[現代×文芸 名著60]言葉を楽しむ<25>男女の視点 書き分けに魅了…『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦著

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◎2006年刊。現在は、角川文庫(560円)
◎2006年刊。現在は、角川文庫(560円)

 平安時代に紀貫之によって書かれた、日本最古の日記文学といわれる『土佐日記』は、女性が書いた日記という態で記されている。また、昭和を代表する作家・太宰治の小説には短篇たんぺん「女生徒」、長編『斜陽』など〈女語り〉と呼ばれる、女性の一人称で書かれた一連の作品群があり異彩を放つ。森見登美彦の小説『夜は短し歩けよ乙女』も、これらの系譜に置いてみたい。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 本書は「先輩」という男性と、彼がひそかにおもいを寄せる「黒髪の乙女」という女性、二人それぞれの視点が入れ替わりながら、それぞれの一人称の語りで物語が展開していく。論理的で理屈っぽい「先輩」に対して(「諸君、異論があるか。あればことごとく却下だ」)、純真無垢むくな「黒髪の乙女」は、どこか浮世離れしているが、その瑞々みずみずしい感性がとらえた世界は、ときにはっとするほど詩的に描写される(「つい先ほどまであたりに満ちていた蒸し暑さがすうっと薄らいでゆき、なんだか懐かしいような甘ったるい雨の匂いがたちこめてきました」)。

 全四章はそれぞれ春・夏・秋・冬の京都を舞台に、夜の繁華街、神社の古本市、大学の学園祭、風邪が大流行する街中……と、モチーフを変奏させながら、味わい深い数多あまたの珍人物たちを巻き込みながら、目眩めくるめく展開する。縮まりそうでなかなか縮まらない二人の距離にヤキモキしながら、私たちは物語に没頭しながら、同時に、著者が男/女の語り口を書き分ける、その筆さばきにも魅了されている。この芸は、落語家が二人の人物を、都度角度を変え、声音を変えて語り分ける、あの芸にも似ている。

 あるいは歌舞伎の女形か宝塚の男役に例えたくなる、著者の〈女語り〉は至芸というべきで、私たちは「黒髪の乙女」に魅惑されずにはいられない。 (カニエ・ナハ 詩人)

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