ゴールデンウィーク<2>「わたし流読書」

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 ゴールデンウィークの過ごし方はもうお決まりでしょうか。遊びに出かけることができない今、家でできることといえば、インターネットにテレビゲーム、ゴロ寝……? いや、ここは読書でしょう! 本との出会いが、私たちの心をなごませ、日頃のストレスを解消します。そんなとっておきの一冊をご紹介します。

山本周五郎著『季節のない街』(新潮文庫、670円)

 木内昇(作家)

 その街の住人たちは、日々の暮らしに追われていた。敗戦の年に栄養失調で父を亡くした辰弥、倹約を極めるおるいさん、豪邸を建てる夢想を語り合う戸外生活の父子。そして、彼らに優しく寄り添うたんば老人。

 それぞれ生きる姿は違っても、いずれも人間臭く懸命で、時にわびしく、なにより美しい。各短編には胸のきしむ場面もあるが、住人たちに向ける周五郎の視線はどこまでも温かいのだ。

 不条理の只中ただなかにあると人は、自分と意思の異なる他者を攻撃しがちだ。だが、誰しも事情や背景がある。本当は様々な人がいるから世界は豊かなのに。

村井昭夫、鵜山義晃 文・写真『雲のカタログ 空がわかる全種分類図鑑』(草思社、1900円)

 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

 日々せわしない私たちは滅多に空を見上げない。だが、そこには不思議なものが存在している。瞬く間に千変万化する雲だ。

 本書は、空の楽しみ方を教えてくれる貴重な入門書。世界気象機関の正式な分類に従って、百種類近くの雲が写真とともに紹介されている。科学的な知識の説明もある。

 雲を趣味にすると人生の楽しみ方が広がると思うのは私だけではないはずだ。あの雲は高度何千メートルとか、前線がこちらに向かっていることを雲の変化で確かめるとか。そんなことを家族で共有したりするのも、楽しい時間ではないだろうか。

竹内均監修、堀ノ内雅一・シナリオ、よしかわ進・漫画『学習漫画 世界の伝記 ニュートン 万有引力の法則を発見した科学者』(集英社、900円)

 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 自宅にこもらなければならなくなったとき、私が真っ先に思い出したのは、息子に読み聞かせてやったことがあるニュートンの伝記だった。

 ニュートンがケンブリッジ大学の学生のとき、感染症のペストがイギリスを襲った。大学が閉鎖された1年半の間、ニュートンは故郷の自宅に戻り、あり余った時間で、万有引力の法則を含む「三大業績」の基礎研究を固めてしまった。

 今、こうしているうちにも、世界史を塗り替える発見をしている人がどこかにいる。ニュートンの伝記を親子で読んで、そのことを想像してみよう。

山口晃著『すゞしろ日記』(羽鳥書店、2500円)

 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 現代美術家による肩の凝らないエッセイ漫画だ。著者の画風は、超絶的に精緻せいちに描きこみ、洛中洛外図かと思いきや、武士がバイクに乗ったりと自由だ。居職いじょくで絵描きという立場で、「山愚痴屋」と名乗る。グチをこぼしながら、家庭の細々としたこと、料理や近所のことなど、日々の事柄をゆるゆるほんわか書いてある。太っちょの犬ポチが私のお気に入り。絵も字も枠も手書きの本だ。現代の日常がいにしえの日本画風に描かれる風雅、つい噴き出してしまいます。健やかな眠りと安らぎを与えてくれる本です。毎晩読んでます! もう私は手放せません。

川地あや香著『おやつとスプーン』(パイ インターナショナル、1500円)

 通崎睦美(木琴奏者)

 著者は、東京から山形に移住して8年になる金工作家兼お菓子作家。「家のおやつ」のレシピを、自ら撮影した日常風景の写真と共に紹介する。自作のスプーンや製菓器具、そしてお菓子は、素朴な暖かみを持ちながらも、すっきりと整っていて、気持ちが良い。食べることが息抜きになる日もあれば、作ることで心が落ち着いていく日もあるという著者。そんな暮らしを見せてもらうだけでこちらもほっこりする。きなこクッキーやおからドーナツなど気取らぬお菓子に創作欲をそそられるが、結果、何も作らなくても罪悪感を覚えない。稀有けうなレシピ本。

あたちたち著『しばいぬのあたちたち』(KADOKAWA、980円)

 宮部みゆき(作家)

 SNSで人気のコミックの書籍化。シンプルな四コマで描かれる柴犬の「あたちたち」は、読みながらほのぼのと笑い、いつの間にか涙ぐんでしまうほどに愛らしい。飼い主と柴犬の日記ふうエピソードには、わんこに限らずペットと暮らしている方なら、「あるある」とうなずいてまた笑えるはずです。

 柴犬がウエイターを務めるその名も「Shi.bar」も楽しいけれど、本書のいちばんの魅力は何といっても「こいぬ」君。「だっこやさん」の「出張だっこ」や「しょっちゅうだっこ」、そして「そばにいるよ」でなごんでください。

田辺聖子著『楽天少女通ります 私の履歴書』(ハルキ文庫、629円)

 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

 「楽天少女」いうても、ネット関係とちゃいます。スヌーピーが大好きやった田辺聖子さんのこと。大阪の下町、笑いの絶えへんかった田辺写真館に生まれた「おせいさん」の自叙伝です。

 戦争中も貧しかった時も、ユーモアを忘れずにいつも笑ってた文学少女が、みんなに愛されながら「大阪弁でサガン」を書ける小説家になっていかはる話。

 そやね、「ふりかえればトータルして〈人生はいいもんだ〉―という思い」って、ホンマにええね。きっと、いつかそう思えるはずやわ。暗いご時世やけど、これ読んだら希望に心が和みましたわ。おおきに、ほな。

藤沢周平著『蝉しぐれ』上・下(文春文庫、上巻660円、下巻650円)

 橋本五郎(本社特別編集委員)

 はかなく淡い「恋心」、打算とは無縁の混じりけのない「友情」、自分もかくありたいと心から願う他者への「畏敬」……。それが「青春」なのだろう。その青春も現実にもまれて失われていくのが人の常である。

 しかし、この小説はあたかも山深く流れる清冽せいれつなせせらぎのように、帰らぬ青春をよみがえらせてくれる。お家騒動の中で自らの信念に基づいて従容として死に赴いた父への変わらぬ尊敬。そして隣家の娘ふくへの灰の中の熾火おきびのように燃え続けた恋。

 如何いかんともしがたい運命のなかでの文四郎とふく(お福さま)との別れは哀切に満ちている。

井伏鱒二著『荻窪風土記』(新潮文庫、490円)

 尾崎真理子(早稲田大教授、本社調査研究本部客員研究員)

 関東大震災(1923年)を機に拡張した東京郊外、その一つ荻窪。詩人や作家志望者が集まり始めた戦前の風景と人情を、80代の井伏が回想している。

 震災直後の惨状、2・26事件の動揺が克明に残される。猩紅熱しょうこうねつを疑われ、自身が収容措置にも遭っている。貧窮、戦争の影も濃く、長くきつい時代が続いたようだ。その中で井伏は生活のために原稿を書き、合間には近所の人々と立ち話し、将棋を指し、絵を描き、子供と遊び、釣りに行く日常を淡々と保つ。すべてが今より格段に静かで穏やかで、ほの温かい。

 単行本は1982年刊。

アントン・チェーホフ著、ユーリー・リブハーベル絵、児島宏子訳『たわむれ』(未知谷、2000円)

 番外編 よみうり堂店主

 真冬のロシア。雪原でそり遊びに興じる若い2人。スピードを上げながら斜面を滑り降りるそり。男は風切り音に紛れるように小声で少女にささやく。私はあなたを愛しています――。スリルと興奮の頂点で耳にした愛の言葉を、少女は忘れることができず、男が去った後も一人、そりを引いて丘をめざす。

 短編の名手による刹那のラブストーリーは、一瞬のうちに生まれては消えるはかない喜び、そこから芽生え、思い出の中に生き続ける至福の感情を描く。2人だけの秘密がはぐくんだ追憶の物語は、読者の心の中でいつまでも宝石のように輝く。

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1195325 0 特集 2020/05/03 05:25:00 2020/05/03 12:31:58 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200428-OYT8I50026-T.jpg?type=thumbnail

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