[どっち派? HONライン倶楽部]“幕末”小説/“戦国”小説

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 歴史・時代小説の「定番」は、戦国時代と幕末を舞台にした作品です。時代の転換期には、志を持った傑物が多く生まれ、豊かなドラマを織りなしていくからでしょう。いずれも人気のジャンルだけに、多くの投稿が寄せられました。

志と行動力 竜馬のごとく

司馬遼太郎さん
司馬遼太郎さん

 国民的な人気というのはこういうことを言うのでしょう。今週の全作品中、最も投稿が多かったのは、司馬遼太郎『竜馬がゆく』(文春文庫)でした。「『仕事で悩んだ時は竜馬のような大きく広い考え方と行動力が必要』と、若い頃に上司に読むように言われました」と振り返るのは千葉県我孫子市の瀬尾悠紀雄さん(79)。また、埼玉県北本市の斉藤正敏さん(55)は「『努力すれば、自分も竜馬になれるかも』と、性格が少しずつ積極的になりました」と言います。そのキャラクターは、世代を超えて多くの人に愛されています。

 次いで人気だったのが、同じく司馬作品の『峠』(新潮文庫)。長岡藩の家老・河井継之助を描いた長編です。「決断力、行動力、改革力が断トツ! リーダーの見本です」と語るのは茨城県土浦市の森田正恵さん(54)。継之助にみせられ、彼の著作を読むほどのめり込んだといいます。

 『新選組血風録』(中公文庫など)、『燃えよ剣』(新潮文庫)、『花神』(同)と司馬作品はどれも投稿があったのですが、このままでは一人の作家に紙面を独占されてしまうので、他の作家の小説も紹介しましょう。

 〈木曾路はすべて山の中である〉という有名な書き出しで知られる島崎藤村『夜明け前』(岩波文庫など)を挙げたのは、茨城県日立市の田所秀之さん(61)。「市井の人の視点で書かれた歴史小説。幕末、維新が別の角度から見えてくる」と言います。

 ユーモアを交えた語り口で「読み始めたら、やめられない」と千葉県船橋市の小山民子さん(77)が評したのは浅田次郎『一路』(中公文庫)。浅田作品は、南部藩を脱藩し、新選組に身を投じた男を描く『壬生義士伝』(文春文庫)にも投稿がありました。

 「幕末」派で人気だったのは、新選組。無名隊士を扱った小松エメル『夢の 燈影ほかげ 』(講談社文庫)や、土方歳三を新たな形で描いた京極夏彦『ヒトごろし』(新潮文庫)への投稿がありました。一方、市井の人々を丹念に描く作品も見逃せません。木内昇『 櫛挽道守くしひきちもり 』(集英社文庫)。櫛作りに打ち込む少女の成長を時代の変化とともにとらえた傑作です。

乱世に毅然と生きる女性

永井路子さん
永井路子さん

 「戦国」派は、投稿が分散しました。その中で目立ったのは、女性を扱った作品です。織田信長の妹・お市を主人公とした永井路子『流星』を読んで、「時代の 否応いやおう ない流れの中で、 毅然きぜん として生きる姿に魅了されました」と投稿したのは大阪市の稲田真由美さん(55)です。その三女・おごうを描いた永井作品『乱紋』にも投稿がありました。いずれも今は、電子書籍で読むことができます。

 明智光秀の娘を題材とした三浦綾子『細川ガラシャ夫人』(新潮文庫)を挙げたのは、山口県山陽小野田市の山根明子さん(39)。玉子(ガラシャ)が死の覚悟を夫に伝える場面の「『散りぬべき時知りてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ』というフレーズがはかなくて好き」と言います。

 同じ女性でも、こちらは血湧き肉躍る大活劇。和田竜『村上海賊の娘』(同)を推したのは、神奈川県海老名市の古尾谷英さん(68)。「村上家の個性あふれる人物と、娘の きょう の男勝りの生き方が、スピード感たっぷりに描かれていました」。同じ著者の『のぼうの城』(小学館文庫)にも投稿がありました。

 『国盗り物語』(新潮文庫)、『関ケ原』(同)、『功名が辻』(文春文庫)……。司馬遼太郎作品も人気でしたが、「幕末」でたっぷり取り上げているので、こちらはタイトルの紹介のみでお許しを。

 そして、山岡荘八『徳川家康』(山岡荘八歴史文庫)を挙げたのは、埼玉県熊谷市の板倉愛子さん(57)。転校先の小学校でなじめなかった時に、この本に救われたと言います。「若い頃に人質として過ごした家康が、最後に天下人になった。長い人生、一時期のことは問題ではないと思えました」。中学1年生までに全26巻を読破したという、その熱量に心を打たれました。

 織田信長や徳川家康のように誰もが知っている武将だけでなく、乱世を生き抜くために奮闘する姿を様々な人物から描くことができるのが、多彩な戦国小説が生まれている理由ではないでしょうか。記者のお薦めは、垣根涼介『 涅槃ねはん 』(朝日新聞出版)です。零落した武門の家に生まれながら、権謀術数を駆使して、備前国でのし上がった宇喜多直家を描いた長編小説です。

混乱期の人々まぶしく

 今回多くの投稿を集めた司馬遼太郎は、『歴史の中の日本』(中公文庫)という本で、幕末や戦国を〈秩序という、社会の人工扶育装置がはずれてしまった乱世〉と表現します。人間としての課題が生々しく立ち上がるその時期を生きた人々に対して、〈目の奥が痛いほどのまぶしさまで感じてしまいます〉とも。

 今回の投稿には、「リーダーシップ」「 毅然きぜん 」という言葉が目立ちました。折しも、コロナ禍の 閉塞へいそく 感のある時代。歴史の転換期を、 りん として、時に 闊達かったつ に生きた人物たちの物語から、力をもらうことができるかもしれません。(律)

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使い方
2493527 0 コラム 2021/11/05 05:25:00 2021/11/05 05:25:00 文化功労者に選ばれ記者会見する作家・司馬遼太郎さん(68)。ホテルオークラで。1991年10月22日撮影。同月25日夕刊[文化勲章・文化功労者 受章の弁「森繁節」と「司馬史観」]掲載。 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/11/20211101-OYT8I50013-T.jpg?type=thumbnail

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