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『青嵐の庭にすわる 「日日是好日」物語』(森下典子著)

著者は、2018年公開の映画「日日是好日」(大森立嗣監督)の原作者。自らの人生でも、その軌跡をつづった原作でも、重要な位置を占めるのはずっと続けてきたお茶の稽古。お茶の経験がない製作陣に請われた彼女は、茶道指導スタッフとして思いがけず映画作りに参加することになった。
本書はそのてんまつ記。映画で本当のことを表現するための多大な労力、重要な役を演じた樹木希林ら女優たちが持つ特別な能力。著者は体験をしかと記しつつ、映画はいかにして映画になるのかを描出する。誰かの人生を凝縮してみせる映画の現場でもまた人生が巡っていることも。豊かなまなざしが本を貫く。(文芸春秋、1650円)(恩)
『偽証 模倣された若妻刺殺事件』(石田隆一著)

都内の住宅で31歳の主婦が刺殺される。容疑者は27歳の親類の男。容疑をあっさりと認め、逮捕されるが、動機は判然とせず、凶器も特定されない。果たして真相は――。
被害者や容疑者の家族ら十数人の証言によって、物語はつづられる。夫婦や親子、きょうだいといった人間関係に秘められた愛憎が語られ、一面的ではない被害者の姿が徐々にあらわになっていく展開は、芥川龍之介の「藪の中」を思い起こさせる。
ハウステンボス執行役員などを務めた著者は、この本の著者略歴欄に「遺書を書くつもりで創作活動に入る」と記した。その決意を感じさせる力作だ。(牧歌舎、1760円)(右)