「読売Bizフォーラム東京」 ソーシャル・イノベーションの旗手たち vol.1 講演要旨
「起業で社会を変える~アフリカ・ビジネスへの挑戦で見えたこと~」(講師:仲本千津氏)

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 ウガンダの女性たちが手作りしたアフリカ布製のバッグを製造・販売している「RICCI EVERYDAY」(リッチー・エブリデイ)の創業者、仲本千津さん(35)が1月10日、東京・大手町の読売新聞社で「読売Bizフォーラム東京」の講演を行った。「ソーシャル・イノベーションの旗手たち」シリーズの1回目。「起業で社会を変える~アフリカ・ビジネスへの挑戦で見えたこと~」をテーマにした講演の後、アフリカでの起業を支援してきたコモンズ投信会長の渋澤健さんとの対談も行われた。

仲本さんの講演
アフリカンプリントとの出会い

講演する仲本千津さん(1月10日)
講演する仲本千津さん(1月10日)

 紛争を経験した地域の人々は、仕事を通じて、幸せを取り戻すことができるのではないか。その仮説を自分の会社、事業を通じて将来にわたって実証していきたいというのが、私のテーマです。

 大学、大学院でアフリカの政治を学び、大手銀行に就職しました。アフリカを研究してきたのに、どうして銀行員なの?と思う方もいるかもしれませんが、学生時代、「アフリカの貧困をどうやってなくすのか」と聞かれても具体策が思い浮かばなかったのです。現実を知らない自分のふがいなさを感じ、いったん社会に出て、お金の回り方を学んだら社会構造が見えるのではないかと考えたのです。

 いつかアフリカの開発課題に携わる仕事をしたいと思いつつ忙しく過ごしていましたが、きっかけとなったのは東日本大震災。たくさんの方が亡くなられるところを目の当たりにして、自分が本当にやりたいことをこれ以上、先延ばしするのはやめようと決意しました。農業支援をしているNGO(非営利組織)に転職し、2年半、東京オフィスで働きながら毎月アフリカに出張するような生活でしたが、2014年、念願のアフリカ、ウガンダへの駐在が決まりました。

 日中は、農家を回り、収入拡大を支援する仕事をして、休日などの時間を使って、いろいろなところを出歩き、見つけたのが「アフリカンプリント」と呼ばれるカラフルでユニークな柄が特徴的な生地です。「これは絶対、ビジネスになるな」と思いました。

 当時、日本にはこういった布を使った商品がなかった。その時、1人の女性に出会い、その人と一緒に始めようと決めました。小さく、小さく始めましたが、あれよあれよという間に大きくなり、NGOをやめて起業をしました。小さく始めてリスクを最小化して、うまく行ったら、ちょっと大きくして、またうまくいったら、もう少し大きくして、という形です。

 私の母は、創業当初からのビジネスパートナーです。母が日本での販売を担当し、私がウガンダでの生産を担当するという役割分担で、二人三脚でやってきました。

仕事への誇りがすべてを変える

カラフルなアフリカ布を使ったアケロバッグ。ウガンダの女性らが思いを込め、手づくりしている
カラフルなアフリカ布を使ったアケロバッグ。ウガンダの女性らが思いを込め、手づくりしている

 ウガンダはアフリカ中部に位置する内陸国で、(面積は)日本より少し小さい。人口は4200万人で、人口増加率は約3%で今も増え続けています。公用語は英語で、(1986年から)ムセベニ大統領の長期政権が続いている。標高1200メートルの高地にあり、年中、初夏の軽井沢のような気候で過ごしやすい。

 作っているのはアフリカンプリントを使ったバッグや小物。お客様が使いやすいデザインを採用し、手が届きやすい価格で商品を届けています。(商品名「アケロバッグ」の)アケロは「幸せを運ぶ」という意味で、すてきな言葉だと思って名付けました。

 私がこの事業を始めようと思ったのは、一つはアフリカンプリントとの出会い、もう一つはある女性との出会いでした。彼女は4人の子供を抱えたシングルマザーで、当時、月10ドル、1000円くらいの収入しか得られなかった。ただ、鶏を飼ってみたり、豚を飼ってみたり、少しでも生活を変えたいという意思、彼女なりの努力が見られたので、一緒にビジネスできるんじゃないかと。どうなるかわからないけど、会社をまず作ってみて、雇用するところからスタートしました。

 仕事を通じて彼女たちのポテンシャルを120%、発揮できる場をまず作る。そこで作られた商品が日本で販売されたらどう思うだろう、おそらく仕事に誇りを持ってくれるのではないか――という前提で始めました。正社員として雇用し、毎月決まったお金を支払えば、今より経済的にも精神的にも豊かな生活を送る機会を提供できるのではないかと考えたのです。

事業を始めるきっかけになった女性と初めて会った日
事業を始めるきっかけになった女性と初めて会った日
彼女は、バッグづくりの仕事を通して自信に満ちあふれた表情になった
彼女は、バッグづくりの仕事を通して自信に満ちあふれた表情になった

 ウガンダでは、同じようなプリントを使ったモノはあふれているが、デザインがもう一つで、なかなか購入につながらない。私などが入って、モノづくりのやり方を変えると、圧倒的に品質が良くなる。「日本のお客様がこんなに喜んでいるよ」と伝えると、「私たちが作ったものがそんなふうに受け入れられているのか、もっと良い物を作らないといけない」と、さらにやる気が高まる。

 従来、(ファッション業界では)工場とお客様がすごく遠く、どんな人が作っているのか分からない。見えないからこそ、低賃金・長時間労働や児童労働、薬品で汚染された排水の垂れ流しとか、平気で行ってしまう。また、ウガンダでファッション産業が育たないのは、大量の古着や廃棄された洋服が、無制限に輸入されているからだと言われています。ウガンダのローカルマーケットを歩いていると、ここは先進国のゴミ箱かと思うこともあります。

 私たちのビジネスモデルはお客様と工場がすごく近い。工場で今どんなことが行われているのか、インスタグラムなどを使って紹介し、「見える化」を進めています。(東京・代官山にある)直営店はバーチャル・リアリティー(VR)を導入し、現地の工房の様子などを360度映像で見られる仕掛けをしています。お客様にブランドの背景やストーリーを知ってもらう機会になればいいなと考えています。

 私が力を入れたいのは、モノづくりを通じた人づくり。彼女たちの顔をみると、自信に満ちあふれている。もともと定職がなく、人に頭を下げてお金を借り、自分の子供を継続的に学校に行かせられなかった女性が、今では仕事を通じて定期的な収入を稼ぐ。自分の家族を支え、子供を大学に通わせることができる。自分の作っている物が、日本のお客様の喜びにつながっている。そういったことがあいまって、自信が生まれ、自分の存在価値を見いだせたのではないかと思います。私の夢は、こういった女性を一人でも多く、開発途上国に増やしていくことです。

大事にしている四つのルール

 4年半くらいビジネスをして、四つ、大事だと思っていることがあります。

 一つは従業員が心地よく働けること。株主、顧客などのステークホルダー(利害関係者)のうち、私は従業員が一番大事だと考えています。なぜかというと、従業員が安心した環境で、集中してモノづくりをすると、そこから生み出された物がお客様の喜びに結果的につながっていき、会社の成長にも結びつくからです。給料をきちんと支払うのはもちろんのこと、貯蓄制度を設けたり、無利子のローンを設けたりして、彼女たちの生活をあらゆる面から支えています。

 二つ目は、従業員と話すときは常にフラット(対等な立場)でいること。彼女たちは彼女たちなりのルールの中で動いているから、私が、自分の価値観でどかどか乗り込んでいくとお互いフラストレーションがたまる。新参者はまず「ゼロ」になるのが、すごく大事なのかなと思います。

 何か問題が生じても、なんでそういうことが起こるのだろうか、と背景を考えたり、彼女たちがどういう風に考えてそういう行動に至ったのか、と考えたり。すると、怒りやストレスはなくなり、むしろ全てが新しい発見に思え、毎日楽しく過ごせるなと気づきました。

 三つ目は動きながら考え、PDCA(計画・実施・評価・改善)を回すこと。戦略や計画を立てるのは大事ですが、ウガンダでは、計画を立てるために必要な情報はウェブ上では見つけられない。自分で動いて、足で稼ぐくらいの心づもりでいないと、まともな情報が取れない。動き回って情報を取る中で、プランに落とし込んで考えて、また自分の仮説を検証して。とにかく、まずは動きながら考えて、PDCAを回していくことです。

 四つ目は、困難を困難と思わないことですね。トラブルが起こることが普通なので、イライラしたりしていると、自分の体が持たない。常にゲーム感覚で、問題が生じたら、「また起こったぜ。今度はどう攻略するか」くらいの気持ちで取り組んでいると楽しく乗り越えられます。

 すごく大事なのは、決断したことを絶対にあきらめないことです。だいたい周りは反対するんです。例えば私が銀行をやめる時、父親に猛反対されましたが、父親が生きてきた時代と今、私が生きている時代は違う。これから来る時代、テクノロジーも人の生活様式もものすごい勢いで変化していきます。そうであれば、自分の信じたことをあきらめないで、選んだ道を正解にするしかない。そう思いました。ただ、そういう私の意思を尊重してくれ、最後には一番の応援者になってくれた父には、今でも頭が上がりません。

仲本さんと渋澤さんの対談

対談する仲本さん(左)とコモンズ投信会長の渋澤健さん
対談する仲本さん(左)とコモンズ投信会長の渋澤健さん

渋澤 仲本さんと知り合ったのは3年ほど前です。経済同友会のアフリカ委員会の委員同士の課題意識から発生した活動で「アフリカ起業支援コンソーシアム」というアフリカで起業する日本人の若手を応援する枠組みに、応募していただいたのがきっかけでした。選考委員会では、試作品の販売先を見つけたのはお母様だということで盛り上がりましたね(笑)。

仲本 母は、父とともに静岡伊勢丹に買い物で訪れて、「催事場で売ったらいいのではないか」と思ったらしいのです。当時、母は専業主婦でしたが、インフォメーションセンターで「バイヤーさんにつないでくれませんか」と掛け合い、名刺交換して商談しましょうとなった。1週間後、百貨店での催事が決まり、私は椅子から転げ落ちるくらい驚きました。

渋澤 いくつかヒントがありますよね。企業や仕事を進めるうえでは理屈で考えるのではなくて、とりあえずやってみるという「行動力」がいかに大切か。運や「ご縁」も大きい。ところで、アフリカはキャッシュレス化などが進んでいると言われる一方、交通網、公衆衛生や失業の課題などがあります。アフリカ市場の可能性はどうみますか。

仲本 アフリカ大陸は「10億人市場」、「最後のフロンティア」ともてはやされますが、54か国があり、個々の国で見れば、ウガンダは4200万人、隣国のルワンダは1200万人の市場でしかない。国ごとに税制も法律などのルールが全く違うので、実際にビジネスをする際には、国ごとに会社を作って登記して営業許可書を取って、という煩雑な作業がある。アフリカ全体で一気にビジネスを進めるというのはほぼ無理な話で、実際は大変だなと思います。

渋澤 一緒に働いてくれる現地のパートナーは、すごく大事です。どうやって採用していますか。

仲本 現地のスタッフに任せていて、採用基準は三つだけ。技術がある、やる気がある、そして誰かスタッフの知り合いであることです。起業した際に雇用した女性3人も、日本人の紹介でした。とても一生懸命働いてくれる人たちで、いい雰囲気を作ってくれた。新しい人たちが入ってきても、その人も雰囲気にひかれてやる気を高めてくれました。

渋澤 SDGs(国連の持続可能な開発目標)で目指している「2030年」に、どういう会社にしていたいですか。

仲本 今、拠点はウガンダだけですが、たくさん拠点を作りたい。武装勢力の対立が続くコンゴ民主共和国や、紛争を経験した南スーダンなどでも、傷ついた女性たちに生活を取り戻すきっかけを提供できるような仕事を作りたい。
 最近のテクノロジーをうまく活用して、グローバルマーケットと、それぞれの個人をつなぐことができないか。ミシンを使って縫う人たちが、自分たちの持っている技術によって稼げるプラットフォームみたいなものをいつか作れたらいいなと考えています。

渋澤 ウガンダと日本を行き来し、日本についてはどのように感じますか。

仲本 日本のサービスやモノはクオリティー(質)が高い。ウガンダでは、(期待せずに)フラットでいることを心がけています。レストランでパスタを頼んで1時間も待たせられても、「ああ、ウガンダだった」と思えば怒りも消える。日本は、レストランではすぐに料理が出てくるし、コンビニでいろいろ買えますが、逆にこんなに頑張らなくてもいいんじゃないかなとも。(日本人は)期待値をちょっとでも下回ると攻撃的になりがちで、そういうのはすごく残念だなと感じたりします。

渋澤 私は、2020年は日本にとって大きな時代の節目だと思っています。これから10年、20年、日本社会は一気に逆ピラミッドの人口構成になり、ものすごいスピードで、社会変革のピッチが早まる。過去の成功体験を持った人が、過去の成功体験を持っていない人たちにバトンタッチすることなんですね。日本では高齢化が進みますが、アフリカは若いですね。そう考えると良い相互関係が築ける可能性がいろいろありそうです。昭和時代のメイド・イン・ジャパン、平成時代のメイド・バイ・ジャパンではなくて、これからの令和時代はメイド・ウィズ・ジャパンですよね。問題はこれからの時代を担う世代にそういうスイッチが入るかどうか。入らないと(高齢化が進んで)逆ピラミッドの未来しか我々には残されない。すごく大事な時代の節目なので、仲本さんのような素晴らしいロールモデルがあると、本当に心強いと思います。

講師プロフィル

仲本千津氏(なかもと・ちづ RICCI EVERYDAY 代表取締役)
 1984年静岡県生まれ。一橋大学大学院修了後、邦銀で法人営業を経験。その後、国際農業NGOに参画し、ウガンダの首都カンパラに駐在。そこで出会った女性たちと、日本に暮らす母と共に、アフリカンプリントの布を使用したバッグやトラベルグッズを企画・製造・販売する「RICCI EVERYDAY」を創業。2015年に日本法人、2016年に現地法人、そして2019年に東京・代官山に直営店舗をオープン。2016年第1回アフリカ起業支援イニシアチブ最優秀賞、2017年日本イノベーター大賞特別賞などを受賞。

渋澤 健氏(しぶさわ・けん コモンズ投信株式会社 会長)
 1961年生まれ。1983年テキサス大学卒業。1984年日本国際交流センター入社。1987年UCLA大学MBA経営大学院修了。同年ファースト・ボストン証券会社入社。1988年JPモルガン銀行を経て、1992年JPモルガン証券会社入社。1994年ゴールドマン・サックス証券会社入社。1996年ムーア・キャピタル・マネジメント入社、1997年同社東京駐在員事務所設立。2001年シブサワ・アンド・カンパニーを創業し、代表取締役に就任、2007年コモンズを創業、代表取締役に就任(2008年コモンズ投信に社名変更し、会長に就任)。

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1041765 0 読売Biz フォーラム 2020/02/10 12:00:00 2020/03/04 16:43:27 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/02/20200204-OYT8I50056-T.jpg?type=thumbnail

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