[現代×文芸 名著60]言葉を楽しむ<30>生と性 青春の輝き…『学問』山田詠美著

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◎2009年刊、現在は新潮文庫(630円)。
◎2009年刊、現在は新潮文庫(630円)。

 自らの少年少女時代を思い返し、あの子と仲良くしたかった、こんな10代が送れていたならと、つい夢想にふけった経験は誰しもあるだろう。世の青春小説を読む理由は、自分ではかなわなかったテイク2の青春を、追体験するためかもしれない。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 『学問』には、静岡県の架空の町・美流間みるまでの、男女入り混じる子供たちの日常が描かれる。東京から越してきた7歳の仁美は、家の裏山で心太という同級生に出あった時から、一生ついて行く、と決意する。「フトミ」と彼にあだ名されても、それは信愛の情によると直感したからだ。

 誰からも慕われる心太、眠ることに貪欲な千穂、病院の跡取り息子で食いしん坊の無量。無量と結婚したくてたまらない素子も含めた、人間の欲求に忠実な彼らとの無垢むくな日々は、「世界で一番大きな極彩色の絵本の中」のようだと、仁美には感じられるほどだ。

 「おれには、我儘わがまま、どんだけ言ってもいいだよ。フトミの我儘聞くと、いつも笑けて来るだに」

 ぬくぬくとした心太との関係の一方、仁美もやがて性の目覚めを迎える。「足の間の秘密の儀式」を通し、自分の欲望のありようを学びとるのだ。学ぶことの愉悦と怖ろしさという、著者が得意なテーマは、本作でも光る。世界の複雑さに触れる学びとは、純粋性の喪失でもある。心太の涙、つまりは男の弱さを知った17歳までで、物語はいったん終わる。

 生があれば死もある。章ごとに短い死亡記事がおかれ、仁美たちの5人の、年齢も理由も異なる死の瞬間が示される。生と性の輝きに満ちた時間の、後日談。この巧みな構成により、大人になった読者は、死の側から青春の一ページを眺めるだろう。そのきらめきは、いっそう身にしみいる。(江南亜美子・書評家)

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