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ジメジメと蒸し暑い日々を吹き飛ばすような投稿をたくさんいただきました。「モダンホラーの帝王」こと、スティーヴン・キングの怖い作品と泣ける作品の対決です。恐怖に震え、人の心の温かさに涙する。そんな小説をご紹介します。
欲望が生み出す悲劇…怖い作品

部屋に閉じ込められた作家。傍らにはファンと称する凶暴な女、そして足に振り下ろされる
もう一つの代表的なホラー『シャイニング』(文春文庫)。雪に閉ざされたホテルが舞台の物語について、「怖いと言えば真っ先に思い浮かびます」と話すのは、和歌山市の田中克則さん(43)。高校生の頃、友達に勧められて読んで以来、ずっと最も怖い作品だそうです。
愛する人にもう一度会いたい。大阪府高石市の横井麻実子さん(66)は、誰もが一度は思うであろう欲望が悲劇を引き起こす『ペット・セマタリー』(同)がお気に入りだとか。「人間の欲望と苦悩がリアルに描かれています」とのお手紙をくださいました。
大津市の松田翔さん(34)が推す「ほら、虎がいる」(同『ミスト』所収)は、授業中にトイレに行った少年が虎に遭遇する物語。少年をからかう同級生や先生が次々と姿を消す恐怖に、「虎は少年の負の感情が生み出した想像上の存在なのでしょうか」。
そう、本当に怖いのは怪物でも悪魔でもなく、果てしない欲望を持ち、罪を犯す人間なのでは? 宇都宮市の堀切輝美子さん(52)は『キャリー』(新潮文庫)を推薦します。宗教にはまった母親と、クラスメートのいじめに追い詰められたキャリーが起こした惨劇。「怖いのはキャリーではなく、人を傷つけることを楽しむ人間の方。私にとって『キャリー』は、怖いけど泣ける作品です」
苦しみの中 一筋の光…泣ける作品

希望はいいものだ、たぶんなによりもいいものだ、そして、いいものはけっして死なない――。理不尽で絶望的な状況でも諦めない。映画「ショーシャンクの空に」の原作「刑務所のリタ・ヘイワース」(新潮文庫『ゴールデンボーイ』所収)の主人公の姿に、多くの人が励まされたのでしょう。東京都小平市の大沢裕美さん(51)は「読後、感動でしばらくぼう然としました」と振り返ります。
同じく刑務所の物語、『グリーン・マイル』(小学館文庫)に涙した人も。埼玉県加須市の小谷野陽子さん(68)は「残酷な現実の中、病の人を救う主人公に胸を打たれます」。感動のあまり、原書にも挑戦したそうです。
「心に傷を負った少年たちが最後まで丁寧に描かれています」と、茨城県ひたちなか市の飯田千代美さん(69)が話すのが『スタンド・バイ・ミー』(新潮文庫)。子供から大人へと成長する間に揺れ動く繊細な心情に、自身の子供時代を重ね合わせた人も多かったようです。
宮城県石巻市の山崎和香子さん(63)は、事故の後遺症で人の秘密や未来が見えるようになった男を描いた『デッド・ゾーン』(同、現在は品切れ)を薦めます。「愛する女性が生きる世界のため、命を懸けて戦う姿は涙なくして読めません」
人は誰かのために、何ができるのか。キングの作品は、人の心の中に、一筋の小さな光があることを教えてくれます。奈良市の酒井保佳さん(29)は、2001年の米同時テロを題材にした「彼らが残したもの」(文春文庫『夕暮れをすぎて』所収、現在は品切れ)に、「キングは人の心を描くのが抜群にうまく、恐怖だけがキングの魅力ではないと思います」と書いてくれました。

1947年、米国生まれ。高校教師として働く傍ら、74年に『キャリー』でデビュー。『ミザリー』や『呪われた町』などのベストセラーを次々と生み、「帝王」として世界的な名声を誇る。『グリーン・マイル』や『スタンド・バイ・ミー』といった恐怖小説以外の作品も人気を集める。
同じ作品で恐怖と感動
今回の投稿、悩みに悩みました。同じ作品でも「怖い派」と「泣ける派」に分かれてしまったからです!
例えば『シャイニング』。仙台市の田村恵理子さん(67)は「泣ける」に一票です。「親を思う息子の気持ちから読むと泣けてきます。怖い話にしたのは、子供の成長や純粋さを際立たせるためかも」
一方、「恐怖の中に見え隠れする人間の本質、泣きたくなるほどの運命の中にある一条の輝き。どちらか決められません」とのお便りは、兵庫県三田市の向井理恵さん(52)から。素晴らしい物語なら、怖いも泣けるも関係なく夢中になってしまいますよね。キング作品を手に寝不足の記者でした。(千)