[現代×文芸 名著60]言葉を楽しむ<29>源氏物語を語りなおす…『女たち三百人の裏切りの書』 古川日出男著

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◎2015年刊、新潮社(2500円)。
◎2015年刊、新潮社(2500円)。

 物語は平安時代末期。三位中将さんみのちゅうじょう藤原建明たてあきらの愛人「紫苑しおんきみ」にいたものが、病人にかわって霊を乗り移らせる憑坐よりましである少女「うすき」によって声をもって語りだす。物の怪は紫式部と名乗り、現在流布している『源氏物語』の「宇治十帖じゅうじょう」は改竄かいざんされたものだとして、それを語りなおそうとする。

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 本作は著者が得意とする「リミックス」、古典の一種のアダプテーションという性格を持つが、一筋縄では終わらず、『源氏物語』の人物にくわえて、語られる現在では東北の「蝦夷えみしたち」を操る商人「犬百いぬひゃく」、瀬戸内海の「海賊うみぬすびとたち」を率いる神「由見丸ゆみまる」が登場して跳梁跋扈ちょうりょうばっこする。物語の後半、語り手は三人の女に分裂し、それぞれの「宇治十帖」を全国に広めようとする。建明や由見丸だけでなく、台頭した源氏のような武士集団もおのれのための「宇治十帖」を手に入れ、権威づけに利用しようとする。つまりこれは、『源氏物語』という「国民文学」をいかに手中におさめるかをめぐっての、女たち、男たちの戦いの物語である。

 『源氏物語』が書かれてから百年ほどがった、権力闘争がくりかえされていた日本において、それは秩序を書きかえ、国家のあるべき姿をおのが意のままに作り直そうとする行為だった。おりしも貴族の世から、武士の世へと移り変わりつつあった時代。恋の駆け引きと婚姻をもちいた政治から、武力と武力がぶつかりあう闘争の時代へと――やはり著者の古川が本作の執筆後に新訳した『平家物語』の軍記物語の世界につながっていく。

 くりかえしの多い、大仰かつ外連味けれんみたっぷりの語り口や古語が多用される文体は好き嫌いがわかれるだろうが、ゲームのノベライズや音楽、演劇など様々なサブカルチャーにも携わってきた著者らしく、平成に一時代を築いたライトノベルと共通する手法だと言える。怪異譚かいいたん、伝奇物語、ファンタジー、SFなどの要素が混然一体となったハイブリッドな怪作だ。(秋草俊一郎・比較文学者)

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