[現代×文芸 名著60]言葉を楽しむ<21>「非日常」生きる多様な人物…『アタラクシア』 金原ひとみ著

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◎2019年刊、集英社(1600円)
◎2019年刊、集英社(1600円)

 「諸外国の若者と比べ、自分の将来に明るい希望を持つことができていない」。日本の若者の意識調査でそんな結果が出ているが、本作の主要登場人物である20代から30代の男女も、それなりの生活を保持しているにもかかわらず、希望に満ちているとは言い難い。

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 芥川賞を受賞したデビュー作『蛇にピアス』以来、現代の若者の葛藤に目を向けてきた著者。最新作の『アタラクシア』(「心が平静である状態」の意)でも多様な人物の内面に切り込む。

 モデルの道を諦め「ただ自分の感情にのみ従って生きている」ライター。夫の不倫や子育てに悩むパティシエ。盗作疑惑以来スランプから抜け出せない小説家。「キングオブ軽薄」である元彼を忘れるために「パパ活」に励む大学生など。希望を見出みいだしにくい世の中を生きる6人の語りが入れ替わりながら物語は進む。

 愛されたい、認められたいという彼らの承認要求はなかなか満たされない。仕事でのトラブルが家庭環境に支障をきたし、家庭での問題が仕事に悪影響を及ぼす。過去のトラウマや日常の苦しみから一瞬でも解放されたい思いで、彼らは「非日常」を創造し、心の平静を保とうとする。その手段は、浮気、飲酒、ストーカー行為、50人に満たないフォロワーに向けたツイートなどさまざまだが、長期的な解決策にはなり得ない。

 本作の主人公たちは、必ずしも共感しやすい人物ではない。が、視点となる人物が変わる度に、各々おのおのの新たな側面があらわになり、読者は物語により深く引き込まれていく。「何が正しくて、何が間違っているのか、もう何も分からなかった」というのは作中の女性編集者の言葉だが、本作は我々に登場人物を突き放すことも、簡単な結論にいたることも許さない。 (辛島デイヴィッド・作家、翻訳家)

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