読売Bizフォーラム東京「未来をつくる道具 わたしたちのSDGs」(2020年10月1日。講師:川廷昌弘氏)講演要旨

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 SDGs(持続可能な開発目標)のアイコンの日本語化に取り組むなど、日本での先駆者としてSDGsの普及啓発に努めてきた川廷昌弘さん(博報堂DYホールディングス グループ広報・IR室 CSRグループ推進担当部長)が、「読売Bizフォーラム東京」で講演しました。新著『未来をつくる道具 わたしたちのSDGs』(ナツメ社)を刊行した川廷さんは「SDGsをヒントに新型コロナウイルスを乗り越え、持続可能な社会を作ろう」と熱く語りかけました。

タイトルに込めた思い

 SDGsは国連で決めた大きな話というより、自分たちの生活の目線でとらえ、仕事や活動、教育などに生かしていただければと考えています。

 私は写真家としても活動していて、例えばこの写真は僕の大好きな世界観である「永遠の夏休み」「少年の夏休み」がテーマなのですが、気候変動による海面上昇で砂浜がなくなるなど、海洋の環境が変わるといったことが心配です。自分でできるのは小さな事ですが、子供たちがいつまでも無邪気に遊べる海がいいね、というメッセージを写真に込めています。そういう所から、誰かが気づいて行動していただければという思いで写真を撮り、提案しています。

 今回の講演のタイトルは「未来をつくる道具」。思い切って「道具」としました。英語で言えば「ツール」ですが、「道具」と言った瞬間に違和感があると思います。「未来をつくる道具」って、どういう事?と思ってもらえるとうれしいな、という気持ちです。そして、「わたしの」ではなく「わたしたちの」SDGs。一人一人のSDGsが積み重なって大きな力になる、わたし一人じゃない、みんなとつながり合うことで、わたしの思いも達せられるという意味も込めています。

SDGsができるまでの歴史的経緯

 国連の歴史をさかのぼると、1972年に『成長の限界』という本が出ました。ローマクラブという研究機関が発行しましたが、地球環境を考える原点です。地球の資源は有限である、資源をいかに上手に使って未来世代に渡していくか、ということが書かれています。現在世代は未来世代に対し、地球の資源のバトンを渡していく責任があるということです。これに基づき、「国連人間環境会議」が初めて開かれました。この会議から生まれたのが、1992年のリオデジャネイロでの「地球サミット」です。ここで、脱炭素化、CO2の問題を中心にした「気候変動枠組条約」と、自然と共に生きていくことを目指す「生物多様性条約」という二つの条約が締結されました。これは環境、自然資源から未来を語るアプローチです。

 一方、われわれ日本は1966年頃までは世界銀行から支援を受ける戦後復興国でした。先進国の仲間入りをしていない途上国だったわけです。日本も環境を破壊しながら都市生活を作り、われわれの幸せを目指してきました。今、途上国が、自分たちの幸せを手に入れるために開発だけをして大丈夫でしょうか? われわれ先進国には学びがあります。やってしまった事を反省して、都市開発は大事な自然を守りながら、未来世代に渡していく国作り、街作りをしていく。そのための人的、資金的リソースを先進国が提供することで、途上国、開発国を応援していくことが必要です。こうした、社会開発をしながら未来を語るという考え方で開かれたのが、1995年の「世界社会開発サミット」です。そして、持続可能な開発をしてもらおうという議論の中で、社会開発の画期的なゴールであるMDGs、「ミレニアム開発目標」が生まれました。SDGsの前身と言われています。2000年から15年間、このゴールを目指してやってきました。どちらかと言えば、先進国が途上国や開発国のためにリソースを提供し、格差社会によって人権問題を起こさないように、ジェンダー平等が実現するように、乱開発で環境を損なわないように、良き開発をするための目標を設定しました。

 さらにもうひとつ大きなテーマがあります。日本でも近年、気候変動が非常に多い。南の島では潮位が上昇することで国土が削られている。気候変動の対策には緩和策と適応策の二つがあります。未来の命を守るためCO2を減らす緩和策と、今の命を未然に守るための防災、減災による適応策。防災、減災から語る未来も、国連では議論しています。国連の防災会議には日本政府が大きくかかわっており、1994年の横浜、2005年の神戸、15年の仙台と3回開催しています。

 このように国連は、環境や自然を考えながら未来を語ろう、社会を開発しながら未来を語ろう、防災減災から未来を語ろうと取り組んできました。しかし、国連や政府だけでは限界があります。グローバル経済をけん引する企業の力なしには今の社会システムは語れません。1999年のダボス会議で、当時のアナン事務総長が企業に対し、「人間の顔をしたグローバリゼーションを展開しよう」と呼びかけました。「途上国で幼児に労働させたり、劣悪な環境で労働させたりしていませんよね?」と経営者に問いかけたのです。2000年、国連は企業が署名して社会責任を守る「グローバル・コンパクト」を採択しました。

 こうした問題は大人だけの議論ではありません。次の世代にも、その次の世代にも、われわれの学びを提供し、より良い未来作りをする人材を育てなければならない。日本政府が提案して、ユネスコの枠組みで「ESD(持続可能な開発のための教育)」が推進されてきました。

 このように、持続可能な枠組みに向けて、自然、開発、防災減災、ビジネス、教育といろんなテーマで議論してきましたが、地球上にある人間社会は一つだけです。その中で分断して議論して何になるのか。対症療法ではなく、根本原因を解決するには、テーマごとに議論していても、らちが明かないことに、みんなが気づき始めていました。そのようなタイミングで、2012年に「リオ+20」が開かれました。リオ・サミットから20年の節目の年に、かつて大人たちが約束した事はどこまでできているのかを見直しました。先進国でも格差社会が広がっている。シングルマザーなど社会から置き去りにされている人々の問題はむしろ増えている。途上国だけでなく、どの国々にもそれぞれの社会課題がある、2015年にMDGsが終わる前に、全世界を巻き込んだゴールを作ろうという議論が始まって生まれたのが、SDGsなのです。

SDGsをお茶の間で語れる日本語に

 SDGsとは何か、というと、何一つ新しくない。一つ一つのテーマについて専門家や研究機関がいて、みんな議論し尽くしている。ところが、世の中は決して良くなっていかない。そうだとしたら、大きなゴールに向かって、みんなのつながりも考えながらやっていく必要があるんじゃないか。バラバラのものを大きく一つのゴールにして、みんなで考えようとしたのです。2020年から10年が、「SDGs行動の10年」です。残り10年しかありません。SDGsを採択した2015年から5年たってしまいました。これまでは、SDGsって何だろうと考える5年間でした。あとは動くしかない。

 SDGsの17の目標は英語で作られ、6カ国の国連の公用語に訳されています。その中に中国語はありますが、日本語はありません。直訳しても本質的な事が伝わらない。これこそ広告会社の社会責任として、日本語でしっかり作り込むことが大事だと思い、国連広報センターのみなさんと一緒に日本語化を進めました。17のゴールと169のターゲットを読み込んで、具体的に何を言おうとしているのか、考えました。17の目標の1番と2番はきわめてシンプルです。「NO POVERTY」「ZERO HUNGER」です。そこで、1番は「貧困をなくそう」、2番は「飢餓をゼロに」と呼びかけ言葉にしました。とにかく呼びかけ言葉にして、みんなが対象だよ、ということを分かってほしかった。12番は直訳すると、「責任ある消費と生産」という日本語になるところですが、「つくる責任つかう責任」としました。レジでお金を払った時から「つかう責任」が生じるのではないか、考えてもらえるのではないかと思ったのです。お茶の間で会話できる日本語にして、「自分ごと」にしてもらうのが狙いでした。

新型コロナウイルスとSDGs

 コロナとSDGsという問題は今、避けて通れないテーマです。今年7月、グテーレス国連事務総長が「2020年第2四半期には4億人の仕事に相当する労働時間を損失し、1870年以来の最も急激な1人当たりの所得低下が起きる。1億人が極度の貧困に追いやられる恐れがある」とスピーチしました。コロナの問題は感染者、死者の問題だけではなく、生活・経済基盤の問題にもなっています。2015年の時点で、深刻な貧困、気候の悪化、ジェンダーの不平等などの課題があるからこそSDGsを採択したのに、「コロナによって、時間は逆戻りした、SDGsの達成は厳しくなった」と事務総長は言いました。しかし、そこであきらめるのではなく、SDGsをヒントにコロナを乗り越えようと呼びかけました。「コロナは格差社会をあぶりだしたが、医療制度を支えるヒーローやヒロインが現れ、若者や市民社会の積極的な行動が見られ、善を求める声が大きくなっている。企業のイノベーションや敏捷性も期待される。具体的で大胆かつ実効可能な解決策を探ることで、持続可能な社会を作っていこう。それが今のSDGsが目指すべき事だ」。だから、今こそわれわれはSDGsをちゃんと読まなければならないのです。

SDGsをひとりひとりのアクションに

 最後に、私が話していることはSDGsを目的化することが狙いではありません。自分が向き合う課題解決に紐付け、タグ付けしていきましょう。でも、それをやり続けても、答えは出ません。つまり、2030年をどんな社会にしたいか、どんな自分でありたいか、これが一番大事です。その社会を作るために、あなたはどんな自分でありたいのか。世のため人のためと言いますが、何より自分も成長したい、輝きたい、そのためにやろう、という話なのです。では、なぜSDGsなのか。それは、どこの誰とでも共有できるコミュニケーション・ツールとして国連が作ったからです。地球の裏側の子供たち、投資家、おじいちゃん、おばあちゃん、みんなで共有できるツールを上手に使おうということです。SDGsをいかに使いこなすか、現在世代が未来世代から問われている。こういう便利なものができたのに、あの世代は何も使いこなせなかったと言われたくはないですよね。

 SDGsの17のゴールは、貧困や飢餓など、テーマとも言えます。しかし、それをしっかり深掘りしていくと169のターゲットをしっかり読む必要がある。これを自分たちの地域に置き換えたら、どう読みかえられるか、そうやってローカライズしていく。自分たちの物語に置き換えて、誰もが変革者になりましょう。持続可能な開発をするためには、ヒューマン・ディベロップメント(人間開発)が必要です。ディベロップメントというのは可能性を開くということ。一人一人が持つ才能、センス、可能性が引き出され、活躍できる社会を作ろうということです。そうしなければ、SDGsの達成はありません。これは、ヒューマン・セキュリティ(人間の安全保障)にもつながる話です。生存・生活・尊厳に対する脅威から人々を守り、それぞれの人が頑張れる社会を作る。これがSDGsに書かれていることだと思っています。

 われわれ一人一人の責任として、地球に生きる者として、生産するものは生態系に属するものでなければならないのではないか、と自問自答しています。生態系に悪影響を与えるものは未来世代へのツケになっていないか? 未来は本気の科学と技術と創造力に期待しています。みなさんなりの未来志向、アクションを考えていただければ幸いです。

会場受講者・横山泰治さんのグラフィックレコード
会場受講者・横山泰治さんのグラフィックレコード
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1553365 0 読売Biz フォーラム 2020/10/16 15:00:00 2020/10/16 15:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201013-OYT8I50014-T.jpg?type=thumbnail

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