[現代×文芸 名著60]社会と接する<41>非常事態で露呈 国の課題…『半島を出よ』村上龍著

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◎2005年刊、現在は幻冬舎文庫(上・724円、下・762円)。
◎2005年刊、現在は幻冬舎文庫(上・724円、下・762円)。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、カミュの『ペスト』や、デフォーの『ペストの記憶』が話題だ。優れた書物は、現代を照らす明かりとなる。非常事態下であぶり出される社会のありようを描く本書も、そんな一冊といえよう。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 2011年の春、わずか9名の北朝鮮の武装コマンドが密入国し、プロ野球の開幕戦で盛り上がる福岡ドームを占拠する。北朝鮮の「反乱軍」を名乗る彼らは、福岡の独立を宣言する。

 想定外の非常事態に、日本政府は混乱を来し、対応も後手に回る。相手が「反乱軍」を名乗っているため、日本国内の内乱とみなされ、国連やアメリカ、中国といった周辺諸国から具体的な支援は得られない。皇居と国会が攻撃されるといううわさが追い打ちをかけ、政府は場当たり的に福岡の「都市封鎖」に乗り出す。その事務処理能力と熱心さはすさまじく、非常に難しい複雑な指示を何十か所にも発し、何十万という人間を動かすが……。

 本書では、日本という国の抱える問題が次々に提示される。少年犯罪、ホームレス問題、所得格差、個人情報の流出、日米安保条約、憲法9条…本書の発表から15年。我々はこれらの大きな宿題にいまだ応えられていない。

 しかし、巨大な構想を持つ本書の中で、もっとも紙幅の割かれるのは、こういった諸問題とはまた別のところにある。閣僚や少年犯罪者、北朝鮮の兵士に至るまで、登場人物一人ひとりの生い立ちや来歴が、意外なほど細やかに描出される。マジョリティーや強者のための組織に押し潰される個人をすくい上げようとする著者の強いメッセージがにじむ。「真の退廃とは、多数のために力のない少数者が犠牲になること」。作中の言葉が、今、痛烈に響く。(澤西祐典・作家)

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