[現代×文芸 名著60]社会と接する<32>漂着の島 協力と裏切り…『東京島』桐野夏生著

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*2008年刊、現在は新潮文庫(630円)。
*2008年刊、現在は新潮文庫(630円)。

 銀行の仕事を辞めた夫・隆とその妻・清子が、世界一周をめざす船旅の途中で遭難し、無人島に漂着する。桐野夏生『東京島』は、どことも知れないこの島を舞台に展開される。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 やがてフリーターの若者が二十三人、漂流の末に島へ上陸する。さらには、ホンコンと呼ばれることになる中国人が十一人、島に置き去りにされる。清子以外は全員男性。しかも四十六歳の清子が最年長。なんという環境と条件だろう。

 トウキョウと名付けられたこの島で、清子は男たちの欲望の対象となる。争いが起こり、死者も出る。籤引くじびきで新しい夫を決めることになったり、共同体を形成するための協力や努力、また反目が生じる。この環境での日々が清子を変える。欲望やうそに慣れた判断や行動に身を任せるようになる。そこで気づく。変わる、ということが、この作品のテーマの一つなのだと。

 記憶喪失らしいGM、ヤンキーで粗暴なカスカベ、共同体から外され、中身が不明のドラム缶がいくつも転がるトーカイムラと名付けられた浜に一人で暮らすワタナベ、北の森に住み寺院を作るマンタ、小説家志望だったオラガ。こうした男たちは、各人の方法で島の暮らしに適応する。脱出計画、裏切りと疑いが、ホンコンも含め、集団のバランスを大きく変える。もっとも富める者は、船を手に入れる者だ。島からの脱出こそが夢だから。

 女性性をめぐるモチーフが、清子を軸として重層的に描き出され、著者の力量が発揮される。人間を取り巻くシンプルな構図には、創世神話の趣きさえ漂う。生き延びようとする人間の本能を、容赦なくあぶり出す作品だ。個人と集団と社会性の間に生じる摩擦熱に似たものが、脳裡のうりに焼き付けられて消えない。(蜂飼耳・詩人)

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