[現代×文芸 名著60]社会と接する<40>孤独選んでも絆求め…『妻が椎茸だったころ』中島京子著

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◎2013年刊、現在は講談社文庫(550円)。
◎2013年刊、現在は講談社文庫(550円)。

 偶然に思える出会いも、実は全て必然の出会いなのでは。読後そう改めて思わされる。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 日本では近年「単独世帯」が増えているが、妻に先立たれた表題作の男性や自宅で翻訳の仕事をする女性など、本短編集の登場人物の多くは1人で暮らしている。自ら孤独を選んでいるようにも見える彼らは、植物、石、レシピ、元夫の写真などを大切にコレクションし、自分だけの小宇宙を作り上げている。目の前の人物や事柄よりも自然や過去との結び付きが強く、そのこだわりの深さは時に狂気の域に達する。

 本作に収録された5編は、卒業を控えた大学生から定年退職したばかりの者まで、それぞれ異なるライフステージにある人物の視点で進む。海外出張から家族の死まで、さまざまな「旅立ち」をきっかけに、孤独を好む人物たちと出会い(もしくは日記の言葉などを通して再会し)、それぞれのプライベート空間に一歩踏み込むことになる。そして、日常と幻想が交錯する場所で共有される物語に感情や想像力を呼び覚まされる。

 進んで孤独を選んでいるように見える者たちも、他者とのつながりを求め、機会あればそっと手を差し出す。その結果は常に典型的なハッピーエンドとはいかない。幻想に魅せられ、自らの世界に閉じこもる者もいる。だが、そこに救いがあることも少なくない。つかの間の出会いをきっかけに現実世界と向き合い、家族との絆を深めようと決意する者もいる。

 世界の人口の約半分が何らかの封鎖状態にあり、孤立する人が更に増える危険のあるなか、新たな出会いの大切さや時空を越えて人をつなぐ物語の力を実感させられる一冊だ。

(辛島デイヴィッド・翻訳家、作家)

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