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「我が国のデジタル改革について」講演要旨(講師:平井卓也デジタル改革担当大臣・2021年6月29日)

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 平井卓也デジタル改革担当大臣が6月29日、読売Bizフォーラム東京のオンラインセミナーで、「我が国のデジタル改革について」と題して講演した。平井大臣は9月に創設されるデジタル庁について、「今までになかった強い権限を持った省庁になる。これまでの延長線上にないやり方で国と地方の根本的なアーキテクチャー(設計)を見直し、日本の未来を明るくしたい」と、社会全体のデジタル化に取り組む決意を強調した。(聞き手は伊藤徹也・読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員)

講演要旨

デジタル敗戦、縦割りの弊害

 新型コロナウイルス感染症は社会に大きな影響を与えています。100年に一度のパンデミックは、ありとあらゆるものを動けなくするだけでなく、我々のメンタル(精神)も含め、大きな変化を起こしていると思います。そういう中で、昨年9月にデジタル改革担当大臣に任命され、今日まで、人、物、金、根拠になる法律、事務所も何もない中で、全力で走り続けてきました。いよいよ9月1日の正式なスタートを控え、組織に関してもいろいろな手立てをしているところです。

 デジタル庁創設が菅内閣の重要課題となったのには布石があり、私がIT・科学技術担当大臣を退任する記者会見で、無任所で総合調整機能を持つだけの大臣ではデジタル改革は進まないと言いました。その後、自民党に戻り、デジタル社会推進特別委員会、今はデジタル社会推進本部に格上げされましたが、そこで「デジタル・ニッポン2020」という提言をまとめました。それが、まさにデジタル改革の原案です。その後、骨太の方針などにも盛り込まれ、菅総理からは規制改革の象徴、成長戦略の柱となるデジタル庁を1年以内に立ち上げるという宿題を与えられ、それを今、実行しているところです。

 なぜデジタル改革を進めなければならないかというと、日本のデジタル化に何かが欠けていたということが、いろいろな所で顕在化したからです。多くの皆さんは、日本は何となくデジタルの方も進んでいると思っていたと思います。しかし、実際、ふたを開けてみて、何かの成果を出せたかというと、欧米や台湾、韓国に比べてパフォーマンスが見劣りした。私はあえて「デジタル敗戦」と呼んでいるのですが、何が一番問題だったかというと、デジタルの一番のメリットである「つながる力」を発揮できなかった。確かに日本はブロードバンドも含めた良質なネットワークを持っているし、離島まで光ファイバーを引いている国がそんなにあるわけではない。優秀なエンジニアも、いろいろな所におられます。しかし、政府が莫大な投資をしてきた割には、国民が満足するような成果が全くなかった。

 まず、省庁が縦割りで、国と地方も別々。地方もそれぞれ別のシステムだった。もう一つは、民間と地方自治体や政府をつなげる部分が非常に弱かった。そして、国も地方もサービスを提供する側、サプライサイドの発想でしかシステムを作っていなかったことが一番大きかった。「正確に間違いなく管理しているから(それだけで)いいだろう」というのが今までのシステムの作り方でしたが、そこを180度変えていくことが必要。国民が満足して初めて完成形に近づくというか、システムの作り方を根本的に変えるという発想の転換が求められています。

自分たちが望む未来から逆算する

 欧米に比べてどうか、という話がよく聞かれます。私たちも、いろんな国を参考にしました。例えばエストニアやイギリス、デンマーク、オーストラリア、シンガポール、アメリカ、韓国など、いろんな国が同じようにデジタル化に取り組み、日本よりだいぶ前にデジタル庁のような組織を立ち上げ、試行錯誤しながらいろんな形に変更させているというのが世界の情勢です。ですから、ちゃんとした設計図、この通りやればできる、というものがあるわけではない。ゼロから基本的なビジョン(構想)、ミッション(任務)、バリュー(価値)を整理して、理念を作りながら今回の作業に入っています。今回の法改正で一番大きいのはデジタル社会形成基本法という、デジタルの憲法みたいなものを作ったことです。これは2001年に施行されたIT基本法に代わる法律ですが、IT基本法を廃止してまで新しいデジタル社会を形成する基本理念を取りまとめたということが、今までと全然違うと思います。

 現状を改善するために法律の改正案を積み上げるのが、今までの日本の法体系でした。今回初めて、現状から考えるのではなく、私たちが望む未来から逆算する、つまり日本はいろんな問題を抱えているけれども、次の時代の日本人がどうやったら幸せになれるのか、ということをイメージして、そこから逆算して社会を形成することを考えたのがデジタル社会形成基本法です。今までのやり方を変えるということが、デジタル化の一番重要なポイント。言わば、現状否定から物事を進める。現状を肯定してしまったら、本当の意味でのデジタル改革はできない。マインドセット(思考様式)を変えて取り組むのが今回のデジタル改革だと思います。

デジタル庁改革関連法案準備室の立ち上げ式で記念撮影の際に中央を菅首相から譲られる平井デジタル改革相
デジタル庁改革関連法案準備室の立ち上げ式で記念撮影の際に中央を菅首相から譲られる平井デジタル改革相

 そして、日本は米国流や中国流ではなく、武士道になぞらえると、道を踏み外さないデジタル化をやっていこうと思っています。中国と米国を見ていると、デジタル化による格差の拡大や、監視社会、プライバシーの問題、メガプラットフォーマーが情報を吸い上げてしまう問題など、光と影の部分がある。日本が目指すのは、誰一人取り残さないデジタル化です。きれい事ではなく、どこの国とも違う日本流の道、それを武士道になぞらえて「デジ道」という言葉を慶応義塾大学の村井純先生と一緒に作りました。この言葉が今後使われるかどうかはわかりませんが、私たちがそんな気持ちでいるということはご理解いただきたい。

デジタルを意識しないデジタル社会

 ですから、常にデジタル化の目的を確認する必要があります。人が本当に助かったり幸せになったりするか、日本の競争力が強くなっていくのか、高齢化や人口減少などの社会問題を解決する力を持っているのか。それがデジタル化の目的であって、電子申請ができますとか、デジタルでつながりましたとかいう話は、その過程にある一つ一つの現象に過ぎない。最終的に目指しているのは「デジタルを意識しないデジタル社会」です。デジタルを意識するだけでハードルが上がったり、ストレスになったりするケースもあるので、どうやって人を助けるか、そのためにテクノロジーをどう使うかが一番重要なことだと思います。

 今回の法案で、皆さんの口座とマイナンバーを紐づけます。銀行に対しては義務化していますが、本来なら私自身はすべての皆さんの口座にマイナンバーを振っていただきたい。しかし、何となく気持ち悪いと感じられる方もいらっしゃると思うので(国民の皆さんにおかれては)任意になります。一方で、毎年500億円程度の休眠口座、つまり誰のものだかわからない口座が出てくる。誰かの口座が誰のものでもなくなるというのは、今までのデジタル化やシステム構築をID無きままやってきたツケだと思います。銀行口座のIDだと考えれば、マイナンバーと銀行口座を紐づけるのは何ら不思議ではない。今回、マイナンバーやマイナンバーカードによってIDを確立し、本人確認の力を国が担保することで、デジタル社会におけるトラスト(信用)が格段にアップします。

 マイナンバーカードの保有者も人口の3分の1を超え、企業の方々がマイナポータルといろんなサービスを接続することに前向きに動き始めました。例えば、ヤフーさんのアプリとマイナポータルが連携することによって、民間のサイトから行政手続きに入れるとか、セブン銀行さんでマイナンバーカードを健康保険証にする登録ができるとか、いろんな事が今起きています。ミライロという障害者手帳の代わりになるアプリもマイナンバーカードと連携します。ワクチン接種記録に関しても、来年、マイナポータルから見られるようになります。乳幼児のワクチン接種記録は、今はお母さん方が母子手帳で管理しなければなりませんが、ワクチンに関する記録は自分のマイナポータルで管理する時代になっていくと思います。そして、マイナンバーカードはスマートフォンに搭載されるということを法律で決めました。希望する方はスマートフォンを使って、いろんな行政手続きができるようになる。すべての行政手続きが、スマートフォンで60秒以内に完結することを我々は念頭に置いています。

 ワクチン接種記録システムもデジタル庁に持って行きます。これから皆さん、接種証明が必要になると思います。各自治体が持っていたワクチン接種のデータベース、紙だったりエクセルだったりバラバラに持っていたものを、初めて国が用意したクラウド環境で各自治体が管理できるようにしました。これは、我々が目指す国のシステムのわかりやすい事例だと思います。地方自治体でシステム標準化の対象となる17業務も同じように標準化して、クラウドベースのサービスに変えていくということだと思います。

強力な総合調整機能を持つデジタル庁

 なぜクラウド化を進めなければならないのか。今の国のシステムの費用は年間約8000億円。地方自治体トータルで約5000億円です。国の8000億円は各省庁バラバラに発注していますが、5000億円以上が実は維持管理コストなのです。新しい価値を生むシステムに対する投資というものが、はっきり言って、そんなに出来ているわけではありません。ほとんど維持管理コストということです。この問題はかつてから指摘されており、昨年の骨太の方針では、単にオンライン化を目的にするのではなく、データの蓄積・共有・分析に基づく不断の行政サービスの質の向上こそがデジタル化の真の目的である、民間の人材・知恵・技術を取り入れて徹底した見直しを行い、ベンダーロックインを避け、オープンアーキテクチャーを活用すると打ち出しました。ベンダーロックインとは、一度システムを入れてしまうと同じベンダー(メーカー)でなければ保守ができず、事実上、ロックイン(他社製品への乗り換えが困難)されているということです。私はこのベンダーロックインを解消したい。解消しなければ、日本の本当の成長につながるようなシステムは作れない。ベンダーの皆さんもビジネスモデルを変え、世界に出て競争力を発揮できるモデルにしないと、いつまでたっても維持管理だけ。利益は上がるかもしれないが、イノベーションが起きないし、社員の給料も上がらない。この点で日本の潜在競争力は各国と比べて弱い。今の日本の企業全部の時価総額を足し合わせてもGAFAに負けてしまいます。なんでトヨタがテスラの3分の1の株式の評価になるのかと考えると、やはり新しい価値を生むデジタルのインパクトを世界は見ていると思います。

デジタル庁(準備中)Webサイトよりhttps://www.digital.go.jp/about-us
デジタル庁(準備中)Webサイトよりhttps://www.digital.go.jp/about-us

 アフターコロナはデジタルをベースにした競争になると思います。レジリエント(災害等の困難な状況にも負けないしなやかな強さを持つこと)な国を作るためには外的な環境変化に強いシステムを作るということで、国のトータルデザインを今回、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の中で示しました。その中には今まで日本が一番苦手だった、データをどのように使って新しい価値を生むかというデータ戦略についても書き入れており、強力な総合調整機能を持つデジタル庁は予算を一括計上して分配する形をとります。国のシステム予算8000億円全部をいきなり見るのは無理なので、最初は3000億円。ゆくゆくは国のシステム全体を見ていくということです。データが使われるようにするために、デジタル庁はデータのオーソリティ(権威)という立場にもなります。日本の場合、データが使える形になってないし、土地であったり、建物であったり、戸籍であったり、住民票だったり、いろんなデータがちゃんと悉皆性を持っているものが非常に少ない。地図にしてもそうです。デジタル化を進めやすいようなルール作りも我々がやっていこうと思います。

 そして、皆さんがおそらく一番関心を持っておられるのは、どんなデジタル庁になるのかいうことですが、デジタル庁は復興庁と似た形の総理直属ですが、復興庁のように10年の時限でもありませんし、予算の一括計上も復興庁にはない。言わば、今までに全くなかった強い権限を持つ省庁になります。今のデジタル改革担当大臣という私の立場は無任所の大臣で総合調整機能を持っていますが、各省のシステムに対してアドバイスはできますが、それを根本的に変えるということを言ったとしても、それは提案でしかない。しかし、デジタル庁は、各省庁とぶつかるかもわかりませんが、日本の将来のことを考え、根本的なアーキテクチャー(設計)を国も地方も見直さなきゃいけないと考えています。そして、ベンダーロックインを解消しつつ、システムの更新時などをうまく計算をしながら約5年をかけて、強いアーキテクチャーのシステムを作る。これができたら、日本は最先端のアーキテクチャーを持つ国になると思います。ここが踏ん張りどころで、私が一番妥協したくない所です。今までの延長線上ではないやり方をやるということで、皆さん、心配もあろうかと思いますが、そこを乗り越えないとこの日本の国は変わらないと思っています。ですから、デジタル庁というのは官民の人材を合わせてそういうことをやりたい、そして日本の未来を明るくしようという気概を持った方々に集まっていただくということです。

官民共同のプロジェクト

 正確に言いますと、ヨーロッパ・イギリス型や、米国型とも違うし、民間の力の使い方もデジタル庁は非常にユニークです。米国などは民間企業を辞めて公に入り、給料はそこそこ減っても、終わったらまた民間に戻るというやり方ですが、日本の場合は今、デジタルトランスフォーメーションをやっている方々というのは給料が高く、評価もされており、人材がいろいろな所に分散しています。どこかの企業が必要な人材を全部抱えているということはありません。ですから、我々は兼業も副業もOK、非常勤の職員でも国家公務員として働くチャンスを皆さんに持ってもらいたいと思っています。

 ここで考えなければならないのは、そんな組織は今まで存在していないので、私がこだわるのがデジタル化のプロセスの透明化ということです。コンプライアンス(法令順守)に関しては、どの省庁よりも厳しくしようということで、前倒しをして、デジタル庁発足前に(コンプライアンスに関する委員会・ルールづくりを)スタートさせようと思っています。利益相反にならないようにするとか、人材を出す企業に迷惑をかけないとかということもあるし、個人で会社持っている方も個人事業主の方もいらっしゃると思います。今までなかった役所に新しいタイプの国家公務員を作り、官民共同でプロジェクトを作るということですから、非常に立ち上げが難しいのです。この立ち上げ時期を約1年と考えていますが、組織は我々が計画しているものを見直すということも覚悟しています。やってみなければわからない部分も多い。しかし、向かう方向さえ変えずに、ミッション、ビジョン、バリューを常に共有しながら進めれば、最適の組織になっていくと思います。国民に「デジタル化は楽しいね」と思ってもらわないと駄目です。台湾のオードリー・タンさんがよく言うスリーF、ファスト(高速)、フェア(公正)、ファン(楽しい)です。フェアの部分はコンプライアンスも含めて、デジタル庁には一点の陰りもあってはならない。ピカピカの状態でスタートさせたい。今までのやり方とは縁を切った形でスタートしなければならない。

 海外の事例を見ても、組織やプロジェクトの不断の見直しをやっていかなければならない。組織や自分たちを常に見直しながら物事を進めていく。そのためには、今までの役所とは少し違う感覚が必要で、「絶対失敗してはいけない、失敗しても失敗を認めない」という文化は、デジタル庁にはふさわしくない。素早く、小さく、失敗するならして、そこから新しいものを生むということになるのではないでしょうか。

 デジタル庁は国内にとどまるのではなく、グローバルにも連携していかなければならない。同じ価値を持つ国の組織とは、特にセキュリティーの問題も含めて綿密な連携をとっていく。単に国内のシステムを見直すだけの存在であってはならんと思います。最近、サイバーセキュリティーの問題が毎日のように新聞を賑していますが、日本が本当にその問題に全力を挙げなきゃいけないのは、このオリンピックのタイミング、そしてその後もだと思います。そういう面も含めて、レジリエントなシステムを作るためには、今までのシステムのアーキテクチャーを変え、セキュリティーの基本的な発想を変えないとできないということは、我々、意識を共有しています。関係セクションが縦割りではなく、国内にあるセキュリティーセクションがうまく連携する、そのハブになれたらいいなと思っています。

 ビジネスにおけるデジタル化の影響ということを考えると、コンテンツ視聴の量的・質的な構造変化、これは内閣府知的財産戦略推進事務局で取り組んでいますが、実はデジタル庁とも密接な関係があります。クリエイターやコンテンツ、配信ルートが多様化し、流通量も増えています。私は家で寝る時にはネットフリックスを見ていますが、1998年頃、ネットフリックスがどうやって生まれたかというと、従来のレンタルビデオ店のビジネスはレンタルだけではなくて延滞料ビジネスだったのですね。つまり、返すのを忘れた、遅れたというものに課金するシステムだった。そこにネットフリックスが郵便で送るというシステムを作り、その後、月額いくらというモデルに変わったという歴史の中で一番大きかったのは、2007年頃、ストリーミングサービスに変わったことだと思います。日本のテレビ局は、電波がアナログからデジタルに変わりましたが、足元のビジネスモデルを本気で見直したかというと私はそうではなかったと思います。私もかつてローカル局の社長をしていましたが、当時はいかにデジタル設備を更新するか、アナログ電波が止まる日に間に合うかを心配していましたが、ビジネスモデルの根底が変わるという発想は持っていませんでした。

 今考えてみると、ネットフリックスにしてもアマゾンのプライムビデオにしても、みんな次の時代をバックキャスト(未来から逆算)してモデルを変えたと思います。ですから、コンテンツの権利処理問題などを考えると、これから日本のテレビ局も安穏としてられない。世界に伍して良いものを作っていくためにはマーケットのことを知らなければならないし、誰がどのように主張しているかということも理解しなければならない。それに対して、莫大な制作費を使うだけのマーケティングが必要だと思います。こういうことが、ベースレジストリ(社会の基幹となるデータベース)を担うデジタル庁としての関わり、データ戦略の関わりということで出てくるのではないかなと思います。

何のためのデジタル化か

 今、日本全国で誰もがDX(デジタルトランスフォーメーション)、DXという言葉を言います。そして、デジタル化に取り組まないと取り残されると思っている方もたくさんいらっしゃると思います。しかし、私はそうではなくて、自分たちの良さや強みは何かを見極めることが今一番重要だと考えております。DXは何のためにやるのか、何を求めてやるのかというものがなくて、デジタルを使えば良くなって、視界が広がるというものでは全くない。

 これはデジタル庁が考えていることでもあります。システムをデジタル化しただけでは、多くの国民が幸せになれるとは思いません。日本には高齢者がたくさんいらっしゃり、「デジタルを意識しないデジタル社会」という言い方をしている意味は何かというと、無理やりスマホを持つことなくデジタルのメリットを享受できるには、困っている人を誰かが助けなければならない。デジタル空間だけで人間の幸せは実現できないわけで、人が人を助ける。自治体だけでは助けられないので、ある程度デジタルの便利さがわかっている人が困っている人を助けるという文化がベースにないと、本当の意味でのデジタルディバイド(情報格差)は解消できないと思います。デジタルディバイドというのは、デジタル機器が使えないとか買えないとかいうことで止まってしまっては駄目な話で、本来そんなことで格差ができるのがおかしい。道具としてのデジタルを使うというのは、アナログの世界を含めてトータルで進めていかなきゃいけない。

 9月1日にデジタル庁がスタートした後、10月10、11日はデジタルを国民全体で考えてもらう「デジタルの日」というイベントをやろうということになっています。デジタル化は無理やりやらされるものではないと思っていますし、メリットは計り知れないとも思います。そういう意味で、日本のデジタルの何が進んで、何が駄目だったかということをチェックする機会にもなるのではないかなと思います。

 最後に、デジタル庁がうまく行くということは非常に大きな事だと思っていて、今まで我々が一番苦手だったマインドセット(思考様式)そのものを変えるという大きなチャレンジだからです。日本はこんなもんじゃない。若くて優秀なベンチャーもたくさんいらっしゃいますし、日本の技術力はまだまだ世界でも負けていない部分も多い。何となく、この20年間は成長しないことが当たり前みたいになっていますが、日本が停滞から脱するためにもデジタル庁の存在は非常に大きいと思います。政府として初めてのスタートアップ企業のようなものがデジタル庁です。皆さんのご理解を得ながら、ちゃんと成果を出せるように、そして9月1日に無事船出でできるように、私も全力を尽くしますので、応援をよろしくお願いします。

質疑応答

 平井大臣との質疑応答は以下の通りです。

  質問  デジタル庁の具体像についてお聞きします。デジタル庁の職員は民間からも採用し、優秀な人材が官と民を行き来する仕組みが整備されると聞きました。こうしたキャリアの形成は日本では珍しく、とても関心があります。9月に発足するデジタル庁の姿を、もう少し具体的に教えてください。デジタル庁は省庁の縦割り打破を目指していると聞きました。デジタル改革担当大臣として、縦割りの弊害を実感された例があれば、併せて教えてください。

  大臣  省庁を超えた連携がうまくいかないというのは、この国の永遠の課題のように言われてきました。システムもそれぞれバラバラの予算で、はっきり言って、他の省庁の事なんか誰も考えていないですね。自分の所にとってベストの選択をしてきたと思うのですが、そういう意味で全体の最適化は非常に難しかったと思います。国民から見たら、サービスが何省のものかは関係なくて、自分にとって助けになれればいいと考えた時に、縦割りは非常に不親切だと思います。ここはデジタル庁が解消すると思いますし、組織の具体像については、民間の人材と官僚はヒエラルキーも違えば、物事の捉え方、働き方も全く違う。それを融合した組織にして、今まで民間の人はアドバイザーとして国にいっぱい入っていますが、組織の意思決定プロセスに民間の人が参加するのは初めてだと思います。そういう意味で非常にチャレンジングですけれども、国家公務員の制約を踏まえつつ、デジタル庁で職務経験を積んだデジタル人材が日本全国いろんな所で活躍できるようになるというのが、私の目指す姿です。

  質問  デジタル庁の事務方トップになるデジタル監も民間から起用するとのことですが、選考状況や目途は。

  大臣  どこかの講演で、意中の人がいるというお話をさせていただきました。やろうとしている事、ミッションとビジョンに共鳴してくれる方というのが一番重要なポイントで、あとは最新のテクノロジーについて知識があること。組織もマネジメントする。ただ、今回の組織はマネジメントするのが大変なので、我々も一緒になってやっていくことになると思いますが、難しい事へのチャレンジに燃えていただける方をと思っていて、いろいろ意識合わせもさせていただきつつあります。

  質問  「デジタル敗戦」についてのお尋ねです。新型コロナへの対応では、接触確認アプリ「COCOA」が不具合を起こしたり、給付金の支給が遅れたり、ワクチン接種を受け付けるシステムが混乱したりしました。政府がデジタル技術を十分に活用できない事例が目立ち、とても残念に思いました。平井大臣は先ほどデジタル敗戦とも表現されましたが、原因はどこにあるのでしょうか。今後のコロナ対応にデジタル技術をどう活用していくのでしょうか。

  大臣  アプリの不具合は、簡単に言うと発注者の発注能力のなさ、これに尽きると思います。アプリを作ったことのあるスタッフは国(政府)にいるわけではなくて、今までのようにお金さえ出したら完成品ができて、それで評価されると思ったと思いますが、特にアプリはリリースしてからが本番で、そこからの不具合や使い勝手の悪さを克服して進化するのが価値。だけど、リリースしたら、もう完璧じゃなきゃいけないという役所の発想で、ベンダー丸投げで作っちゃうと、あんなものになるという典型です。デジタル庁には自前でアプリを作れるスタッフもおります。今の役所だと、こういうシステムを作るのに、適正な民間の感覚でいくらかかるか積算できる人もなかなかいない。私は民間でシステム会社も経営したこともあるが、官庁のシステムコストは驚くほど高い。せめて民間レベルの発想にならないと。普通、何億というシステムは民間ではとてつもないシステムで、大変な投資ですよ。「アプリ程度で、こんなにお金がかかって」と思っている方も多いと思います。そういう意味で、ちゃんと何がやりたいかをはっきりさせたうえで、システムの設計を考えないと、アプリを使ったら何か便利で役に立つものができるという(漠然とした)発想で発注してしまっても、結局、システムもアプリも万能ではないんです。重要なのは最初の設計思想と国民の理解ですね。プライバシーについてはここまで踏み込むから、こういう機能でどうですか、みたいなコミュニケーションもないまま作ってしまった。反省点ばかりですが、COCOAは内閣官房IT総合戦略室で引き継いで、無事に稼働しておりますので、ぜひインストールしてお使いいただきたい。

  質問  デジタル化の流れに日本が乗り遅れているのは、行政の対応と民間への支援が不足していることにあると思います。旗を振る国会議員や官僚の皆さんのデジタルリテラシーが低いため、コロナのアプリのようなことが起きるのではないでしょうか。行政が指示するより、民間が自由にデジタルに取り組めて、世界で評価されるスタートアップが多く登場できるような環境を整えて欲しいです。

  大臣  私は2年前に大臣だった時に、「HIRAI Pitch」という有識者懇談会を立ち上げ、北海道から沖縄まで多くのスタートアップの皆さんの話を聞きました。大学発ベンチャーですね。そこで感じたことは、日本はものすごくやる気があって能力もある、ベンチャースピリットを持った若者が多く、彼らの潜在能力を解放したら日本の未来は明るくなる可能性は大きいと思っていました。ただ、なかなかきっかけがつかめないということもあるし、国や地方自治体がそういうベンチャーに発注するというか、試しに何かやってもらうには、システム的にうまくいかないこともある。米国なんかはSBIR(中小企業技術革新制度)をフルに使って、民間のベンチャー企業にそういうことを発注する。日本も真似してSBIRを作ったけれど、うまく使いこなしていないというか、ハードルがまだ高いですね。ここは大企業とベンチャーがうまく組んでもらうとか、いろんなやり方があると思う。次のところを育てていくことに我々は一生懸命にならないといけない。戦後の歴史を考えてみたら、日本のいわゆる大企業も、みんなベンチャーだったんですよ、昔。ところが、長くやっているうちにグローバル企業になり、今度は攻めから守りになると、なかなかビジネスモデルを変えられないというのも、私も経営者の経験があるのでわかります。しかし、若い人たちにチャンスを与えることが重要で、ポテンシャル(潜在能力)が高いことは確信しています。

  質問  平井大臣は国会議員の中でも一番ITに詳しいと聞きました。どのようなきっかけでITに関心を持ち、どのように勉強して詳しくなられたのでしょうか。

  大臣  私、元々文科系です。専門は音声学で、ITは全く関係ない。国会に入り、IT戦略の事務局的なことをやりつつ、人の話を徹底的に聞いた。それも1回聞いただけじゃ駄目で、定期的にいろんな新しい技術の動向を聞いているうちに、いろんな勉強もした、というようなことだったと思います。ただ、ベンダーロックインの問題は実は当選して5年目ぐらいからずっと取り組んでいるテーマです。何とか国の発注を変えたい。ですから、ベンダーロックイン対策は15年前から言っていて、やっと多くの皆さんが本当にやろうということになったし、骨太の方針にこういう言葉が入るという事はこれまでなかったと思います。そういう意味で、やっぱりゲームチェンジが起きようとしているし、2020年のこのコロナで我々、多くの事に気づいたと思います。ですから、個々の技術もさることながら、やっぱり世界の動向みたいなものを意識しておかないといけない。

 プログラムの勉強も自己流でやったけれど、結局どんなものか、という程度の理解しかない。だけど、ある程度知っていると、エンジニアの皆さんとの会話もしやすいというか、通じる。つまり、政策決定者とエンジニアの間に入ってコミュニケーションができるというようなことが知らず知らずにできるようになったのが、今の私ではないかなと思っています。特に何かを集中的に勉強したわけではなく、今の小学生にプログラミングなんか完全に負けてしまいますので、彼らの能力を解放するには何をしたらいいのかについては、一定の考え方はできていると思います。

  質問  リカレント教育(教育と就労のサイクルを繰り返す教育制度)などという言葉が使われるようになってきましたが、中高年世代のデジタル教育をしっかりしていただかないと我々は時代に取り残されてしまいます。国民全体のITリテラシーを上げるための政策として、どのようなお考えをお持ちでしょうか。

  大臣  今、GIGAスクールとかプログラミングの必修化とか、いろいろ進んでいますが、まず「デジタルは楽しい」ということを国民の中で教育しなきゃいけないと思います。今回、政府の法律を作る時の委員として86歳の若宮正子さんにも参加してもらいました。彼女のグループ「メロウ倶楽部」にも何度か参加させていただきましたが、実は80代、90代で相当のスキルを持ったエンジニアの皆さんがいらっしゃるんですね。皆さん、施設にいたり、自宅にいたり。その皆さんの話を聞いていると、年寄りだからといってスキルが低いと思うなよ、と言われます。若い人のスキルを上げてくれと。つまり、全体のスキルを上げていくことが必要で、まずは入り口が楽しくないと駄目だと思っています。こういう事を学べば、これだけ楽しい仕事に就くチャンスもあるし、幸せになれるということです。ただ、多くの方々が、まだデジタルと自分の幸せがつながっていないと思う。そこをつなげないと勉強に身が入らないというか、やらされる勉強ではデジタルは駄目で、自分なりに必要な事のための勉強ということをいろいろ選択できる環境を国が作っていこうと思っています。

平井 卓也(ひらい・たくや)
デジタル改革担当大臣

 1958年香川県生まれ。上智大学卒。株式会社電通、西日本放送社長等を経て、2000年、第42回衆議院選挙で初当選。以来、連続7回当選。自民党政調副会長、国土交通副大臣、内閣常任委員長、自民党IT戦略特命委員会委員長等を歴任。2018年第4次安倍改造内閣にてIT政策担当大臣、内閣府特命担当(科学技術・知的財産戦略・クールジャパン戦略・宇宙政策)大臣就任。2019年10月自民党デジタル社会推進特別委員長に就任。2020年9月菅内閣にてデジタル改革担当大臣、情報通信技術(IT)政策担当大臣、内閣府特命担当大臣(マイナンバー制度)就任。

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2205928 0 読売Biz フォーラム 2021/07/14 15:30:00 2021/07/14 15:30:00 2021/07/14 15:30:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210713-OYT8I50084-T.jpg?type=thumbnail

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