読売新聞オンライン

メニュー

「ウィズ・コロナにおける地域創生」基調講演要旨(読売Bizフォーラム東京・2021年4月22日)

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 新型コロナウイルス感染症収束後の地域創生のあり方を考える読売Bizフォーラム東京「ウィズ・コロナにおける地域創生」(一般社団法人読売調査研究機構主催)が4月22日、東京・大手町フィナンシャルシティのカンファレンスセンターホールで行われた。日本政策投資銀行(DBJ)の地下(じげ)誠二・副社長が、同行が3月にまとめた提言「ウィズ・コロナにおける地域創生のあり方について」をテーマに基調講演した後、早稲田大教授の片山善博、新潟県見附市長の久住時男、森トラスト社長の伊達美和子の3氏とともにパネルディスカッションを行った(司会は読売新聞東京本社調査研究本部の高橋徹主任研究員)。

基調講演

 日本政策投資銀行の地下誠二・副社長は基調講演で、地域を人口規模や産業特性に応じて分類したうえで都市類型ごとに地域創生のあり方を考えるとともに、「経済」だけでなく「環境」「社会」などのさまざまな指標によって地域の価値を測り、住民の満足度を高めていく必要性を強調した。講演内容は以下の通り。

 本日は、日本政策投資銀行(DBJ)が主宰した「ウィズ・コロナにおける地域創生のあり方検討企画」有識者会議の提言の内容をご説明します。本題に入る前に、政府の地方創生に関する動きを振り返ります。

政府の地方創生の流れ

 2014年に日本創生会議において増田寛也先生が「消滅可能性都市」という衝撃的な話をされ、このまま人口減少が続くと2050年には居住地域の6割で人口が半減し、2割は無居住化する可能性があると指摘しました。それを機に2014年、まち・ひと・しごと創生法が成立。政府の5か年計画は2060年の合計特殊出生率を人口維持に必要とされる2.07まで引き上げ、人口1億人をキープしようとしました。その中では人口維持が強調され、「東京一極集中」を問題視しました。当時の文章を読み解くと、東京圏の出生率がきわめて低く1.1近く、地方は1.4以上あるので、なるべく出生率の高い地方に人を動かしたいという狙いが見えました。他方で、基礎自治体がそれぞれの個性に応じた計画を作り、金太郎飴ではない地方創生を目指す姿が強く打ち出されました。

 5か年計画が終わった2019年に成果を振り返ると、地方での若者の就業率は61%から65%くらいまで上がりました。インバウンド(外国人訪日客)観光も1900万人から3100万人程度に拡大。農水産物の輸出額も6100億円程度から9000億円レベルまで増えました。しかし、まち・ひと・しごとの施策が講じられる前、東京への人口転入超過(転入者数-転出者数)は6~15万人程度でしたが、5か年計画終了後も15万人程度の流入が続いています。一極集中の是正はできなかったことになります。また、島根県の海士(あま)町のようにコミュニティーのしっかりした地域での成果は見られましたが、経済的規模の大きな都市での成果はあまり見られませんでした。それを受け、2019年から第2期の計画がスタートしました。「活力ある地域社会」をうたい、人口減少の中でも地域社会をしっかりと作っていかないといけないという考えを前面に出したと認識しています。その後、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、関係人口創出の工夫やデジタル化の進展、SDGs(持続可能な開発目標)など新しい施策が出てきたというのが政府の地方創生に関する施策の流れです。

DBJグループの取り組み

 DBJグループがどんな姿勢で地域創生に取り組んできたかというと、3点あります。まずは交流人口の増加で、人がどんどん動くことによって人口減少を補うというのが一つ目の視点です。インバウンド観光や、日本版DMO(観光地域づくり法人)といった国内観光の振興も含め、新しい観光施策、スポーツを活かした街づくりなどで人の移動を頻繁にしようということです。2点目は地域資源の有効活用。従来は工場や企業の誘致など地域外にあるものを引っ張ってくることが中心でしたが、地域資源を有効活用する必要があるということで、公有資産のマネジメントや地域の自然を活かしたグリーンインフラ、ほとんど廃棄物扱いされていた古民家などをもう一度見直して価値を生み出そうというのが二つ目の視点です。3点目は官民連携(PPP)。地方は民間の資本や企業が弱い所が多いので、公が相当頑張らなければならない。そこは官民連携が必要で、私どもは「PPP/PFI大学校」に自治体や企業の有志の方に集まっていただき、全国16箇所の拠点をテレビ会議でつなぎ問題意識の共有を進めてきました。

有識者会議での議論

 しかし、コロナ禍で交流人口が圧倒的に減り、観光が駄目になると、従来の方法論では無理ではないかということで、改めて有識者にお集まりいただいたのが「ウィズ・コロナにおける地域創生のあり方検討企画」です。まず、地域における課題を改めて共有します。

 本日のパネリスト、片山善博先生は1951年生まれと聞いていますが、その年の子供の出生数は214万人でした。私が生まれた1963年は166万人くらい。その後、第2次ベビーブームが来て、1975年に200万人を割った後、ずっと減少し続けています。2020年の出生数が87万人なので、年200万人生まれていた赤ちゃんが87万人しか生まれていないというのが現状です。これは生物学的要因であり、急に人口を増やすことは出来ないので、今後も人口トレンドは減少傾向になります。以前は数の少ない高齢者は「長老様」と呼ばれましたが、1995年には若年層との人口対比が逆転し、将来的には長老様ではなく、「年少様」になるかもしれない。人口のピークは2008年、1億2800万人程度でしたが、生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の減少は1995年から始まっています。東京への人口転入超過15万人のうち9割が15~30歳の活力ある若者。こういう世代が東京に集中しています。ただ、生産年齢人口は減っていますが、労働力人口(働く意思と能力を持つ人の合計)は微妙に増えています。これは高齢者と女性が労働市場に登場したためですが、長期的には労働力の減少が課題です。

 道路、トンネル、河川などインフラ(社会基盤)の老朽化も問題です。2033年の時点で建設後50年経過するのが道路で6割、トンネルで4割、河川などで6割。人口は減るのに、インフラの更新が増えていく。東京への富の集中という問題もあります。所得2000万円を超える高所得層が東京には地方の倍くらいいて、東京に富が集中していると言われています。では、東京に住む人が本当に金持ちなのかというと、全世帯の可処分所得で見ると東京は全国3番目ですが、標準的な中央世帯の可処分所得は12番目。一方、中央世帯の支出はトップなので、結果的に差額は全国42番目となり、富を求めて東京に来ても実際には金持ちになれないのが現状です。

インバウンドの消失、テレワークの進展

 コロナ禍によって新たに何が起きたかというと、訪日観光客は端的に言って、いなくなりました。国内の宿泊数も、Go Toトラベル前の数字ですが、昨年5月は対前年同月比8割減で、8月段階でも6割減。この後に回復しましたが、また減少したのはご案内の通りです。3密の回避やアクリル板設置など、生活習慣も変わりました。では、プラス面は何か。テレワークの普及と、大都市における閉塞感の結果だと思いますが、若者の意識変化がアンケート調査から見て取れます。特に東京23区の20代の方に聞くと、35%が地方移住に関心を持つようになりました。それまで一部の人しか関心を持っていませんでしたが、3割の人が一時的かもしれないが地方への移住に関心を持つようになった。交流人口の減少を数字で見ると、コロナ前の観光消費は22兆円。これに対し、コロナ後の国内宿泊客が7割水準にとどまり、海外宿泊客は3割にとどまると仮定した場合、観光収入の減少は8・5兆円にも及びます。イベントやスポーツの延期も昨年3~5月だけで約3兆円の減少。交流人口の減少だけで、昨年度だけで10数兆円の減少がありました。

 一方、テレワークで地方に移住した場合、どれだけプラスの経済効果があるのか試算したところ、東京圏の通勤者が844万人で、そのテレワーク実施者のうち移住希望者が5%なので、その世帯や周辺世帯をあわせて約3000億円の消費が地方に移転する可能性があります。休暇を兼ねて地方で働くワーケーションの希望者もアンケートでは67万人ほどおり、消費額をかけると1800億円になります。テレワークによる地方移住とワーケーションによる価値移転は、ざっと5000億円と試算されます。10数兆円減って、プラスが5000億円では少ない気もしますが、5000億円は個人のふるさと納税全体と同じくらいの効果があります。業種別の偏りもありますが、産業全般におけるテレワーク率は首都圏では相当にのぼるのではないでしょうか。有給休暇取得率なども上がれば、ワーケーションで地方に行く、観光産業が活性化する、そういう可能性もあると考えています。

 ただ、テレワークの拡大には働き方改革が重要です。就業規則などがテレワークやワーケーションを想定しておらず、黙認している状態の企業が多いと思います。このあたりの働き方改革が定着するかがポイントだと思います。また、経営側から見ると、テレワークで本当に生産性が上がったというと、コミュニケーションが取りにくくなった部分もあり、プラスとマイナスを測りかねている。しかし、保育所の送り迎えが難しかった人ができるようになるとか、副業をする時間的余裕が生まれるとか、少なくとも働き手側の生産性は上がっている。働き手の生産性の向上を日本全体や地域経済にどう生かすかが次の課題です。テレワークで地域創生を図るには、地方側がどうマーケティングするかも重要です。企業側から考えると、地域でテレワークをするにはBCP(事業継続計画)の備えを考えるので、支店のあるような場所を考えるのかなと思います。こういうニーズをとらえるのは地域の中核都市。経済的に大規模な所は「企業ニーズ」への対応になると思います。一方、働き手側から考えると、自然が美しい所や子育て環境の良い所を希望するので、個人発のテレワークや地方移住は、人口規模は小さいけれどコミュニティーや自然、安全安心などを売りにしている田園都市がマーケティングの対象になると思います。地方創生テレワークと言っても、都市のあり方によってマーケティングの仕方、対象が変わってくるということです。

求められる都市類型による施策

 新型コロナによるさまざまな履歴効果は一過性に終わらず、しばらく続くと思います。DBJでもテレワークのための設備投資を行ったので、なるべく使おうとなります。個人も在宅勤務になり、東京でなくても働ける状況になっています。働き方の価値観も短期間でぐっと多様化が進みました。こういう事を考えると、今後はさまざまな都市類型ごとに各々の強みや特性を活かした地方創生のあり方を検討する方向性が重要ではないかというのが、有識者会議の一つの結論です。人口規模別に自治体の構成比を見ると、50万人以上の都市に日本全体の約3割の人が住んでいます。一方、小さい都市にも多くの人が住んでおり、10万人以下の都市で日本の人口の約3割、30万人以下の都市に人口の約半分の人が住んでいます。経済都市と田園都市を区切るのは困難ですが、都市の規模によって人口や地方創生の問題が変わってきます。2次産業中心か3次産業中心かでも施策は変わります。そこで、有識者会議の提言では「3大都市圏」、「札仙広福」(札幌・仙台・広島・福岡)、「県の中核都市(加工組立型や観光型)」、「田園都市」といった分類を設けました。有識者会議での時間が限られていたため、あくまで仮説になっています。

 3大都市圏の第2次大戦後の転入超過人口の推移を見ると、景気がいい時は大都市に人が集まり、景気が悪い時は地方に戻るのが全体のトレンドです。大阪圏は1970年に万博を開催した後、第1次石油ショック以降、地味に流出が続いています。ひょっとすると、東京一極集中は大阪圏の地盤沈下と裏腹だったと言えるかもしれません。また、「札仙広福」では札幌、福岡は平成に入ってから人を集めていますが、仙台は一時期景気が悪く、流入がほとんどありませんでした。しかし、2011年の東日本大震災以降は、公共投資の影響で経済が活性化して流入が増えている。ここから推察されるのは、経済規模が大きい都市は経済が活性化されないと人が増えないということ。しかし、大都市圏がハッピーかというと、今後、老齢人口が爆発的に増え、東京に住むのは必ずしもハッピーではない。このように都市特性に応じた分類が必要だと思います。大都市圏、札仙広福、中核都市、田園都市のそれぞれで、産業施策と国土計画の掛け合わせで施策を考えるべきです。経済都市では経済活性化が中心になりますが、田園都市では価値観の多様化やコミュニティー力の向上などが人口定着のカギになると考えています。

新たな地域価値指標の提案

 田園都市では、経済価値だけで測れない部分を客観的に評価することも大事ということで、DBJのグループ会社、価値総合研究所が全国3万人にアンケート調査を行い、回帰分析を用いて新しい価値指標の創出にトライしています。地域の様々なストックやフローを変数にして、アンケート結果と照らし合わせて回帰分析。「経済」要因以外に「環境」「社会」要因にも注目して、総合満足度を試算しています。ある小さい自治体を分析すると、価値指標の合算値が全国順位で2位。社会インフラやコミュニティー力、環境などへの満足度が高く、地域の価値を押し上げているのが見て取れます。価値指標はまだ不十分なもので、毎年改善していこうと思っています。自治体の方からお問い合わせがあれば、われわれと一緒に経済以外の価値を客観的に評価できる指標を作ることで、地域住民の自己評価に役立てられると思っています。

 コロナによって交流人口はかなりダメージを受けましたが、逆にテレワークや場所を問わない働き方、生活の価値観など地域の可能性のポテンシャルは間違いなく高まりました。それを活かすには都市類型ごとに様々な施策を考えなければならない。その評価指標も、経済指標だけではなく、社会、環境など非経済指標が重要になるというのが有識者会議の論点でした。今後、このような価値指標の活用を通じて、魅力ある地域へのヒト・モノ・カネの流れが創出されることを期待したいです。

 パネルディスカッション要旨はこちらから

無断転載・複製を禁じます
2048948 0 読売Biz フォーラム 2021/05/13 15:00:00 2021/05/13 17:13:39 2021/05/13 17:13:39 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210512-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)