[現代×文芸 名著60]言葉を楽しむ<24>かすめ取られ すり返す貧者…『掏摸(スリ)』中村文則著
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本作は計8回授賞が行われた大江健三郎賞、その第4回目の受賞作である。数ある文学賞の中でも極めて個性的な賞だった。存命のノーベル賞作家が一人で選考し、受賞作には「海外への翻訳」という特典が付与される。なまじ国内市場規模が大きいだけに、各産業で「ガラパゴス化」と
諸説あるものの、世界最古の職業は「売春」であるというのは有名な話だ。「掏摸」が二番目に古い職業だと語る本作の語り手、その彼自身が「掏摸」である。もちろん犯罪ではあるのだし、褒められたものではない。けれど、古くから続く職業なのだ、人間社会が成り立てば、その人波を縫う「掏摸」が必ず発生してきたということだろう。石川五右衛門の例を顧みるまでもなく、富裕者を対象にした盗人に義賊を期待するのはなぜだろう? もしかしたら大衆もまた、自分たちが生活をする中で体制から何かをかすめ取られているという実感があるからかもしれない。日々の生活に忙しく、不安に
格差が生まれ、貧者は最古の職業に就く。野生動物が戦う