[現代×文芸 名著60]言葉を楽しむ<27>クマ目線で綴る自伝…『雪の練習生』 多和田葉子著

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◎2011年刊、現在は新潮文庫(590円)。
◎2011年刊、現在は新潮文庫(590円)。

 ホッキョクグマ三代の物語だ。サーカスの花形だった「わたし」は、ロシアのサーカスでの生活や、芸を身につけた過程などを自伝として書こうと思い立つ。多和田葉子『雪の練習生』は、ホッキョクグマ目線でつづられた小説だ。

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 自伝は文芸誌に載り、翻訳もされる。「わたし」の暮らしは変わる。「ものを書くのは狩に出るのと同じくらい疲れる。獲物のにおいがしても捕まえられるとは限らない」。たとえばこのように、ホッキョクグマに託した感覚が、ユーモアを感じさせる言葉を得て、随所に出現する。

 ドイツに住む著者は、異文化に身を置く際に生じる違和感や言語の違いに基づく発見を鋭く描いてきたが、本作は、動物の目と立場で違和感を捉える。

 やがて「わたし」はカナダに移住。双生児を産む。生き残った女の子のほうの名前はトスカ。ドイツ統一直前にベルリンへ移住したトスカはサーカスで働く。舞台に出るようになり、人間のウルズラと組んで公演を成功させる。ベルリン動物園に売られることになるが「時代の変化にへこたれず」、遠く離れても互いにメールしようとウルズラと約束する。トスカは動物園でラルスと恋仲になり、クヌートを産む。

 ベルリン動物園の人気者となるクヌート。じつはトスカの育児放棄により、人間のマティアスに育てられる。「北極へ行ったことがないからって馬鹿にする人がいるけれど、マレーグマだってマレーシアに行ったことがない」。「わたしの毛皮が白いというそれだけの理由で北極生まれにされてしまう」。動物たちの状況が、人間の問題を映し出すのだ。かつてベルリン動物園に実在したクヌートから生まれたこの小説は、発見と挑戦を伝える。(蜂飼耳・詩人)

 

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