[現代×文芸 名著60]社会と接する<34>就活 自分を問う通過儀礼…『何者』朝井リョウ著
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一昔前、新しいゲームソフトを買うと箱に必ず説明書が入っていた。世界観やキャラクター紹介、美しいイラストをゲームの合間に眺めるのが
就職活動中の若者たちの葛藤を描く本書では、巻頭に登場人物たちのツイッタープロフィールが掲載されている。見開きのページに並ぶ、6名分のアイコンやアカウント名、自己紹介文を見ていると、ゲームを始める前のような
同じようなスーツを着て、同じような髪型に見える就活生の胸の内を、著者は丹念に
企業に提出するエントリーシートで、就活の合間に更新するツイッター上で、そこには選ばれた言葉と選ばれなかった言葉が存在する。目に見える言葉だけに、人は
「何者」という簡潔なタイトルにも、選ばれなかった言葉が潜む。何者という言葉からは、「お前は何者だ?」という問いが想起される。就活生たちは他者に「何者だ?」と問われ続け、自分自身にも問い続けるうち、「何者でもない自分」に直面する。その「何者でもない自分」に気づき、向き合っていくことこそ、大人への通過儀礼であり、就活なのだ。読後、「何者」が表す意味は読者の前で反転する。(澤西祐典・作家)