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[現代×文芸 名著60]社会と接する<35>現実離れした仕事転々…『この世にたやすい仕事はない』 津村記久子著

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◎2015年刊、現在は新潮文庫(670円)。
◎2015年刊、現在は新潮文庫(670円)。

 日々の労働とその対価を食費やささやかな遊興費や家賃に充てる。津村記久子はそんな普通の労働者階級の人々を繰り返し書く。非正規雇用の増加にあって、会社でのモラハラに精神を病んだり、工場労働で将来を不安視したりする女性たちのリアルな本音と生活は、共感を呼んできた。

 『この世にたやすい仕事はない』も、広くは「お仕事小説」に分類されるだろう。しかし本書での労働は少し現実離れしている。前職で燃え尽き症候群のようになった主人公は、職業安定所で「コラーゲンの抽出を見守るような仕事」を求める。すると、ありそうでありえない不思議な仕事を次々に紹介されるのだ。

 たとえば、監視カメラで小説家の日常をただ見続けること。またはおかきの袋の裏に印刷される雑学ネタを考えること。巨大な森の小屋で日がな過ごすこと。

 運行中のバス内で流すアナウンスの文言を作成する仕事では、停留所付近の商店や施設の宣伝アナウンス通りに、店や町や沿線が現れたり消えたりする感覚におちいる。時給や作業のディテールはリアルなれど、全体的にファンタジー風味の可笑おかしさがあるのが本書の特徴だ。

 なぜ人は働くのか。生活のため? 人間関係に傷つき、尊厳が損なわれるまで離職しなかったこれまでの津村作品の登場人物と違って、本書の主人公は軽やかに転職をかさねる。

 「どの人にも、信じた仕事から逃げ出したくなって、道からずり落ちてしまうことがあるのかもしれない」

 マジメな人ほど苦境に追い込まれやすい同調圧力の強い現代社会で、人生の寄り道や一時休息の時間を、大丈夫だよ、と受け止めてもらえばどんなに気が楽になるだろう。本書にはそんなおおらかさがある。(江南亜美子・書評家)

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1067186 0 特集 2020/02/23 05:00:00 2021/04/08 17:35:45 津村記久子『この世にたやすい仕事はない』 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/02/20200222-OYT8I50024-T.jpg?type=thumbnail

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