[現代×文芸 名著60]心に触れる<11>人との繋がりが人を変える…『対岸の彼女』角田光代著

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◎2004年刊、現在は文春文庫(590円)
◎2004年刊、現在は文春文庫(590円)

 友だちというもののことがわからない。子どものころからわからなかったし、いまもよくわからない。学校で、職場で、それはひとりに見えないための防衛手段にすぎなかったような気もする。誰かと一緒にいなければ、この世界で生きていくための資格を与えられないから。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 専業主婦の小夜子は、幼い娘を連れて公園を転々としている。対人関係に恐れを抱き、居場所を見つけあぐねている。そして働くことを決意するのだが、そんな小夜子が出会ったのが、自分と同い年で自由奔放に生きる女社長のあおいだった。

 葵は、ずっとこうだったわけではないようだ。それがうかがい知れるのが、小夜子の章と交互に差し挟まれる高校時代の葵の物語だ。中学でいじめを受けた彼女は、進学を機にちいさな町へと家族とともに引っ越していた。けれどその場所も楽園などではない。

 同調圧力に押しつぶされそうになる日々のなか、葵の楽しみはナナコとすごすこと。学校では別のグループに属しながらも放課後は一緒に遊ぶ。やっと見つけた“ほんとうの友だち”。何ごとにもとらわれないかに見えたナナコには、けれど秘められた家庭の事情があった。「帰りたくない」と言うナナコと、葵は果てのない放浪に出る。その先でふたりはある選択をする。

 『八日目の蝉』でも言えることだけど、角田光代の作品においては、事件の“事後”が大切に描かれる。葵が葵になっていった過程。誰かが誰かに影響を与えるということ。ナナコの強さは葵のなかで生き続けることになる。それはいつしか、育児や家庭に絡め取られていた小夜子をも、解き放っていくのだ。ひととのつながりがひとを変える。とても素朴なその事実に、読み返すたび、涙が止まらなくなる。(谷崎由依・作家)

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