[現代×文芸 名著60]言葉を楽しむ<28>女性の心 音楽的文体で…『愛の夢とか』 川上未映子著

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◎2013年刊、現在は講談社文庫(550円)
◎2013年刊、現在は講談社文庫(550円)

 昨年公表された男女格差を測る指数の経済分野で日本は149か国中117位という停滞ぶり。著者初の短編集で描かれる女性たちも、社会に居場所を見つけられず、同居人がいる者でさえ家で孤立しがちだ。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 「アイスクリーム熱」の「わたし」はアルバイト先を解雇されると「何もできないままこんな大人になってしまったことを思いしらされ」、「日曜日はどこへ」の「わたし」は離婚後に事務職につくが「そこも長くは続かな」い。専業主婦である「お花畑自身」の「わたし」においては、手に職をつけた年下の女性に「ペットと何が違うの」と揶揄やゆされてしまう。

 本作に収録された短編には震災の余波のなかで書かれたものもある。震災は直接的には描かれないが、登場人物の日常に確実に影を落としている。

 心の傷を抱え、ひとり不安と無力感にさいなまれる「わたし」たちは、それでも人とつながろうと小さな一歩を踏み出す。常連客に声をかけ、隣人の誘いを受け、昔の恋人との約束を果たすべく思い出の場所へ向かう。

 だが「わたし」たちは他者との距離の取り方に戸惑う。お互いの本名を知らないまま時間を共有し、逆に「ガラスがなければ鼻が触れてしまうくらいの距離」へと踏み込んでしまう。そして「アイスクリームを食べる」「曲を弾く/聴く」などの儀式が幕を閉じると、関係も消滅し「わたし」たちは再び孤立する。

 川上未映子作品の魅力のひとつは、その音楽的な文体。多様な語り口が用いられる本作でもその独特なリズムは読者の心を揺さぶる。来年、著者の最新長編が十数か国で刊行されるが、その独特な文体がかされる形で翻訳がなされ、世界の書き手たちに刺激を与えることを期待したい。 (辛島デイヴィッド・翻訳家、作家)

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