという。次世代通信規格『5G』の時代に入れば、さらに高速化が進み、環境は劇的に変わる。新しい情報技術をどう活用するか。これから地域間の知恵の競争が始まると言っていい。すべてのモノがインターネットにつながる時代に対応するためにも首長のIoTリテラシーが重要になってくるだろう」

【講師プロフィール】
1942年名古屋市生まれ。愛知県立旭丘高校を経て、1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学工学系大学院博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授、総務省総務審議官などを経て、現在は東京大学名誉教授。著書は『縮小文明の展望』『先住民族の叡智』『航海物語』『転換日本 地域創成の展望』など。趣味はカヤック、クロスカントリースキー。2004年ケープホーンをカヤックで周回。

【開催概要】
企画名 読売Bizフォーラム東京 × 内外情勢調査会
「IoT時代の地域活性化を考える」
講 師月尾嘉男(東京大学名誉教授)
日 時 2019年12月10日(火) 19時~20時30分(開場18時30分)
※講演・質疑応答後に月尾さんとの名刺交換の時間を設けます(15分程度)
会 場読売新聞ビル 3階新聞教室(千代田区大手町1-7-1)
定 員100人(定員に達し次第締め切り)
受講料5,500円(税込み)
申し込みこちら から
主 催一般社団法人 読売調査研究機構
協 賛一般社団法人 内外情勢調査会
後 援読売新聞社 時事通信社

※お申し込みは先着順です。定員に達し次第、受付終了となります。
※お申し込み後のキャンセルや払い戻し、ご参加いただけなかった場合の事後の払い戻しなどは致しておりません。ご了承のほどお願いいたします。
※企画内容、時間などは予告なく変更になる場合があります。
※講師の急病や天災、その他のやむを得ない不可抗力の事態が生じた場合は、当日でも講座を中止する場合があります。

無断転載禁止
918201 0 読売Biz フォーラム 2019/11/26 11:30:00 2019/11/26 11:30:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/11/20191122-OYT8I50044-T.jpg?type=thumbnail

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