[現代×文芸 名著60]社会と接する<34>就活 自分を問う通過儀礼…『何者』朝井リョウ著

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

◎2012年刊、現在は新潮文庫(590円)。
◎2012年刊、現在は新潮文庫(590円)。

 一昔前、新しいゲームソフトを買うと箱に必ず説明書が入っていた。世界観やキャラクター紹介、美しいイラストをゲームの合間に眺めるのがたのしみだった。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 就職活動中の若者たちの葛藤を描く本書では、巻頭に登場人物たちのツイッタープロフィールが掲載されている。見開きのページに並ぶ、6名分のアイコンやアカウント名、自己紹介文を見ていると、ゲームを始める前のような昂揚感こうようかんが湧いてくる。と同時に、もはや見慣れたツイッターなどのホーム画面で、私たちがいかに自身の存在を、簡単な言葉に置き換え、周囲にPRしてきたかに気付かされる。わかりやすく、簡潔に。ツイッターでは140字以内で。面接では、まずキーワードから。

 同じようなスーツを着て、同じような髪型に見える就活生の胸の内を、著者は丹念にみ取っていく。「ほんの少しの言葉の向こうにいる人間そのものを、想像してあげろよ、もっと」と、ある登場人物は語る。

 企業に提出するエントリーシートで、就活の合間に更新するツイッター上で、そこには選ばれた言葉と選ばれなかった言葉が存在する。目に見える言葉だけに、人はとらわれがちだ。何でもない言葉を簡単に放てる時代だからこそ、大切なものが埋没し、言葉にならない声は押し殺される。

 「何者」という簡潔なタイトルにも、選ばれなかった言葉が潜む。何者という言葉からは、「お前は何者だ?」という問いが想起される。就活生たちは他者に「何者だ?」と問われ続け、自分自身にも問い続けるうち、「何者でもない自分」に直面する。その「何者でもない自分」に気づき、向き合っていくことこそ、大人への通過儀礼であり、就活なのだ。読後、「何者」が表す意味は読者の前で反転する。(澤西祐典・作家)

スクラップは会員限定です

使い方
「エンタメ・文化」の最新記事一覧
1055078 0 特集 2020/02/16 05:00:00 2021/04/08 17:35:49 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/02/20200215-OYT8I50019-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)