[現代×文芸 名著60]社会と接する<32>漂着の島 協力と裏切り…『東京島』桐野夏生著
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銀行の仕事を辞めた夫・隆とその妻・清子が、世界一周をめざす船旅の途中で遭難し、無人島に漂着する。桐野夏生『東京島』は、どことも知れないこの島を舞台に展開される。
やがてフリーターの若者が二十三人、漂流の末に島へ上陸する。さらには、ホンコンと呼ばれることになる中国人が十一人、島に置き去りにされる。清子以外は全員男性。しかも四十六歳の清子が最年長。なんという環境と条件だろう。
トウキョウと名付けられたこの島で、清子は男たちの欲望の対象となる。争いが起こり、死者も出る。
記憶喪失らしいGM、ヤンキーで粗暴なカスカベ、共同体から外され、中身が不明のドラム缶がいくつも転がるトーカイムラと名付けられた浜に一人で暮らすワタナベ、北の森に住み寺院を作るマンタ、小説家志望だったオラガ。こうした男たちは、各人の方法で島の暮らしに適応する。脱出計画、裏切りと疑いが、ホンコンも含め、集団のバランスを大きく変える。もっとも富める者は、船を手に入れる者だ。島からの脱出こそが夢だから。
女性性をめぐるモチーフが、清子を軸として重層的に描き出され、著者の力量が発揮される。人間を取り巻くシンプルな構図には、創世神話の趣きさえ漂う。生き延びようとする人間の本能を、容赦なく